1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

「急速充電20分」「900km以上走行」日産のEV新時代はもうすぐ来る? 飛躍のカギ握る全固体電池の現在地

くるまのニュース / 2022年4月12日 11時10分

日産が「EV普及のゲームチェンジャー」と表現する全固体電池は、どのような可能性を持っているのでしょうか。同社が研究開発の現状を明かしました。

■「日産の全固体電池をゲームチェンジャーにする」

 自動車用の次世代電池としてグローバルで期待が高まっている全固体電池。

 日産は2022年4月8日、この全固体電池について、研究開発の現状を詳しく説明しました。試作品を生産する設備の動画も公開しています。

 全固体電池は、トヨタなど自動車メーカーや電池メーカー各社が、量産に向けてしのぎを削っていますが、なぜ日産はこのタイミングで技術詳細を明らかにしたのでしょうか。

 日産は2021年11月29日に発表した長期ビジョン「日産アンビション2030」の中で、今後5年間に電動化の技術革新へ総額2兆円を投資すると発表。

 全固体電池については、2024年までに横浜工場に試験的なパイロット生産ラインを作り、2028年からの量産を目指すという具体的な日程を公表しています。

 一方、世界に目を転じると、欧州委員会(EC)が「2035年までに欧州域内で発売する新車100%を事実上、EVまたはFCV(燃料電池車)とする」との規制強化を発表したことで、ドイツ勢を筆頭に欧州自動車メーカーや自動車部品メーカーの各社はEVシフトに向けて、次世代電池の研究開発を加速させている状況です。

 そのほか、アメリカや中国でも国の方針としてEVシフトが鮮明になっています。

 そうしたなか、世界に先駆けて2010年に大量生産型のEV「リーフ」の量産に成功した日産としては、次世代EVビジネスでも主導権を握りたいと考えるのは当然でしょう。

 日産の技術開発を統括する中畔邦雄(なかぐろ・くにお)副社長は、「日産の全固体電池を(自動車産業界の)ゲームチェンジャーにする」と意気込みます。

 具体的な性能目標としては、従来のリチウムイオン電池と比較して、同じ体積で航続距離が2倍、また充電時間が3分の1になるというのです。

 これを、「リーフ」のベースモデル(62kWhバッテリー搭載車)のカタログ値をもとに考えると、航続距離はWLTCモード458kmの2倍となる916km、充電量80%までの急速充電時間は約20分という計算になります。

 これならば、ガソリン車やハイブリッド車とほぼ同等の使い勝手になるでしょう。

 さらに2028年時点で、バッテリーパックあたりのコストは1kWhあたり75ドル(約9300円)を実現するといいます。

 ちなみに現在のコストは、その約2倍ともいわれています。また、EV全体のうちバッテリーが占めるコスト割合は3分の1程度とも推察されるため、全固体電池の導入によりEV新車価格も一気に下がることが考えられます。

 また、全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と比べて熱に対する管理が容易なため、電池パックの冷却装置が不要となります。つまり、電池セル自体の軽量化に加えて電池パック全体でも、大幅に軽量コンパクト化することが可能になりそうです。

 そうなると「EVのパッケージングの自由度が上がり、(本格的な)スポーツカー(向け)などにも対応の幅が広がります」(中畔氏)と良いことづくめです。

■そもそも何が「全固体」なのか?

 そんな夢の技術のように思える全固体電池ですが、そもそも何が全固体なのでしょうか。

 現在、自動車やスマートフォンなどで普及しているリチウムイオン電池は、正極材と負極材という2つの材料があり、その間にセパレーターという材料が挟まれています。そして電池内部の全体を液状電解質で浸しています。こうした状態でイオンが正極と負極の間を移動することで、電気が生まれる仕組みです。

 この液状電解質を完全に固体にしたものを、全固体と呼びます。また、その中間で、液体と固体の両方の性質を持つ電解質を使うものを、半固体と称することがあります。

全固体電池の試作生産設備全固体電池の試作生産設備

 液状電解質を使うリチウムイオン電池の場合、仮に電池内部の不具合で温度が上昇すると電解質を介して発火して燃焼する危険性があります。一部の海外製EVや航空機向け電池、また純正ではないバッテリーパックをスマホにつないで発火したケースの多くがこれです。

 そのほか、使用する温度が極低温だと液状電解質が凍ってしまったり、高温では性能が下がったりすることもあります。

 劣化については、近年のリチウムイオン電池では充放電の回数に対する劣化はかなり改善されていますが、放置した状態での保存劣化については改善の余地が残されているといいます。

 こうしたリチウムイオン電池のデメリットを払拭するのが、全固体電池です。

 ただし、全固体電池は現在の液状電解質を固体電解質に単純に置き換えれば良いといいうものではないとも、日産は指摘します。

 例えば、正極材と負極材の種類についてです。固体電解質は液状電解質に比べて圧倒的に数が多い組み合わせが可能になるといいます。その数は「数十万レベル」(材料開発関係者)というのです。

 この組み合わせは、まずAI(人工知能)を使って振り分け、さらに機械学習によって絞り込み、その上で人間が吟味し実験に結び付けていくという大変な作業が必要です。

 また、正極材や負極材と固体電解質が均等な圧力で接するための精度を出すなど、固体同士が直接触れることで生じる新たな課題が数多くあります。

 こうした課題解決のため、日産は米西海岸シリコンバレーの開発拠点がNASA(米航空宇宙局)やカリフォルニア大学サンディエゴ校と、全固体電池に関する基礎技術について連携して研究を進めているところです。

 一方で、常務執行役員・日産総合研究所所長の土井三浩(どい・かずひろ)氏は「日産が進めているのは、硫化物系固体電解質で、これが水分を含むと(有害な)硫化水素が発生します。その抑制方法については、すでに研究で実績が出ており、今後も研究開発を進めていきます」と、安全性のさらなる向上を約束しました。

 このように日産が全固体電池の早期量産化に邁進(まいしん)するなか、国は産学官による検討会で2021年11月に「蓄電池産業の現状と課題」をまとめています。

 そのなかで全固体電池についても触れており、「2050年に向けた次世代商品」として重要視しているところです。

 一方で日本は、欧州、中国、韓国、アメリカなどと比べると、「国家戦略として電池産業政策が欠如している」と厳しく指摘しています。

 その上で、国として全固体電池に対する技術開発の支援のみならず、液状電解質リチウムイオン電池のコストパフォーマンスの向上による、諸外国に対する産業競争力の強化の必要性も強調しています。

 2020年代前半から中盤にかけて、日産を含めて、全固体リチウムイオン電池の本格量産化を含めた新たな電池開発の動きがグローバルで活発になることは間違いなさそうです。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください