メーカーの本気度がトンデモなかった!? 入念に仕立てられた車3選
くるまのニュース / 2022年1月22日 6時10分
年間数万台も販売される量産車で、重要なのがコストです。開発から生産までにかかるお金を決められた年数で回収しなければならず、コスト削減は1円未満の単位でおこなわれています。一方、コスト削減よりも作り込みが凄かったモデルも存在。そこで、かなり入念に仕立てられたクルマを、3車種ピックアップして紹介します。
■量産車だけど作り込みがハンパないクルマを振り返る
一部の高額な高級車を除いて私たちが日常的に目にするクルマは、年間数千台から数万台販売されている量産車です。
膨大な数が生産される量産車の場合、各メーカーともコスト削減が重要な課題となり、開発者から部品のサプライヤー、生産の現場まで、日夜コスト削減に取り組んでいるといっても過言ではありません。
そのため、クルマの開発をおこなう際には、すべての取り組みを実現できるとは限らず、ある程度は妥協するケースもあります。
一方、コスト削減よりも開発者のこだわりが伝わってくるような、作り込みが凄かったモデルも存在。そこで、かなり入念に仕立てられていたクルマを、3車種ピックアップして紹介します。
●ホンダ「N-BOXスラッシュ」
内外装のお金のかけ方だけでなく開発者のこだわり満載だった「N-BOXスラッシュ」
近年、日本でもっとも売れているクルマは軽自動車です。2020年には日本の総保有台数の約4割が軽自動車で占められ、なかでもトップセラーに君臨しているのがホンダ「N-BOX」シリーズです。
2021年暦年では販売台数が18万8940台となり、軽四輪車新車販売台数で第1位を獲得し、7年連続の首位獲得となりました。
このN-BOXシリーズのなかでも異端な存在だったのが、初代N-BOXベースの派生車として2014年に発売された「N-BOXスラッシュ」です。
N-BOXスラッシュはすべてのピラーを短くして全高を下げる手法の、いわゆる「チョップドトップ」をメーカーが実践したモデルで、全高1670mmとベース車の1790mmから120mm低くなっており、全体のシルエットもクーペをイメージしたデザインを採用。
さらにリアドアをスライドドアからヒンジドアに変更し、フロントセクション以外のボディパネルとウインドウガラスすべてが新規で設計されていました。
内装では配色や素材の異なる5つの世界観を表現した5パターンを設定し、オーディオも8スピーカー+サブウーファーを設置するハイエンドな仕様も選択できました。
さらに音質にこだわっており、スピーカーからの音による内装の微振動を低減する「デッドニングキット」がオプションで用意されていたほどです。
ほかにも、N-BOXスラッシュ専用に電動パーキングブレーキ(N-BOXは足踏み式)やパワーステアリングのアシスト力を調整できる「モード切り替えステアリング」などを装備。
N-BOXスラッシュはエクステリアデザイナーが遊びで書いたスケッチから量産化が決まったとのことで、誕生の経緯もユニークでした。
その後、N-BOXスラッシュは、2代目N-BOXの登場以降も初代ベースのまま継続して販売されていましたが、2020年2月に生産を終了しました。
●トヨタ「iQ」
斬新なアイデアと専用に開発されたメカによって優れたパッケージを実現した「iQ」
1998年に、2人乗りのマイクロカーであるスマート「シティークーペ」(後にスマート「フォーツー」に改名)が誕生しました。
優れた経済性と安全性、スペース効率を実現したシティコミューターの欧州で大ヒットを記録し、日本でも人気となりました。
そして2008年に、トヨタはスマートに対抗するモデルとして「iQ」を発売しました。
iQがスマートと大きく異なっていたのは3+1と斬新なレイアウトの4シーターとしたことで、路上での専有面積を極力小さくしつつ実用的なこと、そして高い安全性を保つのがコンセプトでした。
ボディサイズは全長2985mm×全幅1680mm×全高1500mmと、全長は軽自動車よりも400mm以上も短いものの、4名乗車を可能にするために、さまざまなアイデアが詰まっていました。
エンジンは既存の1リッターと1.3リッターの直列4気筒を設定し、トランスミッションはiQ専用に設計。フロントタイヤをエンジンよりも前方に配置するレイアウトを採用し、さらにエアコンユニットも省スペース化するために新開発したことで、助手席足元の空間拡大が可能となりました。
また、燃料タンクは前席床下に格納し、運転席と助手席のシートバックを極力薄型にすることで、リアシート足元のスペースを確保。
安全性の面では、リアハッチと後席とのクリアランスもわずかだったことから、後席乗員の保護を目的とした、世界初の「リヤウインドウカーテンシールドエアバッグ」を標準装備していました。
iQの優れたコンセプトとパッケージングは国内外で高く評価されましたが、価格帯や使い勝手という点で軽自動車を凌駕できずに、2016年に一代限りで生産を終了しました。
●三菱「コルト ラリーアート バージョンR スペシャル」
単にパーツの載せ替えだけじゃなく作り込まれていた「コルト ラリーアート バージョンR スペシャル」
コンパクトカーをベースに高性能なエンジンを搭載したり足まわりのチューニングをおこない、いわゆる「ホットハッチ」に仕立てられるケースは昭和の頃には確立され、これまでも数多くのモデルが登場しました。
同様の1台だったのが2004年に発売された、三菱「コルト ラリーアート バージョンR」です。
コルトをベースに最高出力147馬力を発揮する1.5リッター直列4気筒DOHC MIVECターボエンジンを搭載し、足まわりとブレーキの強化、ボディも専用にドレスアップされていました。
このコルト ラリーアート バージョンRをベースに、さらにチューニングしたモデルとして、2008年4月に「コルト ラリーアート バージョンR スペシャル」を限定300台で発売。
エンジンは最高出力163馬力まで向上した改良モデルから変わっていませんが、ボディについては、4か所のドア開口部すべて全周にわたって手作業による「連続シーム溶接」を施したことで、重量増とならずにシャシの曲げ剛性(縦方向)を約10%向上していました。
これにより、車両のピッチングとロールが抑えられてタイヤの接地性が上がり、ステアリングレスポンスとトラクション性能が高められました。
外観ではラリーアート製のスポーツマフラーを装備して迫力あるリアビューを演出。16インチアルミホイールを専用のブラック塗装としたことで、足元が引き締まった印象でした。
内装ではレカロ製バケットシートを標準装備し、スポーツ走行に適したホールド性を確保していました。
コルト ラリーアート バージョンR スペシャルは、本格的にチューニングされていたことがユーザーから好評を博したため、2010年4月にも一部改良を加えた第2弾が200台限定で販売されました。
ベースのコルト ラリーアート バージョンRの走りも高く評価されましたが、2012年に惜しまれつつ生産を終了しました。
※ ※ ※
最後に紹介したラリーアート仕様は、これまでコルト以外の車種でも高性能グレードとして展開されました。
ラリーアートは、三菱のモータースポーツ活動を担う100%子会社として1984年に設立。モータースポーツ活動のほか、市販車のチューニングやカスタムパーツの開発も手掛けていましたが、2005年のWRC撤退を機に規模が縮小され、2010年に実質的な活動を終えました。
しかし2021年5月に、三菱はラリーアートブランドの復活を宣言し、東京オートサロン2022では新生ラリーアートの純正アクセサリーでカスタムした「アウトランダー」と「エクリプスクロス」、さらにラリーアートブランドのコンセプトカーが公開されました。
まずはラリーアートブランドの純正アクセサリーの開発からスタートし、いずれはモータースポーツへの関与も検討しているといいますから、チューニングモデルの復活も期待されます。
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