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誰が予想出来た? トヨタ「水素カローラ」日本の強みで大幅進化! その先にある水素の挑戦はどうなる?

くるまのニュース / 2021年12月2日 17時10分

トヨタはモータースポーツの現場で「水素の技術」をさらなる高みに挑戦するため、水素カローラで参戦してきました。果たして、その結果はどうなったのでしょうか。

■着実に進化を続ける水素カローラとは

「水素技術を活用して、内燃機関の可能性を探る」

 それが2021年5月の富士24時間耐久レースから始まった水素エンジンを搭載したカローラスポーツの先行開発車両(以下水素カローラ)による参戦です。

 その初陣はある意味「満身創痍」な戦いでしたが、8月のオートポリス、9月の鈴鹿と短い期間で着実に進化を遂げてきました。

 毎戦ごとのマシンの進化やレースウィークのアレコレは、すでに克明にレポート済みですのでここでは割愛しますが、この半年で確実に「手の内化」されてきました。

 これこそがGRが提唱している「モータースポーツを起点にした開発」の本質だと筆者(山本シンヤ)は考えています。

 形になりにくい先行開発技術をモータースポーツという厳しいステージに投入することで、結果や課題が明確になること。

 さらに納期(=レースウィーク)が明確なので、そこに至るまでの仕事の進め方のマインドセットが起きることです。

 この辺りは、元トップガンで豊田章男社長のドライビングの先生だった成瀬弘氏(故人)が生前語っていた「大事なことは言葉やデータでクルマ作りを議論するのではなく、実際にモノを置いて、手で触れ、目で議論すること」が、浸透している証拠といえるでしょう。

 また、参戦当初はある意味「孤高の存在」でしたが、戦いを重ねる毎に仲間が次々と増えてきました。

 この仲間たちの活動は以前から目立つことなくコツコツとやっていたといいますが、水素カローラの挑戦が表に引っ張り出したといっていいでしょう。

 この辺りは豊田社長の「自動車産業をペースメーカーにしていただきたい」の発言がひとつの形になったといってもいいかもしれません。

 そして、2021年11月13日、14日に岡山国際サーキットで開催されたスーパー耐久シリーズの最終戦の水素カローラはどのような形となったのでしょうか。

 すでに2022年シーズンの参戦も発表していますが、ある意味ひとつの集大成となるこの戦い。まずはマシンの進化からです。

 エンジンは前回の鈴鹿でガソリンエンジン同等のパワー/トルクを実現。

 エンジン開発を担うGRパワートレイン推進部の山崎大地部長は「次戦(=岡山)ではガソリン車超えを目指す」と語っていましたが、それが早くも実現しています。

 具体的な伸び代は、「出力は鈴鹿比で10%の向上、富士比で24%の向上」とGRプロジェクト推進室部長である高橋智也氏から発表がありましたが、その後モリゾウ選手(豊田社長のレーシングネーム)は「出力は300ps!!」と明言。

 トルクは富士比で33%向上、鈴鹿比で5%から10%の向上ということなので、計算をすると390Nmから400Nmです。

 ちなみに逆算をすると、富士は258ps/300-308Nmで戦っていたことになります。

 では、どのようなアップデートをおこなわれたのでしょうか。実は今回も飛び道具はなく「燃焼改善」がメインです。

 具体的には水素の吹き方、過給圧、圧縮圧の見直しなどをおこなったといいます。

 オートポリスくらいから燃焼の中身が見え、異常燃焼のメカニズムが解ってきたそうですが、さらに見ていくと「燃える所/燃えていない」所があり、それをさらに深堀していった結果だといいます。

 水素エンジンはプレイグニッション(異常燃焼)の制御がキモで、GRカンパニープレジデントの佐藤恒治氏は、「インジェクターをどのように高圧しながらたくさん吹き、かつプレイグニッションが起きないように上手に混合気を形成する『流れ』、『タンブル』を作ることが課題」と語っていますが、その辺りが解ってきたのでしょう。

 もちろん量産化を視野に入れたプロジェクトですのでマージンは一切削っておらず、24時間走り切る耐久・信頼性を担保したうえでの進化であることは今回も変わりません。

 ちなみに鈴鹿では出力アップが主で燃費改善の伸び代が少なかったのですが、今回はその辺りも抜かりなしです。

 やり切れていなかったリーン燃焼の追及の結果、燃費は富士のときと同等のレベルだそうです。

 ちなみに“普通”に走らせたときの燃費ですが、「WLTCモードで計測すると、むしろガソリンよりもいい値が出ています(山崎)」という発言も。

 ちなみに水素エンジンでのモータースポーツ参戦のひとつの要でもある「給水素スピード」のアップデートもおこなわれています。

 富士では4分30秒、オートポリスでは2分30秒、鈴鹿では2分20秒だったが、岡山ではついに2分切りとなる1分50秒とさらに短縮。

 前回は左右2系統の構造変更でしたが、前出の高橋氏は「今回は昇圧のスピードを上げています。圧を上げると水素が入るスピードは上がりますが、同時にタンクの温度も上がってしまいます。その温度変化を細かくモニタリングすることで安全性を担保しながら、スピードアップを可能にしました」とのことです。

 ただ、岡山はレイアウトの問題で給水素までの導線が長く、時間短縮の効果が解りにくかったのは残念でした。

■水素カローラ、タイムはどうなった?

 シャシ側の進化はどうでしょうか。

 前回の鈴鹿では大きく手は入っていましたが、今回は細かい部分のアップデートがメインのようです。

 水素カローラの開発を担当するGRプロジェクト推進部の坂本尚之主査によると「軽量化技術を盛り込んだフロントサスメンバーと新たな4WD制御を採用。このプロジェクトは水素エンジンだけでなく『カローラを鍛える』というミッションもありますので、量産のフィードバックも視野に入れています」と語っています。

 ちなみに水素カローラの4WDシステムは「GRヤリス」譲りとなる電子制御多板クラッチを用いた「GR-FOUR」ですが、実はエンジンの進化により手を入れた部分です。

「エンジンの進化で過渡的な特性が変わったのでリアの追従性を上げる必要がありました。

 当初は多板クラッチの応答性を上げる方向で進めていましたが、FFベースかつイニシャルの強いデフのため拘束が悪さをしてしまい、逆にターインでプッシュアンダーやタイトコーナーブレーキ現象のような症状が起き曲がりにくくなりました。むしろ、少し遅らせて応答させてたほうがいいことが解りました」(前出の坂本氏)

半年で何と6秒もアップした水素カローラ半年で何と6秒もアップした水素カローラ

 そんなマシンの進化について、ドライバーはどのように感じているのでしょうか。

 開発ドライバーも務める佐々木雅弘選手は「サスメンバーの改良でよりレーシングカーらしい動きになってきました。例えるなら動いてほしい所はシッカリ動き、動いてほしくない所は動かないという感じですね」とコメント。

 モリゾウ選手は「これまでの進化で、プロにいわせれば『競争できるクルマ』になっています。車両重量は重いうえにその重量物は上側に集中、おまけに計測器も搭載と、普通なら非常に運転し辛いはずですが、今回はまるでGRヤリスを運転しているかのような感覚で走ることができました」とその進化に手ごたえを感じていたようです。

 予選タイムはAドライバーの井口卓人選手が1分45秒240、Bドライバーの佐々木雅弘選手が1分45秒137を記録。

 鈴鹿でのタイムはST4クラスの一番遅いマシンの5秒落ちでしたが、今回はほぼ同等と性能アップがタイムでも証明。

 ただ、エンジニアサイドは「もう少し詰められると思ったが……」という反省もあったようです。

 これは岡山のコースがタイトコーナーが多いため重量的なハンデが鈴鹿よりも響いたこと、ギア比が適正ではなかったことなどが原因だったそうです。

 ちなみにこの岡山に入る前に富士スピードウェイでおこなわれたテストでは1分58秒代を記録。

 富士24時間のときのファステストラップは2分4秒059だったので、この半年で何と6秒もアップ。この伸び代こそ「アジャイルな開発」の成果のひとつになります。

 今回はマシンのポテンシャルアップだけでなく、タイムに表れない大きな変化がありました。

 これまでは練習走行、予選、決勝までの夜の作業はトラブルシュートや大規模なセットアップ変更、乗せ換えなどでメカニックは遅くまで作業をおこなっていましたが、今回はそのような作業は生じず、早い時間に宿泊先に戻り夕飯を食べることができたそうです。

 つまり、レースオペレーションの手の内化が進んだわけで、「レースをやるレベルになった」といってもいいかもしれません。

■なぜサーキットで「布団乾燥機」が活躍?

 ただ、何もなかったわけではありません。実は今回、モータースポーツシーンでは使うはずのない「布団乾燥機」が活躍しました。

 水素タンクは使う程に温度が下がるため、最初にどれだけ温度を上げておくがポイントとなります。

 これまでは比較的気温の高い時期のレースだったことから問題が起きませんでしたが、寒い岡山ではそうはいかず。「水素タンクの温度管理如何で周回数は3、4周くらい変わります。

 そこで布団乾燥機の登場でタンクに巻いて20度くらいまで上げてから使っていました(山崎)」。これも現地現物ならではのエピソードです。

 朝8時半からの3時間の決勝はトラブルフリー、給水素とドライバー交換以外は一度も止まることなく走り切りました。実はこれ、参戦以来はじめての事となります。

 決勝の最終ドライバーであるモリゾウ選手は、レース終盤に水素カローラと同じST-Qクラスにスポット参戦をおこなった次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用したマツダスピリットレーシング・バイオコンセプト・デミオとランデブー走行をおこない、一緒にチェッカーを受けました。

次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用したマツダスピリットレーシング・バイオコンセプト・デミオ次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用したマツダスピリットレーシング・バイオコンセプト・デミオ

 今回、水素カローラは3時間で85LAPを走りました。決勝時のベストタイムは松井孝允選手が記録した1分45秒463。実はこれはST-4クラス1位のトヨタ86のベストタイム(1分45秒509)を上回るタイムです。

 レース後にモリゾウ選手に話を聞くと、「富士の時は24時間持つ自信もない、私だけでなくプロもST5にどんどん抜かれる状況でした。しかし、僅か半年でST4を抜くレベルになり、競争ができるようになりました。充電時間もかなり短くなりましたが、まだまだ……。勝てるようになるかはまだわかりませんが、もっとレースができるようにしたい」とのこと。

 今シーズンの総括も聞いてみました。

「ここまで盛り上がるどころか、そもそも毎戦エントリーできるとも思っていませんでした。

 この挑戦をクルマが出来ても使う水素がないと成立しません。水素ステーションを用意できるのは富士、鈴鹿だけでオートポリスや岡山は正直厳しいと思っていました。

 しかし、それぞれのサーキットが場所を確保いただいたこと、STOがST-Qというクラスを設定してくれたこと、そしてさまざまな企業が参加してくれたことで、戦うことができました。これこそが日本の強みだと思っています」

■来シーズンはどうなるのか?

 今回の岡山でスーパー耐久の2022シーズンは終了となり、水素カローラの挑戦もひとまず完了になります。

 気になるのは「来期はどうするのか」ですが、モリゾウ選手に直球で聞いてみました。

「カーボンニュートラル実現に向けた『選択肢』を広げる取り組みのキッカケを作った以上は、来シーズンも参戦をおこないます。私も参加するつもりでいますが、今年で65歳なので体と相談です(笑)」。

 さらにこのようなことも語ってくれました。

「トヨタのモータースポーツは景気の浮き沈みで撤退や復帰を繰り返すのではなく、継続的にやるにはそこに意味を持たせないとダメです。

 それは何かというと、マーケティングニーズではなくもっといいクルマづくり……人材育成/商品作りをモータースポーツ起点でおこなう。

 どんな時代になっても商品で経営していくうえでは省けないことです。

 開発、現地現物な開発、そしてマスタードライバーが関わる開発は非常にユニークですが、秘伝のタレのように『いいことは取り入れよう』という形になると思います」

さまざまな人が関わって作り上げた水素技術の挑戦さまざまな人が関わって作り上げた水素技術の挑戦

 一方、エンジニアはこの挑戦をどのように思っていたのでしょうか。

 水素カローラの開発を担当した坂本氏に聞いてみました。

「社長がどんどん先に行ってしまうので、まさに未来日記のような感じでした。怒涛の半年は『緊張感』と『新鮮』の連続でした。

 それは僕だけでなく多くのエンジニアがそうだったと思っています。プレジデントの佐藤は『アジャイル開発』と呼んでいますが、一番変わったのは『マインドの変化』です。

 短い期間でハードを変える、テスト期間は限られていたので、できない理由をいう時間もなく(笑)。

 スパンの長い仕事だと慎重になりすぎて初動が遅れ『とりあえずやってみよう』にはなりません。

 しかし、ここでは『やるしかない』でした。なので、やることに対して常に前向き&ポジティブでした」

 来期に向けた課題はどの辺りにあるのでしょう。

 そのひとつはやはり航続距離ですが、佐藤プレジデントはこのように語っています。

「現在は信頼・安全性が担保できたMIRAIの水素タンクを用いているので、体積効率はよくありません。

 当然、『ジャストサイズに作る』ということは検討中です。

 ただ、現時点でも残圧を活かし切っていない(=最後まで使えていない)所も課題のひとつです。

 実はそれが解決できると、今のタンクのままでも航続距離は伸びると思っています」

※ ※ ※

 来シーズンは、水素に加えて合成燃料(トヨタ/スバル)、バイオディーゼル(マツダ)と内燃機関の可能性を探るさまざまな選択肢がモータースポーツを通じて鍛えられます。

 ちなみに1970年のオイルショックのときは自動車メーカーがモータースポーツから消えましたが、今回は環境問題に立ち向かうために自動車メーカーがサーキットに戻ってきたことで、これも新しい時代なのかもしれません。

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