最近のクルマは「ターボ」をなぜアピールしない? かつての「憧れ」は過去のもの? 当たり前になったターボの意義とは
くるまのニュース / 2022年6月21日 7時10分
かつては高性能車の代名詞だった「ターボ」という言葉。最近では採用例が増えているものの、昔ほどアピールするメーカーは減りました。そこにはどのような背景があるのでしょうか。
■かつては高性能車の代名詞だったターボ
エンジンにさらなるパワーを与えるターボチャージャー(ターボ)は、かつては高性能車の代名詞ともいえる存在でした。
しかし、昨今ではターボを搭載していることをアピールしているモデルは少なくなりました。そこにはどのような背景があるのでしょうか。
ターボの基本的な仕組みは、エンジンから排出された空気を用いてタービンを動かし、それによってより圧縮された空気をエンジンに送り込むというものです。
原理上は、空気が圧縮されればされるほどエンジンの燃焼効率は高まり、より多くのパワーを生み出すことが可能となります。
そのため、一般的には、自然吸気(NA)のエンジンに比べてターボを搭載したエンジンのほうが最高出力が向上します。
ターボが持つこうした特性は、これまではおもに高性能車向けに活用されてきました。
乗用車にターボが搭載されるようになったのは、1960年代のアメリカが最初とされています。
日本国内でターボが搭載された乗用車は、1973年に発売されたBMW「2002」が最初とされており、その後ポルシェ「911」などにもターボ搭載モデルがラインナップされるようになりました。
国産メーカーでは1979年に発売された日産「セドリック/グロリア」を皮切りに、同じく日産の「ブルーバード」や「スカイライン」にもターボを搭載。
その後、国内外の多くのメーカーがターボエンジンをラインナップするようになり、一気に普及することになります。
ただし、当時ターボが搭載されていたクルマのほとんどが、スポーツカーあるいは大排気量の高級車といった高性能モデルでした。
つまり、この当時のターボは、必要十分以上の性能を有していることの代名詞という意味合いがあり、「ターボ搭載」ということが声高らかにアピールされていたのです。
いわゆる「ドッカンターボ」と呼ばれる、背中を押されるような加速は1980年代から1990年代のスポーツカーの大きな特徴となりました。
その後、1990年代以降には、高級スポーツカーなどを中心に2組のタービンを備えた「ツインターボ」も見られるようになり、「ターボラグ」を最小限にしつつ、超強力なパワーを発揮するモデルも登場。
このように、高性能車の代名詞とされてきたターボですが、その一方で、近年販売されているモデルでは、かつてほどターボを搭載していることをアピールしている例は多くありません。
その背景には、自動車産業におけるターボの位置付けが変化したことが関係しています。
■ターボは燃費向上技術へと変化も、電動化で廃れゆく存在に?
自動車産業の歴史は、いい換えれば環境規制への対応の歴史でもありました。
内燃機関という仕組みを用いている以上、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出は避けられませんが、年々厳格化する世界各国の環境規制に対応するために、自動車メーカーは知恵を絞ってきました。
基本的に、排気量が小さいエンジンほどCO2の排出量も少なくなるため、小排気量のエンジンを搭載することが環境規制へのもっと即効性のある対応策でした。
しかし、排気量を小さくするとパワーも低下することになるため、単に小排気量エンジンを採用しただけでは、商品としての魅力が損なわれてしまいます。
そこで、ターボを搭載することで小排気量ながら必要十分なパワーを持つクルマを提供する自動車メーカーが増えたのです。
これらは「ダウンサイジングターボ」と呼ばれ、2010年代の自動車産業におけるひとつのトレンドとなりました。
ダウンサイジングターボを積極的に採用したのはヨーロッパの自動車メーカーたちでした。
当時のヨーロッパでは、ガソリン車やディーゼル車が主流で、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)はもちろん、ハイブリッド車(HV)すらほとんどありませんでした。
世界中の自動車メーカーは、年々厳しくなる環境規制に対応することを目的として、さまざまな新型パワートレインの開発に取り組んでいました。実際、日本や北米では、2010年時点ですでにHVが普及し、EVも市販されていました。
ダウンサイジングターボというアイデア自体は世界中の自動車メーカーが持っていたとされていますが、ヨーロッパの自動車メーカー以外はそれほど積極的に採用することはありませんでした。
その理由は、ダウンサイジングターボでは次の10年は対応できても、そこから先の伸びしろがないというものです。
しかし、当時は電動化に対する研究開発が十分でなかったヨーロッパの自動車メーカーは、伸びしろがないことを承知でダウンサイジングターボに手を出したといわれています。
ダウンサイジングターボを搭載したモデルが登場するようになってからおよそ10年以上が経過した現在、当初の想定通りダウンサイジングターボだけでは環境規制に対応できなくなったヨーロッパの自動車メーカーは、これまでの遅れを取り返すべく、電動化を積極的に推進するようになりました。
日本の自動車メーカーのようにHVを経ることなく、一足飛びにEVやPHVのラインナップ拡充を急いでいるヨーロッパの自動車メーカーにとって、ダウンサイジングターボはすでに過去の技術となってしまっています。
ターボ自体は、現在販売されているガソリン車の多くに搭載されています。
しかし、それはかつてのように必要十分以上の性能を引き出すためのものではなく、燃費向上技術のひとつという位置付けであるため、積極的にアピールされることは少なくなりました。
燃費向上技術という点では、HVやPHEV、EVといった電動車のほうがユーザーにとってもキャッチーであり、イメージが湧きやすいという事情もあるようです。
ホンダ「N-ONE」ではかつて流行った「逆TURBO」のステッカーがオプションで用意されている
つまり、現時点ではターボは廃れてしまったとはいえません。
しかし、世界的に電動化が進む昨今の自動車産業において、ターボは積極的にアピールされるものではなくなったことから、多くのユーザーにとってターボは廃れてしまったように感じられるのかもしれません。
※ ※ ※
仕事などを精力的に進めるようすを「ターボが掛かっている」などと表現することがありますが、これはかつてターボが高性能車の代名詞だったころの名残といえます。
時代の流れとともに、こうした表現も変化していくことになるかもしれません。
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