打ち上げ大成功! 人工衛星「みちびき」によって変わるクルマの未来とは?
くるまのニュース / 2021年10月28日 17時10分
2021年10月26日11時19分39秒、種子島宇宙センターからみちびき初号機後継機の打ち上げがおこなわれました。準天頂衛星となるみちびき初号機後継機ですが、みちびきによりカーナビの測位精度向上だけでなく、自動運転などの発展に寄与するといいます。あらためて「みちびき」とはどのようなものなのか考えます。
■「みちびき」は日本が独自に構築する衛星測位システム
2021年10月26日、日本の人工衛星「みちびき(準天頂衛星システム)」の「初号機後継機」の打ち上げがおこなわれました。
この「みちびき」は重要な用途のひとつが、カーナビなどの「自車位置測位精度の向上」です。その具体的な内容の前に、カーナビが自車位置をどのように測位しているのか、簡単に紹介しましょう。
人工衛星を使い地球上の特定の地点を測位するシステムの元祖は、アメリカが軍事目的で打ち上げた約30個の「GPS(Global Positioning System)衛星」です。それぞれのGPS衛星は非常に正確な時計を持っており、その時刻を含んだ測位信号を地上に向け発信します。
地上のGPS受信機は、受信した信号に含まれる送信時刻と実際に受信した時刻の差から、それぞれの衛星との距離を測定します。そしてその距離をもとに、地球上の「どこにいるのか」を判断、自車位置を特定し、地図上に表示するのです。
GPS受信機に搭載される時計が正確であれば、測位には最低3つのGPS衛星の信号があれば大丈夫ですが、実際には正確な時刻を知るためにもうひとつ、合計4つの衛星を利用します。
さきに紹介したように、このシステムは当初軍事目的でのみ利用されていましたが、1990年代なかばに民間に開放され、それがカーナビ誕生の端緒となりました。
また開放当初は意図的に測位精度を落とす「誤差信号」が含まれていたため、カーナビ各社は車速信号やジャイロ、地図上の道路の形状と走行軌跡の照合などをおこない、精度を高める工夫をしていました。
しかしこの誤差信号も2000年には解除され、現在はGPSだけでもかなり正確な自車位置測位ができるようになっています。
このようにアメリカの主導ではじまった衛星を使った測位システムですが、現在ではロシアの「グロナス」、EUの「ガレリオ」など、各国が独自の衛星を打ち上げ、運用しています。
なおこれらを総称して「GNSS(全球測位衛星システム)」と呼びますが、アメリカのGPSが古くから知られていることから、他国の衛星測位システムも含め「GPS」と呼ばれることも少なくありません。
そして「みちびき」は、我が国が独自に構築する衛星測位システムのため、打ち上げられた衛星です。
初号機は2010年9月に打ち上げられ、2017年には続いて2号機から4号機が追加され、4機体制で運用を開始しました。
■より正確な測位で安全な自動運転も
今回打ち上げが成功した初号機後継機は、耐用年数を迎える初号機に替わるもので、将来的にはさらに3機が追加され、合計7機体制となることが決まっています。
では、みちびきは、どのように測位精度の向上を図るのでしょうか。
1990年4月に登場したユーノス・コスモのCCS(カーコミュニケーションシステム)は、世界初のGPSを使用したカーナビとなった
じつはみちびきは、GPS衛星と互換性のある信号を使いつつも、その軌道は日本に向けたサービスに特化しています。
GPS衛星はアメリカが全世界での測位を考えて構築していることから、それぞれの衛星は地球を周回する軌道を描いています。そのため、日本から衛星を見上げる角度が小さい場合は、山や高層ビルなどへの電波の反射の影響で、測位に誤差を与えることがありました。
しかしみちびきは「準天頂軌道」という、日本からオセアニア上空を南北に縦長の「8の字」を描く軌道を周回し、GPS衛星に比べより長い時間、日本の上空にとどまります。そのため反射の影響を受けにくく、より正確な測位ができるのです。
さらに、GPS衛星の信号とは異なる信号や技術を使い、自動運転を支援する超高精度の測位も可能としています。
ホンダレジェンドに搭載された「Honda SENSING Elite」は、みちびきの「SLAS(サブメータ級測位補強サービス)」、「SBAS(衛星航法補強システム)」で得た情報と、加速度センサー、ジャイロセンサーの情報を組み合わせ、車線を判別できるレベルの詳細な自車位置を判断します。こうした技術により、量産車として世界初の「自動運転レベル3」が実現したのです。
ホンダ・センシングエリート搭載のホンダ「レジェンド」。世界初の自動運転レベル3を実現
さらにみちびきには、自車位置測位の支援のほか、地震や津波などの情報を伝える「災危通報」のプラットフォームとしての役割もあります。
これは気象庁などが発表する情報をみちびき経由でデジタルサイネージなどの屋外設備、カーナビなどの車載機器に送信し、山間部など一般の手段では情報伝達が難しいエリアでも災害情報を迅速に入手できるという仕組みです。
パナソニックが10月に発表したETC2.0車載器「CY-ET2620GD」は、この災危情報に対応、カーナビなどとの接続なしに、気象庁から発表された緊急地震速報、津波警報、気象特別警報などを音声案内します。
みちびきの支援で安全な自動運転が実現、万一の災害情報もいち早く知り迅速に避難できる。そんなクルマ社会の到来が待ち遠しいですね。
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