トヨタ「GR86」で挑むスーパー耐久シリーズ! バイオマス燃料で参戦するクルマづくりのスタートとは
くるまのニュース / 2022年2月22日 20時0分
2021年11月13日にスーパー耐久シリーズの定例会見にてトヨタの豊田社長は「スバルは2022年のS耐でカーボンニュートラル燃料の実証に、トヨタとともに走り出します」と宣言。そうしたことから、2022年のスーパー耐久「ST-Qクラス」には合成燃料(バイオマス)を使用するGR86をベースとした車両の開発が進められました。実際にはどのような過程を経て挑むことになったのでしょうか。
■カーボンニュートラル社会への挑戦! バイオマス燃料使った「GR86」でS耐久に挑戦!
2021年11月13日、スーパー耐久最終戦の記者会見で「カーボンニュートラル燃料の実証」かつ「モータースポーツの場を活用してGR86/SUBARU BRZの次世代モデルの先行開発を公開しながら行なう」というプロジェクトが発表されました。
さらに驚きは、この発表が行われた席で、メディア(実は筆者:山本シンヤ)からの質問に、トヨタの豊田章男社長は「来シーズン、ルーキーレーシングは1.4リッターターボ+カーボンニューラル燃料を搭載したGR86で参戦します」と発言したこと。
我々はそれを聞いて「???」でしたが、周りにいたGR関係者はもっと驚いていたそうです。
そもそも、本来1.4リッターターボ化は開幕までトップシークレットだったそうです(笑)。
実はこの会見の前日、豊田社長に会った際に「初代に対して2代目は味が分かれてきました。ただ、ここで終わらないのが面白いんですよ」と意味深な事を言っていましたが、その意味がやっと理解できました。
ちなみにこのエンジン、「GRヤリス」に搭載されている直列3気筒1.6リッターターボを1.4リッター化かつ縦置きレイアウトにしたモノです。
排気量を下げた理由は、「1.4リッターターボ×ターボ係数1.7=2.4リッター相当」と言うレギュレーションに合わせるためです。
それはともかく、なぜ水平対向エンジンを搭載しているGR86のエンジンを直列3気筒にする必要があったのでしょうか。
このプロジェクトの責任者である藤原裕也氏は次のように述べていました。
「量産車はスバルさんと一緒に開発を進めましたが、今回は別々になります。
我々には水平対向エンジンの知見がありませんので、手の内化されている自社のエンジンを活用するのがベストだと考えました。
弊社の量産エンジンでモータースポーツまで耐えうるスペックを持つのはGRヤリス用の1.6リッターターボですので、これをベースに開発を行なう事になりました」
ちなみにマニアックな話になりますが、GRヤリスの1.6リッターターボのボア×ストロークは87.5×89.7mm、1.4リッターに排気量を落とすためにストロークを短縮させますが、計算すると87.5×77.0mmとなります。
元祖86ことAE86に搭載される4A-Gのボア×ストロークは81.0×77.0mmと、何とストロークが同じという偶然です。これは運命ですね。
トランスミッションはGR86用の縦置き6速MTを、このエンジンに合わせて最適化(主にトルクアップの対応)させた物が搭載されています。
このエンジンをGR86に搭載するわけですが、当然の事ながらそのまま搭載できるわけがないので、車体側にも大きく手を入れる必要があります。
そのためエンジン開発と並行して車体側の大改修も進められました。特にエンジンルームと車室を隔てる隔壁は大きく改修されています。
実際に見てみると、横方向に余裕がありますが上下方向は低いボンネット高に対してかなりギリギリ。
ただ、エンジンは水平対向よりもバルクヘッド側に搭載(と言うよりも、食い込んでいる)され、完全なフロントミドシップとなっています。
エンジン変更に合わせてステアリング周りも刷新され、ギアボックスは前輪中心より前に置く「前引き」のレイアウトに変更されています(ノーマルのGR86は「後引き」)。
これに合わせてブレーキキャリパーの位置もノーマルと逆(=後ろ側)に変更されています。
サスペンション関係は形式こそノーマルと同じですが、アーム類やサブフレームなどは一新されています。
よく観察すると、何とリアのサブフレームはアルミ鋳造となっています(トヨタ初!?)。
さらに量産車では鉄にこだわったナックルはアルミ製へと変更していました。
開発車両はアーム類やサブフレームなどは一新されている
「先行開発なので様々な挑戦をさせてもらっています。特にアルミ鋳造のサブフレームは我々には知見がないので、実戦を通じて確認していきたいと思っています。
ナックルもそのひとつですが、『舌の根も乾かないうちに』とは言わないでください」(藤原氏)
■GR86はついにエンジン始動、そしてシェイクダウンへ
このように、先行開発車両はノーマルから大きく改修・変更されていますが、切った貼ったの一品対応ではなく全ての変更部位は量産車開発と全く同じ手法やルール、過程を経て行なわれています。
その証拠に設計図や組み立て指示書が存在し、仮に「もう一台同じクルマが欲しい」と言われても即座に対応できるそうです。
組み立ては凄腕技能養成部のメンバーが担当。ちなみに凄腕技能養成部はモリゾウこと豊田社長(当時は副社長)とマスタードライバーの成瀬弘氏が発足した“元祖”GAZOO Racingが発端で、モータースポーツを通じて“クルマ屋”としてのスキルを高めるための育成を行なう部署です。
これまでニュル24時間に参戦してきた全てのマシンはこの部署のメンバーが製作しています。
最初はホワイトボディと言われる何もない状況から開発がスタートした
そうして迎えた2022年1月某日、車両に搭載したエンジンの火入れ式が行なわれました。
開発では過去に何度も行なっている事ながら、毎回最初の始動は緊張すると言います。
過去にはエンジンがウンともスンとも言わず、トラブルシュートにほぼ一日を費やした事もあったそうです。
今回も予定通りとはいかず、1時間くらい押しましたが無事にエンジンは始動。それまでは緊張していたメンバーも、ホッとした表情に変わっていったのが印象的でした。
最初のシェイクダウンは各部の動作確認とチェック走行を行ない大きなトラブルもなく終えたという
そして、数日後、全ての組み付けが終わったマシンは富士スピードウェイのショートコースに運ばれシェイクダウン。
各部の動作確認とチェック走行を行ないましたが、大きなトラブルもなく順調な滑り出しだったようです。
このマシンが「モータスポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を進めるなかで、シーズンを通じてどのように進化・成長をするのか? そしてスバルとのガチンコ勝負の結果はどうなるのか? とても楽しみです。
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