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シュッと出てきてキラッと点灯! カッコ良かった「リトラクタブルヘッドライト」が廃れた理由とは

くるまのニュース / 2022年5月19日 7時10分

低く構えたフロントマスクからシュッと展開する「リトラクタブルヘッドライト」は、高性能の証として、スポーツカーを中心に1980年代から1990年代に大流行しました。しかし現在採用している車種はありません。リトラクタブルヘッドライトはなぜ消滅してしまったのでしょうか。

■格納式のヘッドライトは保安基準をすり抜ける裏技だった!?

 1970年代のスーパーカーブームにはじまり、1990年代のハイパワー競争時代も含め、スポーツカーは多くの人を魅了してきました。とくに低く構えたスタイリングは空力特性にも優れ、獲物を狙う肉食獣に例えられる格好良さがありました。

 そんな低いフロントを実現させたのが、「リトラクタブルヘッドライト」です。格納式のリトラクタブルヘッドライトは、1980年代から1990年代のスポーツカーを中心に広く採用されましたが、現在では採用されることはなくなりました。

 リトラクタブルヘッドライトはなぜ消滅してしまったのでしょうか。

 格納式ヘッドライトのアイデア自体はかなり古くからあり、1935年にアメリカの「コード自動車」というメーカーから誕生した「モデル810」が世界初のリトラクタブルヘッドライト採用モデルといわれています。

 現在のクルマにもいえることですが、空気抵抗を減らすことは、燃費や動力性能に違いが生じます。

 そこで昔からクルマの前部を低くして徐々に迫り上がってくる、いわゆるくさび形のウェッジシェイプという形状がスポーツカーでは理想とされ、古くからカーデザイナーは、保安基準を満たしつつ低く作ることに頭を悩ませていたようです。

 なかでも自動車大国アメリカでは「SAE規格(日本のJISのように工業製品の基準を定めたもの)」によってサイズが決まった丸型か角型のヘッドライトしか採用できない縛りがありました。

 そこで考え出されたのが、必要なときに展開し、使用していないときに格納するヘッドライトというアイデアです。

 そして、1963年に登場したシボレー「コルベット」(C2型)をはじめ、1970年代を彩る世界各国のスーパーカーがこぞって採用したことから、リトラクタブルヘッドライトは「高性能スポーツカー」の象徴のような装備になっていました。

 ちなみに日本車で最初に採用したのは、1967年に登場したトヨタ「2000GT」です。

 そのほかにも1978年に登場したマツダ「サバンナRX-7」などのスポーツクーペだけでなく、トヨタ「ターセル/コルサ/カローラII」などコンパクトカーにまで採用されるほど大人気となり、なかでもホンダは、当時の大黒柱だった「アコード」やスペシャリティクーペの「プレリュード」など幅広く採用していました。

 しかし1990年代に入ると、リトラクタブルヘッドライトの有効性が薄れていきます。

 アメリカではヘッドライトの最低地上高の規制が緩和され、ヘッドライト自体もプロジェクターやマルチリフレクターの採用などでデザインされたライトカバー付き固定式ヘッドライトが主流になります。

 そうなると、今度はリトラクタブルヘッドライトの持つデメリットが浮かび上がってしまいました。

 リトラクタブルヘッドライト展開時は空気抵抗が増し、また電動格納式による複雑なメカニズムは部品点数の多さと、固定式と比べて重い本体重量、さらに重量物を鼻先に搭載していることから旋回性能などにも悪影響がありました。

 そして何より、固定式と比較して高コストだったこともあり、一気にアドバンテージを失ってしまったのです。

 最先端のトレンドほど人気が下落しはじめると古臭く感じるもの。マイナーチェンジやフルモデルチェンジを機に、固定式ヘッドライトを採用したフロントのデザイン変更はもちろん、マイナーチェンジで固定式にしてしまうケースもあったのです。

 ちなみに、日本市場ではマツダ「RX-7」(FD3S型)の生産終了に伴い、2003年に新車としてのリトラクタブルヘッドライト採用車は消滅してしまいました。

■リトラのほうが良かったのでは? 途中で固定式になったモデル

 スポーツカーはリトラクタブルヘッドライトが似合うジャンルです。

 現在の中高年層が熱狂した1970年代のスーパーカーブームでは、フェラーリ「512BB」やランボルギーニ「カウンタック」、ロータス「エスプリ」などがリトラクタブルヘッドライトを採用し、高性能スポーツカーの象徴のような装備でした。

 しかし技術の進化と安全性の向上を理由に、フルモデルチェンジする前に、マイナーチェンジで固定式へと変更された車種も存在します。

 途中でリトラクタブルヘッドライトを辞めてしまい、一世代も持たなかったモデルにはどのようなものがあるのでしょうか。

●ホンダ「NSX」(初代)

 2代目も生産終了がアナウンスされましたが、依然としてジャパニーズスーパーカーのイメージをもたらしてくれる1台がホンダ「NSX」(初代)です。

リトラクタブルヘッドライトを採用したホンダ初代「NSX」リトラクタブルヘッドライトを採用したホンダ初代「NSX」

 世界初のオールアルミモノコックボディにVTEC化されたV型6気筒エンジンをミッドシップに搭載するなど、初代NSXは当時の最先端技術を投入した「ホンダ製スーパーカー」として誕生しました。

 そんな国産スーパーカーは、全長4430mm×全幅1810mm×全高1170mmという驚愕の低さを実現。リトラクタブルヘッドライトによる、スーパーカーらしいデザインもあわせ持っています。

 初代NSXは後部のオーバーハングが長すぎるともいわれましたが、これは高速走行時の姿勢安定性の向上が図られた結果。これによって、ほかのMRスーパーカーにはない、実用的なトランクも手に入れることができました。

 そんな初代NSXのリトラクタブルヘッドライトは、2001年におこなわれた3度目のマイナーチェンジで、衝突安全性や空力の向上とフロント部分の重量軽減を目的に固定式4灯プロジェクターヘッドランプへとチェンジしています。

 フロントマスクのイメージが変更されたことでスーパーカーらしさは減少。空力や安全性を優先した結果、初期モデルが持っていた華やかさが薄れてしまい、現在のネオクラシカルでもリトラクタブルヘッドライト採用の初期モデルのほうが人気は高いという結果になっています。

●ホンダ「CR-X」(初代)

 1980年代はコンパクトカー全盛時代で魅力的なモデルが数多く登場しましたが、当時の「シビック」をベースにショートホイールベース化し、「FFライトウェイトスポーツ」と呼ばれた新ジャンルを生み出したファストバッククーペがホンダ「CR-X」(初代は「バラードスポーツ CR-X」)です。

 リトラクタブルヘッドライトには、一般的な開閉タイプや後ろから起き上がるタイプ、ユニットごと回転するタイプなどがありましたが、CR-Xはセミリトラクタブルヘッドライトと呼ばれるヘッドライトの上側の一部がカバーで覆われる半固定式ヘッドライトを採用していました。

 というのも、電動格納式のリトラクタブルヘッドライトですとパッシングなど瞬間的にヘッドライトを点灯させるのに時間がかかるため、開かずとも短時間なら点灯できるセミリトラクタブルヘッドライトが開発されたといわれています。

 全長3675mm×全幅1625mm×全高1290mmというサイズでファストバックスタイルのため後部座席は非常に狭く、ほとんど2シーターといってもいいレベルでしたが、そのタイトさと1.5リッターエンジンが生み出す小気味良い走りでヒットモデルに。

 直接的なライバルでFR車だったトヨタ「レビン/トレノ(AE86型)」に対し、FFライトウェイトスポーツを大いに盛り上げました。

 しかし1985年のマイナーチェンジでは、早くもこのセミリトラクタブルヘッドライトを廃止し、輸出仕様と同じ固定式を採用することになります。

 ちなみに1987年に登場した2代目は最初から固定式を採用。イメージが似ているとのことで固定式でも人気は衰えず、初代以上に大ヒットしました。

 そして、大幅なイメージチェンジを図った3代目「CR-Xデルソル」の商業的な失敗と、時代のニーズがより居住空間を求める方向にシフトしたこともありCR-Xも生産終了を迎え、FFライトウェイトスポーツ自体も衰退してしまいました。

●三菱「GTO」

 1980年代後期から1990年代前半のいわゆるバブル景気時代には、ハイパワーをウリにした数多くのスポーツカーが誕生しました。

 当時はまだ280馬力の自主規制枠がある時代でしたが、そこで着目されていたのがトルクです。いかに最大トルクを引き上げて速さを演出するかが重視されていました。

 そんななかでも、40kgmを超える鬼トルクを発揮する「トルクモンスター」の異名をとっていたのが三菱「GTO」です。

「ギャラン VR-4」で培った4WD技術を盛り込んだ大型スポーツクーペでした。

 全長4555mm×全幅1840mm×全高1285mm、車両重量1710kgという大型3ドアクーペに、3リッターV型6気筒ツインターボエンジンで280馬力と42.5kgmものパワーを4WDで路面に伝えるモンスターマシンとして、当時のライバルであるトヨタ「スープラ」や日産「フェアレディZ」とは違う、独自の世界観を持っていました。

 また当時の三菱は世界初の電子制御装備を好んで搭載しており、GTOにもスイッチひとつで排気音を変える「アクティブエグゾーストシステム」や可変式リアスポイラー&フロントスカートの「アクティブエアロシステム」などを採用していました。

 そんなGTOが1993年にビッグマイナーチェンジを実施。ターボチャージャーの過給圧を変更しトルクを43.5kgmまでアップさせるとともに6速MTを採用しましたが、このときヘッドライトをリトラクタブルヘッドライトから固定式プロジェクタータイプの4灯へと変更しています。

 近年のネオクラシックによって再び注目を集めつつありますが、シボレー コルベットにも似た造形を持つ初期型のほうが、GTOらしさがあるといわれています。

※ ※ ※

 リトラクタブルヘッドライトは、現在のエコ性能や衝突安全性を考慮すると、法律的に禁止されてはいないものの、ニューモデルに搭載される確率はかなり低そうです。

 クルマ好きであれば、あのスイッチひとつでせり上がってくるリトラクタブルヘッドライト独特の魅力を一度は体験しておいても損はないと思います。

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