韓国「尿素水不足」が日本に波及? 価格が10倍まで値上がり? 日本の乗用/商用への影響はいかに
くるまのニュース / 2021年12月14日 9時10分
2021年11月頃より、韓国では尿素水(アドブルー)不足が問題となっていましたが、12月に入り日本でも尿素水の価格が上昇しています。そこにはどんな背景があるのでしょうか。
■1Lあたり1500円も!高騰するアドブルーの価格
韓国では、2021年11月頃より尿素水(アドブルー)の不足が顕著となり、産業界へ大きな影響を与えていることが話題となっていました。
一方で、12月に入り日本でも尿素水の価格が上昇しています。そこにはどんな背景があるのでしょうか。
尿素水とは、アンモニアから精製される尿素と、蒸留水を混ぜ合わせたものであり、一定の割合で尿素を含んだ高品位のものは「アドブルー」という商品名で販売されています。
このアドブルーは、ディーゼルエンジン車のユーザーにとっては必要不可欠なものです。
現在販売されているディーゼルエンジン車のほとんどは、「尿素SCRシステム」という排出ガス浄化システムが搭載されており、アドブルーに含まれるアンモニアと、排出ガス中の窒素酸化物を化学反応させて排出ガスを浄化する仕組みとなっています。
そのため、ディーゼルエンジン車のユーザーは定期的にアドブルーを補充する必要があります。
アドブルーは1000kmから1500kmの走行で1リッターを消費し、車種によってタンク容量は異なりますが、おおむね1万kmから1万5000km程度走行すると補充するのが一般的です。
通常、アドブルーは1リッターあたり200円程度で販売されており、ディーラーなどで補充する場合でも、必要な費用は工賃を含めて数千円程度であることがほとんどです。
しかし、2021年12月10日現在、インターネット上では1リッターあたり1500円程度で販売されていることが確認できるなど、相場は10倍近くまで高騰しています。
前述の韓国でアドブルー不足が起こった背景には、米中を中心とした世界情勢の動きが関係しています。
中国の大手電機メーカーであるファーウェイの製品に情報漏えいのリスクがあるとして、米国がファーウェイに対して輸出規制などの措置をとったことから、両国の間に貿易摩擦が生じています。
また、オーストラリアも米国に追随する形で中国への貿易規制をおこなったことや、新型コロナウイルスの発生源に関して、オーストラリアが国際調査を求めたことが背景にあるようです。
対する中国も、各国に貿易規制をおこなうことで対抗していますが、オーストラリアに対しては石炭の輸入を停止するなどの措置をとりました。
当初の想定では、中国国内で採掘される石炭で国内需要がまかなえる見込みでしたが、内陸部で発生した豪雨の影響などで石炭の供給量が増えなかったことも重なり、中国では石炭が不足する事態となってしまいます。
石炭を用いた火力発電が主流の中国では、石炭不足によって発電量が減り、電力不足が深刻な問題となりました。
一方、石炭はアンモニアの精製にも必要不可欠であることから、石炭が不足することでアンモニアの供給も滞ることは明らかでした。
そこで中国政府は、アンモニアの輸出を制限することを決定しましたが、韓国ではアンモニアのほとんどを中国からの輸入に頼っていたため、韓国国内でアンモニアが不足し、その結果アドブルーが不足するという事態となってしまったのです。
■アドブルー高騰の背景には「転売ヤー」の存在?
ただ、日本ではアンモニアのほとんどを国内生産でまかなっているため、韓国のような事態になる可能性は低いという見方がほとんどでした。
実際に、資源エネルギー庁の発表によれば、2019年の日本国内のアンモニア消費量は約108万トンですが、約78.3%となる84.6万トンを国内生産で対応し、残りはインドネシアやマレーシアからの輸入しているため、ほぼ中国からの輸入に頼っていた韓国とは状況が異なります。
ただ、アドブルーをあつかう三井物産プラスチックでは、原材料価格の高騰を理由として2021年10月にアドブルーの卸売価格を1リッターあたり3.5円値上げしたほか、2021年12月6日時点で12月分の出荷可能量の上限に達したとして、アドブルーの受注を停止しています。
三井物産プラスチックでは、バックオーダーの処理が終わり次第受注を再開するとしています。
ただ、2022年2月に開催される予定の北京オリンピックで、米国やオーストラリアが外交使節団を派遣しない「外交ボイコット」をおこなうことを表明しているなど、アンモニア不足の根本的原因ともいえる米中関係の改善の見通しは立っていません。
輸送業界にも影響が出始めているという尿素水の値上がり
一方、昨今の日本国内におけるアドブルーの急激な高騰の背景には、いわゆる「転売ヤー」の存在があるようです。
韓国での尿素水不足が報道されるようになった2021年11月頃から急激に高騰を見せているアドブルーですが、国内の在庫がまったくないわけではありません。
そもそも、日本ではアドブルーを必要とするクリーンディーゼルエンジン車は、諸外国に比べてそれほど多くはなく、前述の通り、アンモニアの多くを国内で生産しているという構造から、韓国のような状況になることは考えにくいとされています。
もちろん、尿素水はクルマ以外にも船舶や建設機械などでも使用されており、原料となるアンモニアは肥料用途などでも使用されているため楽観視することはできません。
また、原油価格高騰による輸送コスト上昇などもあり、かつてよりも卸売価格が上昇傾向にあることも事実です。
それでも、韓国とはそもそもアンモニアの供給体制が異なることを考えると、1リッターあたりおよそ1500円というインターネット上で見られるアドブルーの価格は異常といわざるを得ません。
また、実店舗でのアドブルーの価格は、地域や店舗により異なるものの、国産ディーラーの担当者は「アドブルー不足といわれていますが、当社では在庫もあるため既存車の追加補充であれば5リッター1500円です」と話しています。
一方で、カー用品の担当者は「1リッター880円となります。アドブルーは市場の在庫が不足していることから、最近では高騰しており今後の見通しは経っていません」といいます。
※ ※ ※
多くのクリーンディーゼル車のユーザーにとっては必要不可欠なアドブルーですが、アドブルーの供給は近いうちに回復すると見られているため、異常な価格での購入には注意が必要です。
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