短命だったけど技術革新に貢献! バブル崩壊後に燃費低減を目指した「燃費スペシャル」なクルマ3選
くるまのニュース / 2022年2月17日 11時10分
ガソリン価格の高騰により低燃費なクルマに注目が集まりますが、いまから約30年前のバブル崩壊直後にも、燃費を良くしてCO2排出量を減らそうとしたクルマが登場しました。一体どのようなモデルがあったのでしょうか。
■バブル崩壊後に流行した低燃費技術とは
ガソリン価格が高騰している今、燃費が良いクルマの人気がさらに高まりそうです。
しかし、燃費の問題は「エンジンの排気量を小さくすれば良い」とか「燃料の供給量を減らしたエンジンを作ればよい」という単純な問題ではありません。
単に排気量を小さくしただけではかえって燃費が悪化し、エンジンに供給するガソリンの量を過剰に減すと燃焼後の排出ガス中に窒素酸化物が増えるという問題があります。
そこで技術者は、燃料と空気の流れ方や燃え方を工夫してパワーの低下を抑えつつ、燃費向上を図りました。
それが、いまから約30年前のバブル崩壊直後に流行した「リーンバーン技術」です。
バブル崩壊直後には、燃費を良くして二酸化炭素排出量を減らそうとしたリーンバーン車が複数のメーカーから発売。
しかし、リーンバーンを実現するためには多数の新技術が導入されることから、どうしても車両価格は上がりがちです。
その一方で価格ほどの効果が見られなかったからか、これらのクルマの販売成績はあまり良くありませんでした。
ただし、後の時代のクルマに受け継がれた技術が多数存在し、バブル崩壊後に低燃費を目指したクルマの功績は決して小さくなかったと考えられます。
では、一体どのようなクルマに、どんな低燃費技術が搭載されたのでしょうか。
●ホンダ「シビックETi」
1991年9月に発売されたホンダ5代目「シビック(通称:スポーツシビック)」は、先代のEF系シビックで投入したVTEC技術を、スポーティグレード以外にも幅広く展開していました。
VTECの高回転高出力技術を、低燃費型エンジンでも高回転時のエンジンパワーを犠牲にしない方向にチューニングしたものがVTEC-Eで、「ETi」グレードに搭載。このエンジンはSOHC4バルブでバルブ駆動機構にVTECを採用し、さらにリーンバーン(希薄燃焼)を実現しました。
VTEC-Eでは、低回転時にはふたつある吸気バルブの内ひとつを休止し、ガソリンと空気が混ざった混合気の流れに横方向の渦=スワール流を生成させ、燃焼速度の低下や着火性の悪化を抑えることに利用しています。
そして高回転時には、休止していた吸気バルブのひとつを駆動し、吸気側2バルブとして吸気量の低下を抑制しました。
この機構により、最高出力は94馬力/最大トルク13.4kg・mを発揮し、パワーステアリング装着車は20.0km/Lを達成。なお、車重は960kgに抑えられ、タイヤも当時としては細めの165/70R13を履いていました。
同一排気量の、低回転・高回転切り替え式VTECを搭載する「VTi」グレードは、130馬力/14.1kg・mのクラストップのエンジン出力と、14.1km/Lを達成。
燃費性能こそETiグレードのほうが優れていますが、VTiグレードと比較するとスペック的に見劣りを感じるものです。
そのためか、バルブ休止式VTECは2代目「フィット」などにも採用されましたが、積極的にアピールされることはありませんでした。
●三菱「ランサー/ミラージュ MVV」
1991年10月に発売された三菱「ランサー」と「ミラージュ」には、「MVV」という低燃費グレードが設定されていました。
グレード名にもなった「MVV」とは、「三菱バーチカルボルテックス」の頭文字を取ったもので、搭載エンジンにおこなった工夫そのものの名称です。バーチカルとは「縦」、ボルテックスとは「渦」のことで、混合気に縦渦=タンブル流を与えることを特徴としていたのです。
エンジンのレイアウトは1.5リッターSOHC12バルブで、各気筒吸気2バルブ、排気1バルブとしていました。
三菱「ランサー MVV」
空気と燃料の基本の割合を燃料が薄い希薄燃焼とし、スパークプラグの周辺に燃料が濃い領域が来るように調整。着火を確実にするとともに、タンブル流で燃え広がりを速くしていました。
同時に設定されていた1.5リッターDOHC4バルブエンジンが最高出力115馬力を発揮していたところ、このエンジンは91馬力/12.4kg・mとかなり控えめ。
外観や装備品は営業車グレード並みにされたため車重は920kgと軽量のうえ、タイヤも当時の省燃費指向である155SR13を装着。あくまでも燃費スペシャルモデルとしての位置づけとなってしまったのです。
このモデルの燃費向上に対する追求はもう一手ありました。
1992年10月には可変バルブタイミング&リフト機構を備えた「MIVECエンジン」に気筒休止機能を加えた「MIVEC MDエンジン」を搭載。MIVECによるハイパワーと低負荷運転時に気筒を休止させる技術を一体化させたものです。
このエンジンは1.6リッターで175馬力/17.0kg・mを発揮し、ホンダのDOHC VTECエンジン搭載車と並ぶ高性能さを誇り、定速走行時やアイドリング時に2気筒を休止させて燃費を向上が図られました。
MIVEC MDエンジン搭載車は受注生産で、同時期のGSRエボリューション・シリーズと比べて隠れた存在でしたが、クラストップレベルの高出力と低燃費を両立させようとした稀有な存在で、MVVもMIVEC MDも技術の三菱を強く印象付ける技術でした。
●マツダ「ファミリア(BH型)」
1994年6月に発売されたマツダ「ファミリア」は、フルタイム4WDの「GT-R」などのハイパワーモデルも廃止し、質実剛健なモデルを前面に押し出していました。
そして発売から遅れること3か月、1994年9月にZ5-DEL型 DOHC 1.5リッターのリーンバーンエンジンを追加設定。最高出力は94馬力/最大トルク13.5kg・mを発揮し、10・15モード燃費は20km/Lを達成しています。
基本となった「Z5-DEエンジン」を搭載する5速MT車は97馬力/13.5kg・mで燃費は17.2km/Lと、Z5-DELエンジンの性能低下はわずかでしたがカタログ燃費の向上もわずかでした。
両車の車両本体価格の差は約5万円だったのですが、当時の販売現場や購入を考えている人たちに5万円の価格差とリーンバーン技術の特別さが伝わったかどうか不明です。
このような存在で、技術上のトピックスも少なかったため、地味な存在となってしまいました。
しかし、このファミリアの登場から18年後、マツダは低燃費・高効率エンジンのスカイアクティブエンジンシリーズを展開し、高圧縮・高出力・低燃費を実現しました。
スカイアクティブシリーズの成功には、リーンバーンエンジンの開発で得られた知見も多かったかもしれません。BH型ファミリアは、多少の失敗もめげないマツダの企業姿勢を強く感じさせるクルマでした。
※ ※ ※
当時の低燃費車は、現在でいうところの「燃費スペシャル」グレードで、タイヤも装備も簡素化して車重も低減させていたモデルが多数を占めました。
また、いずれのリーンバーンエンジンも、走行条件によっては排出ガス中の窒素酸化物を抑えるのが難しいという問題があり、排出ガス規制が強化されるなかで存続が困難になって次の時代にはほとんど受け継がれませんでした。
しかし三菱は1996年発売の「ギャラン」において、MVVで培った縦渦の技術をさらに昇華。量産モデルとして世界初のガソリン筒内噴射技術を実用化して燃費をさらに向上していったのでした。
それまでハイパワー一辺倒だったエンジン技術を低燃費に生かし、ユーザーに燃費の大切さを啓発、そして1997年にトヨタは世界初の量産ハイブリッド車「プリウス」を発売します。
今回紹介した3車は、いわばハイブリッド技術が商業的にも成功するための市場の下地を作ったような形になり、たとえ短命に終わったモデルであっても、意義があったクルマたちだったのではないでしょうか。
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