日本のEVは「家電と同じ轍」を踏むか 押し寄せる中国メーカー パクリの時代は終わった?
くるまのニュース / 2021年12月30日 8時10分
中国の自動車メーカー、第一汽車が日本に上陸。2022年夏にはEVも日本で導入するといいます。日本国内のEVは、家電のように中国メーカー製に取って代わる日が来るのでしょうか。
■中国の大手自動車メーカーの店舗が日本に上陸
中国の大手自動車メーカー、第一汽車がついに日本上陸を果たしました。2021年12月19日、大阪の難波に日本国内初店舗をオープンさせ、プレミアムブランド「紅旗」のセダン「H9」を展示していました。
同社関係者は詰めかけた報道陣に対して「2022年夏にはEVも日本で導入する」といいます。
このニュースを受けて、ネット上では「EVも家電みたいに、これから一気に中国製の時代が来るのでは?」とか「一気に価格が下がるのでは?」といった声が聞かれます。
本当にそうしたことが起こるのでしょうか。
まず、なぜこのタイミングで第一汽車が日本に上陸したのかを考えてみたいと思います。
第一汽車はその名の通り、中国において第一の(重要な)自動車メーカーのひとつだといえます。
今では生産台数も販売台数も3位の日本と2位のアメリカを大きく引き離して1位独走体制となっている中国ですが、中国が本格的に乗用車生産を手掛けたのは、1950年代後半の第一汽車が最初です。その際、中国要人向けのリムジンとして紅旗ブランドが誕生しました。
その後、第一汽車は独フォルクスワーゲンとの合弁事業を始めます。ドイツ政府としては、共産国家に対する国家安全保障上のカントリーリスクを十分に検討したうえで、将来の巨大市場へ積極的に投資したといえるでしょう。
結果的に、他の欧州勢、アメリカ製、そして日本製に対して、フォルクスワーゲンは中国市場における先行者利益をモノにしました。
一方で、中国政府が海外自動車メーカーの中国での自動車生産に対して、資本参加比率を最大50%(のちに変更)としたことで、第一汽車はフォルクスワーゲンから多くの技術を学ぶことができたともいえます。
第一汽車はトヨタとも合弁事業を設立しているため、ハイブリッド車関連技術やトヨタ生産方式など多岐にわたりトヨタから学んできました。
このように第一汽車は、中国政府として中国自動車産業の代表格として位置付けられる存在であり、その第一汽車が単独ブランドとして日本に進出することは、中国国内での第一汽車の名声をさらに高める効果があります。
また、EV化が急加速する欧州市場やアメリカ市場に対しても、日本進出は大きな意味を持つはずです。
今回の第一汽車の日本上陸は、日本市場を含めてグローバルでのEVシフトが本格化する直前という絶妙のタイミングだといえるでしょう。
表現を換えれば、中国政府としては、中国地場メーカー製のEVが世界に向けて羽ばたくための「機は熟した」と考えているのだと思います。
■パクリの時代は完全に終わった
さて、第一汽車に限ったことではありあませんが、日本人が中国車と聞くと、日本車や欧州車の外観を模倣したようなパクリのイメージを持っている人がいまだにいるかもしれません。
クルマの性能やメーカーとしての技術力についても、未知数と感じている人が日本では少なくないでしょう。
確かに2000年代半ばまでの中国市場は、北京や上海のモーターショーを取材すると、展示ブースが簡素だったり、並んでいるクルマはどこかで見たような感じのデザインだったり、またクルマの作りも粗いという印象があったのは事実です。
実際に、さまざまな中国車を試乗しても、乗り心地や操作安定性の面で日本車や欧州車のレベルには達していないと感じました。
それが、2000年代後半から2010年代に入り、状況は一気に変わっていきました。
中国での生産台数の右肩上がりが続くなか、欧米日韓の大手メーカーと中国地場メーカーとの合弁事業が次々と生まれ、さらにドイツを中心とする大手部品メーカーが積極的に中国メーカーに部品供給をするようになってから、中国地場メーカーの技術力は急激に高まっていきます。
高級感漂う紅旗の最上級モデル「H9」
また、2010年代半ばになると、電動化、通信によるコネクテッド化、そして自動運転の分野では、中国政府が司令塔となり政府主導でIT産業界との融合を促進しています。
一部では、欧米日韓との技術の連携が進めながらも、中国独自の規格などによって中国の独自の研究開発を加速させるといった、巧妙な戦略を取っている印象があります。まさに、オールチャイナでの挑戦です。
一方で、中国市場でのEVは、経済政策の「第12次5ヵ年計画(2011年から2015年)」では、25の都市や地域で公共交通を主体とした電動車普及の国家プロジェクトがありました。
その際に設置された充電インフラが多いのですが、整備不良などで使用不能になっているケースがあります。
また、新車購入補助金の段階的な減額があったり、そうした方針が急に変わったりと、EVの需要と供給のバランスがベストマッチしているとはいい切れない状況だともいえます。
日本としては、来るEVシフト本格化時代を見据えて、中国市場での実情から学ぶことが多いはずです。
■中国で50万円EVが売れるも、薄利多売は得策ではない?
では、安い中国製EVについてはどうでしょうか?
中国国内で販売が好調なのは、50万円前後の上汽通用五菱汽車「宏光MINI EV」です。
中国では2000年代から山東省を中心に、20万円から50万円ほどの低速小型EVの中小メーカーが数多く生まれました。ただし、品質に不安定な部分が残るなどで、本格普及には至りませんでした。
上汽通用五菱汽車「宏光MINI EV」
一方で、中国地場の商用車メーカーや乗用車メーカーが、新たなる商材として研究開発を進め、2010年代後半から低価格でも一定程度の性能を保証する小型EVが登場するようになりました。
こうした小型EVを中国政府が海外展開を積極的に後押しするかどうかは、やや疑問が残ります。
なぜならば、第一汽車の高級EVのように、日本メーカーと堂々と肩を並べることができるクルマの安定的な生産と販売を優先する可能性が考えられるからです。
「安かろう良かろう」という薄利多売ではなく、付加価値も売価も高い分野で中国勢は日本を含めたグローバルでのEVシフトを進めていくのではないでしょうか。
第一汽車に代表される中国メーカーの今後のEV戦略を注視していきたいと思います。
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