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昭和のクルマ「キンコン音」今なぜ消えた!? 「速度警告装置」廃止された理由とは

くるまのニュース / 2022年6月13日 10時10分

1970年代から80年代にかけ、高速道路で時速100キロを少し超えてしまうと「キンコンキンコン…」とチャイム音が鳴りました。しかしその後の法改正で廃止されています。なぜでしょうか。

■1975年に義務付けられ、1986年には廃止された「キンコン音」装置

 1980年代以前の古いクルマで高速道路を走行中「キンコンキンコン」と音が鳴っていたのを覚えていますか。
 
 あの「キンコン」という音はなぜ鳴っていたのでしょう。そして、なぜなくなってしまったのでしょうか。

「キンコン」という音は、速度警告装置の警報音です。

 普通自動車で時速約100キロ、軽自動車で約80キロを超えた際、注意喚起のために音で知らせるものでした。

 1970年代から1980年代初頭にかけての多くの国産車にとって、時速100キロ以上で走り続けるのは相当な負荷がかかるものでした。

 クルマの性能も現在より劣るため、ブレーキの制動距離ひとつを取ってみても現在より長く、スピードが出ていればさらに伸びます。

 高速道路や自動車専用道路を走行する時に運転席のシートベルトの装着が義務づけられたのは、1971年(昭和46年)です。

 衝突安全に関する技術開発は進められていましたが、実際にエアバッグといった先進安全技術が備わったクルマが多く公道を走るのはまだ先のことでした。

 そのようなことから、スピード超過は重大事故につながる恐れがあるとして、スピード超過を警告するために取り付けられました。

 法律上、その装置は「速度警報装置」と呼ばれ、1975年(昭和50年)4月に義務付けられました。

 このことは1974年(昭和49年)11月に交付された運輸省令第45号「道路運送車両の保安基準等の一部を改正する省令」に書かれています。

—-

 第四十六条に次の一項を加える。

 前項の規定により速度計百キロメートル毎時を超える速度を示す部分にその旨を黄色又は赤色で表示しなければならない自動車には、次の基準に適合する速度警報装置を備えなければならない。

1.当該自動車の速度計の指度が百キロメートル毎時を超えている場合に、その旨を運転者にブザ(原文まま)その他の装置により警報するものであること。

2.当該自動車の速度を調整する方法以外の方法によって、運転者において作動を解除することができない構造であること。

—-

 また、そのことを受け、自動車の適合検査を手掛ける自動車技術総合機構では、保安基準第46条第2項「速度警報装置の装備要件及び性能要件」で、装備化が保安基準に追加されました。

 車検整備の保安確認検査の際、スピードメーターの動きの確認と合わせて、音がしっかり鳴るかなどを確認していました。

 つまり、音が鳴ることを確認できなければ、車検に通らなかったのです。

 キンコンという音は、小型の鉄琴をスピードメーターの裏側に装着し、物理的に音を鳴らす車が多かったですが、1980年代に入ると電子ブザーや機械式チャイムを使用するような車が増えてきました。

 しかし当時を知る整備士によれば、クルマの構造などに詳しい人であれば、配線を外すなどして警告音が鳴らないようにすることも可能だったといいます。

 そして、1986年(昭和61年)3月に交付し、即日施行された運輸省令第3号「道路運送車両の保安基準の一部を改正する省令」により、キンコン音の義務付けが廃止されました。

■「キンコン音」は“ガイアツ”と眠気誘発の危険から廃止された!?

 速度警告装置が廃止された理由については、省令にもはっきりと記されていません。

 しかし以下のような理由が有力な説といわれています。

—-

1.速度警告装置が日本独自の規制だったため

2.居眠り運転を誘発してしまうため

—-

 まずひとつめから説明しましょう。

 速度警告装置は日本独自の規制でした。しかし、装置がついていないと車検に通らないのは輸入車も同様です。

 そのため、海外の自動車メーカーが日本でクルマを販売するためには、速度警告装置を取り付ける必要がありました。

 もともと日本車のほうが価格も安く燃費も良いうえ、国内で扱いやすいボディサイズであることから人気がありました。

 一方で1970年代から1980年代当時の多くの輸入車は、大きくて扱いづらいボディサイズの高級車が主流で、販売店も少ないことから、販売台数も伸びていませんでした。

 その上、日本の保安基準に適合するために速度警告装置を装着する余計なコストもかかります。

 当時輸入車のインポーター業務で出荷前点検(PDI:Pre-Delivery Inspection)に携わっていたNさんは、以下のように話します。

「私の勤め先で扱っていた当時の正規輸入車にも“速度警報装置”は取り付けられていました。

 モデルによってはブザー音のようなそっけない警告音が鳴るものもありましたが、のちに音質の良い日本製に交換しました。

 併せて、スピードメーターの時速100キロ以上の表示部分を赤色にする必要があったので、国内で扇状のシールを貼り付けたモデルもありました」

 1980年代は、日本車の海外における販売台数増加が急速に進んだ時期でもありました。

 海外(とくに米国)の自動車メーカーとしてはかたよった貿易摩擦を解消し、一層輸入車を販売しやすい環境を作りたかったため、手間とコストがかかる日本独自の規制を撤廃するように働きかけた(外圧をかけた)、というのがキンコン音廃止の最大の要因とされています。

1982年に登場したホンダ「プレリュード」(2代目)のメーターパネルも、時速100キロ以上の表示周囲には赤い色が加えられていた1982年に登場したホンダ「プレリュード」(2代目)のメーターパネルも、時速100キロ以上の表示周囲には赤い色が加えられていた

※ ※ ※

 廃止されたもう一つの要因に「キンコン音が眠気を誘発してしまう」というものがあります。

 速度警告装置の音が鳴ったらスピードを落とす人もいれば、速度超過と知りながらも鳴らしたまま走り続ける人がいたのも事実です。

 キンコン音は時速100キロ(軽自動車は80キロ)を超えている間は、一定のリズムで鳴り続けます。

 その音をずっと聞き続けていると、だんだんと眠くなってきてしまう危険性も指摘されていました。

 スピード超過を警告して事故を防ぐために装着を義務化したものが、居眠り運転を誘発してしまうかもしれないという新たなリスクを生み出していたのです。

※ ※ ※

 昭和の高度経済成長もたらした好景気によって人々の生活が豊かになり、自家用車も一般家庭に普及していきました。

 クルマの普及とともに急増したスピード超過が原因の悲惨な交通事故を防ぐために、速度警告装置の取り付けが義務付けられた経緯があります。

 日本国内での事故を防ぐために義務付けられたものでしたが、日本でクルマの販売を増やしたい海外からの声などを受けて廃止に至りました。

 その後のさらなる技術開発により多くの安全装置が備わったクルマが普及し、いまでは交通事故の数も激減しています。

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