トヨタ新型「GRMNヤリス」世界最速試乗! 限定500台の「身近なスーパーカー」はどのくらいスゴいのか
くるまのニュース / 2022年1月30日 17時0分
2022年1月14日に「GRヤリス」のフルチューンモデルとなる「GRMNヤリス」を初披露されました。そして今回、世界最速で「GRMNヤリス」を試乗したなかで、どのようなクルマなのか、を解説していきます。
■世界最速試乗! トヨタ「GRMNヤリス」はなにがスゴいのか
TOYOTA GAZOO Racingは、2022年1月14日に「GRヤリス」のフルチューンモデルとなる「GRMNヤリス」を初披露しました。
限定500台となるGRMNヤリスですが、ベースのGRヤリスから何がどのように変わっているのでしょうか。
2020年に登場した「GRヤリス」は、GRの「モータースポーツを起点としてもっといいクルマづくり」を実践する1台です。
豊田社長は「これまでのトヨタは一般ユーザーのためのクルマを造り、それをレースに使えるように改造してきましたが、今回は違います。『初めからレースに勝つために普段お客さまが乗るクルマとはどうあるべきか?』そんな逆転の発想で開発したモデル」と語っています。
言葉でいうと簡単ですが、その実現のためにこれまでのトヨタの常識を超える手法が取られました。
例えば、従来のルール/基準を超えた「設計」、データとドライバーコメントを紐づけした「テスト方法」、その場で直してすぐにチェックするという「スピード感」、社内ドライバーだけでなくプロドライバーによる「評価」、スーパーカー並みの高精度で量産する「工夫」など、さまざまな分野で挑戦がおこなわれています。
そんなGRヤリスは、正式発売後もスーパー耐久や全日本ラリーを始めとするさまざまなモータースポーツフィールドを活用しながら鍛え続けてきました。
その理由は単純明快で「もっといいクルマづくりにゴールはない」からです。
そこで得られた技術や知見をフィードバックさせたのが、東京オートサロン2022で世界初公開された「GRMNヤリス」です。
実はGRMNヤリスは単なるGRヤリスの高性能バージョンではなく、実戦を通じて鍛えてきた“結果”といったほうがいいかもしれません。
元々このようなモデルは企画になかったといいますが、実戦を通じて鍛えた成果を「ユーザーに素早く還元すべき」という豊田社長の強い想いからプロジェクトが生まれました。
そういう意味ではマーケティングから生まれたのではなく、まさに“現場”から生まれたモデルというのが正しいかもしれません。
では、GRMNヤリスはどのようなモデルなのでしょうか。
まず車体ですが、GRヤリスの最上位モデル「RZ“High performance」に対してスポット打点の追加(545点)と構造用接着剤の使用箇所の延長(12m)がおこなわれています。
これはGRヤリスのボディが劣る、剛性が足りないというわけではなく、より高みを目指した結果で、「競技車両づくりで行なう職人の技を量産ラインで実現できないか?」という生産側の提案によって実現できたそうです。
同時に軽量化もおこなわれており、ルーフ(炭素繊維複合材料から綾織CFRPに変更)に加えてボンネットもカーボン製へと変更されています。加えて、リアシートを撤去して乗車定員を2名乗車に割り切ることで、約20kg軽量化されています。
エンジンはECU制御の進化で最大トルクが370Nmから390Nmに引き上げられています(最高出力は272psと不変)。
ちなみにGRヤリスも全数ピストンの重量バランスを揃えていますが、GRMNヤリスはそれに加えてそのなかでももっとも軽いピストンを組み合わせて使用。これによりレスポンスや応答性も高められました。
さらに今後のアップデート(出力アップ!?)に合わせて、ハード側にも細かく手が入っているそうです。
トランスミッションはクロスレシオ化&ローファイナルギアを採用し、モータースポーツでの知見を元に強度アップに加えて、より正確なシフトのためにリンケージ類も進化。
クラッチは強化メタルクラッチ&クラッチカバー、前後デフには機械式LSD(GRヤリスはトルセン式)を採用。前後駆動配分も見直され、トラックモードのみ50:50から45:55へと変更されています。
インテリアはサイドエアバッグ付のレカロ製フルバケットシート、専用スポーツメーター、バックスキンのステアリング&シフトノブ&サイドブレーキレバーなどを装着。
ちなみに予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」は未装着、ディスプレイオーディオはオプション設定というスパルタン仕様です。
このGRMNヤリスは、素のモデルに加えて、ふたつのパッケージが用意されています。
素のモデルはGRヤリスの「RC」に相当し、自身でカスタマイズをおこなうためのベースモデルで、サスペンション/タイヤなどは交換前提のスペックです。
「サーキットパッケージ」はその名の通りサーキット走行に軸足を置いたスペックで「家からそのままサーキットに向かい、タイムアタックをおこなってそのまま帰れる」をコンセプトに開発。
フットワークは235/40R18サイズのヨコハマ・アドバンA052に専用BBS鍛造アルミホイールを組み合わせ、サスペンションはビルシュタインの減衰力調整式ダンパー(車高マイナス10mm)が採用されています。
加えてカーボン製リアスポイラー、サイドスカート、リップスポイラーなども装備されています。
一方、「ラリーパッケージ」は、非舗装路での走行に軸足を置いたスペックで、ラリー用のショックアブソーバー&スタビリンクセット、アンダーガード、ロールバー(サイドバー有)などが装備されます。
■世界最速試乗!? GRMNヤリスはどれほどの「凄さ」を秘めているのか
そんなGRMNヤリス サーキットパッケージに、何と一足お先に「筑波サーキット2000」で乗ってきました。
恐らく第三者による試乗は世界初です。事前に広報担当から「レーシングギア、フル装備で持参ください」と連絡があり、つまり全開走行によるチェックというわけです。
筆者(山本シンヤ)はリアルなGRヤリスオーナーなので、進化を喜ぶ一方で、「別物だったらどうしよう?」といった複雑な心境で現場に向かいました。
いつも同じように、試乗前にクルマの周りをチェックします。変更部位はそれほど多くないのですが、追加のエアロパーツと10mmのローダウン&タイヤサイズ変更により、より凛々しく、より大地を掴んでいる印象と共に、解る人には解る特別なオーラを感じます。
ドアを開けて運転席に座ります。レカロ製フルバケットシートはGRヤリスよりヒップポイントが約20mm低い設定になっています。
座った印象は、スポーツモデルにしては高めのGRヤリスよりも自然に感じました。アルカンターラ巻きのステアリング/シフトノブの触感の良さ、専用デザインのメーターによる特別感はGRヤリスオーナーとしては「流用したい」と思うくらいです。
与えられた試乗時間は20分、早速コースインです。実は「1周目は様子見かな!?」と思っていましたが、1コーナーから1ヘアピンまでのわずかな距離で「コイツは凄い」、「コイツは信頼できる」と直感、そこから先はほぼ全開走行となりました。
エンジンはトルクアップに加えて過給ラグも皆無で、アクセル操作により忠実になっています。
シフトはよりカチッとしたフィールと正確性が高められており、素早い操作でもミスシフトは皆無です。
実はシフトダウン時に回転を合わせる「iMT」の制御も変更されおり、全開走行時はむしろ積極的に活用したいと思うくらいお利口な制御になっています。
ギア比&ファイナル変更も効果的で、筑波は3-4速のみでOK(裏ストレートエンドでレブリミッターに少し当たる)。常にトルクバンドをキープしているので、どこからでもストレスなく踏んでいけます。
「ダイレクトなのに穏やか」という不思議な感覚のGRMNヤリス
フットワークはどうでしょうか。ステア系はGRヤリスよりも操舵力が軽めの設定ですが、路面からの情報はより解りやすくなっています。この辺りは第3世代EPS制御が水平展開されているのでしょうか。
フットワークはGRヤリスに対して操作に対する正確性が増しています。例えるならば各パーツの精度が高まったかのような精緻さで、より対話がしやすいうえに、より細かなコントロールも可能となっています。
ピーキーさは皆無で、むしろGRヤリスよりも操作に対する反応は自然なため「ダイレクトなのに穏やか」という不思議な感覚です。
コーナーを曲がる一連の動作を見ていくと、ターインは四駆とは思えない回頭性の良さ、コーナリング中は対角ロールが抑えられ、まるで前後重量配分が変わったかのように4つのタイヤに上手に使って路面に吸い付いて曲がるような安定感。
そしてコーナー脱出時は四駆のトラクションをより実感できるなど、まるでトルクスプリット4WDのように前後駆動配分がアクティブに変化しているような、「四駆らしからぬ」と「四駆らしさ」が上手にバランスされた走りを実現しています。
その結果、どのコーナーも「曲がれるかも」ではなく、常に「曲がれる」と確信しながら走れました。
乗り心地に関してはサーキット路面だけの走行なので断定はできませんが、脳天を突き破るような硬さではなく、しなやかな硬さといった印象です。
縁石を跨いだ際にも跳ねるような感じはなく吸収性も高かったので、想像している以上に快適じゃないかなと予測しています。
FF横置きベースの4WDですが、ブレーキはフルブレーキング時に荷重が前に移動してもリア荷重が逃げにくく、RRのポルシェ「911」のように四輪で上手に制動している印象です。
この辺りはリアのスタビリティアップに合わせたブレーキバランスの最適化(リアをシッカリ効かせる)に加えて、リアウイング追加により空力操安も効いているはずです。制動力や耐フェード性などは機能的にはまったく問題ないと感じました。
ひとつ気になったのはペダルタッチで、ハンドリングで感じた印象と比べるとやや柔らめ。
個人的にはペダル周りがもう少しカッチリとしたフィーリングのほうが全ての操作系のバランスは整うかなと思いました。
ちなみに筆者のベストタイムは1分4秒前半でしたが、もう少しコースに慣れ(実は1年半ぶりの走行)、クルマの特性をより理解できたら1分3秒代も夢物語ではないなと。恐らく、プロドライバーであれば、あと1秒近く短縮できると思います。
■GRMNヤリスは「秘伝のタレ」が継ぎ足された「身近なスーパーカー」
そろそろ結論に行きましょう。万能な(といっても相当戦闘力は高いが)GRヤリスに対してGRMNヤリスはモータースポーツで鍛えた事による「秘伝のタレ」が継ぎ足された1台です。
ちなみに筆者が今まで筑波で乗った高性能モデルのなかで、一番躊躇せずに全開ができ、一番安心して走ることができ、一番楽しく走れたモデルです。
今回の20分の試乗がこんなに短いと思ったのは初めて、実は開発は今も続いているので、市販時はもっと良くなっているかもしれません。
731万7000円から846万7000円の価格で限定500台の「GRMNヤリス」
ここで終わらないのがGRMNヤリスの凄いところで、購入後のしかるべきタイミングでエンジン強化/駆動改善などをおこなう「アップデートプログラム」とドライバーの運転データを分析してソフト/ハード共に最適化する「パーソナライズプログラム」も提供すると公言しています。
これはKINTO専売「GRヤリス・モリゾウセレクション」で進められている取り組みですが、GRMNヤリスはより特化・先鋭化されたメニューが用意されており、レース車両と同じように「進化するクルマ」を量産車でも実践していくそうです。
サーキットパッケージの値段は846万7000円とかなりスーパープライスですが、実力を体感した筆者としては、その価値が確実にあると断言します。
ただ、惜しむべきは限定500台で、購入できた人はガレージに飾るのでなく、サーキットで思い切り走らせてあげてください。個人的には「身近なスーパーカー」と呼びたいです。
※ ※ ※
GRヤリスのユーザーとしては「2年でそこまでやるの?」と嫉妬する部分があるのも事実です。
そこは開発陣もよく認識、既販のGRヤリスユーザーもアップデートできるようにGRMN用アイテムの一部を市販する計画もあるそうです。
その先には「86GRMN」の知見がKOUKIの86で活かされたように、GRMNヤリスで培った技術のいくつかがGRヤリスの改良時に水平展開されることも願っています。
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