「概念変える走り」実現? トヨタ新型「クラウン」はSUV化も走りに自信!? 今から「期待しかない」理由とは
くるまのニュース / 2022年7月28日 6時10分
トヨタ16代目新型「クラウン」(クロスオーバー)は、横置きFFベースのAWDを採用。従来のFRレイアウトから変更されるほか、トヨタの誇る最新技術がフル活用されるといいます。果たして、どのような走行フィールになると予想されているのでしょうか。
■急転直下のプロジェクトで誕生した16代目「クラウン」
トヨタの乗用車ラインアップのなかで「顔」となる存在が、「ヤリス」、「カローラ」、そして「クラウン」でしょう。どのモデルも長い歴史を持っていますが、豊田章男社長は「ロングセラーだからこそ、今後も生き残るためには変わる必要がある」と語り、変革を実行してきました。
ただ、そのアプローチが全て異なっているのが興味深いところです。
ヤリスは1961年に登場したトヨタの大衆車の源流「パブリカ」の末裔です。ベーシックコンパクトカーという立ち位置は不変ながらも、時代に合わせてスターレット→ヴィッツ→ヤリスとネーミングやコンセプトを変えながら変革を遂げています。
カローラはパブリカの上級モデルとして1966年に登場。以後、50年以上に渡る歴史を刻んできましたが、変革となった12代目のコンセプトは「ユーザーの期待値を上回る価値の提供」、つまり「原点に戻る」でした。
その実現のために、仕向け地によってバラバラだった車種体系をグローバルで一本化……という決断をおこなっています。
クラウンは1955年に登場以降、「日本の高級車」という軸をぶらすことなく進化・熟成を重ねてきましたが、その長い歴史が逆に足かせとなり保守的に。
そこで16代目は、クラウンのDNA「革新と挑戦」の再構築のために、「セダン」、「日本専用車」からの脱却、そして、多様化するニーズに対応すべくこれまでの概念を覆す複数のボディバリエーションを用意しました。
どのモデルもトヨタの「もっといいクルマづくり」が色濃く反映されているのはいうまでもありませんが、そのなかでもクラウンの変貌ぶりは世のなかに大きなインパクトを与えました。
なぜ、そこまでしてクラウンを変える必要があったのでしょうか。それは歴史を振り返るとヒントがありました。
クラウンの歴史を振り返っていくと、成功の裏に数々の失敗も……。それが故にコンセプトやデザイン、モデルバリエーションなどを保守的にしてしまった事も否めません。また、2000年以降は日本専用車であることが進化の妨げになったのも事実です。
さらにセダン市場の縮小、レクサスブランドの日本展開、アルファード/ヴェルファイアの存在、さらには輸入車の進出などにより、次第に存在感が薄れていきました。すると、ユーザーの心理は「いつかはクラウン」から「誰でもクラウン」を経て「本当にクラウンでいいの?」に変わっていきました。
要するに、クラウンの知名度は高いけど、どこか「他人事のクルマ」という存在になってしまったのだと思います。
しかし、トヨタはただ指を咥えて見ていただけでなく「変わる」ための努力はしていました。その筆頭が豊田章男社長です。彼は「一目見て、『欲しい!!』、そう思えるクルマにするなら何を変えてもいい」と開発陣にハッパをかけたといいます。
そんななかで生まれた14代目は特徴的なデザイン、15代目はTNGAのフル活用で日本専用車ながら海外で通用する走りを手に入れましたが、好転せず。つまり、見た目や走りが変わるだけではダメで根本から変える必要があると考えたのです。
「このままではクラウンは終わってしまう。何としてでもクラウンの新しい時代を作らなければならない!!」
そんな経緯から生まれたのが16代目です。
実は開発チームは「満を持して……」ではなく、急転直下で生まれたプロジェクトだったそうです。
計画がスタートしたのは約2年前、元々は15代目のマイナーチェンジが進められていたといいます。
そのスケッチを見た豊田社長から「本当にこれでクラウンが進化できるのか?」、「マイナーチェンジを飛ばしてもいいので、もっと本気で考えてみてほしい」という提案で、16代目の開発がスタートしたといいます。
開発チームはこれまでの固定概念は全て捨て決断したのが、クラウンの呪縛を取る事……つまり、セダンと日本専用車からの脱却でした。さらに「皆が求めるクラウンはひとつじゃない」ということで、複数のモデルバリエーションを用意しました。
それがセダン+SUVの発想で生まれた「クロスオーバー」、エモーショナルなスポーツSUV「スポーツ」、アクティブライフを楽しむ相棒「エステート」、そして正統派サルーン「セダン」の4台です。
クロスオーバー/スポーツ/エステートはわかりますが、セダンをやめるといいながらセダンが残っているのはなぜか。
実はセダンの開発を指示したのは豊田社長です。中嶋プレジデントは「正直いうと、耳を疑った」といいますが、同時に「セダンの呪縛が解けた今だからこそ、新たな発想でセダンを作りなさい」という問いかけに聞こえたそうです。
豊田社長はこの4台のクラウンを見て、開発陣に「ちょっと調子に乗りすぎていない? でも、これは面白いね」、そして試験車両のステアリングを握って「これぞ、新時代のクラウンだね」と語ったといいます。
■「意のままの走り」と「リラックスできる乗り心地」をどう両立した?
では、新型クラウンはどのような走りなのでしょうか。多くの人が気になっているのは「縦置きFRベース」からAWDを採用するとはいえ「横置きFFベース」でクラウンの走りが実現できているのか、でしょう。
開発チームは「新型は『意のままの走り』と『リラックスできる乗り心地』を高次元で両立できました」と自信を見せます。
上級モデルのパワートレインはフロントに直列2.4リッターターボ+1モーター+ダイレクト6AT(トルコンの代わりにクラッチ機構を採用)、リアにeAXleを採用する「デュアルブーストハイブリッドシステム」です。
トヨタ新型「クラウン」(クロスオーバー)
エンジンとモーターの間にはクラッチが配置されているので、状況に応じてエンジンとモーターの使い分けや統合も可能です。つまり、THSIIのネガ(=ダイレクト感、レスポンス、伸び感)を解消する、ハイブリッドの新たな選択肢というわけです。
さらにリアの高出力モーターとの協調制御により前後の駆動力配分を走行状況に応じて100:0から20:80まで最適に制御をおこなうことが可能です。要するにFF~AWD~FRの走りを一台で楽しめてしまうというわけです。
プラットフォームは横置きレイアウトからRAV4/ハリアーなどが採用する中型車用(GA-K)がベースだと思われていますが、実は新型クラウン用に新開発された物です。もう少し具体的にいうとフロントがSUV用、リアがセダン用を最適化して活用、サスペンションはフロントがストラット、リアは新開発となるマルチリンク式を採用しています。
さらに四輪操舵(DRS)や車両運動制御システム(VDIM)やACA(アクティブコーナリングアシスト)といった最新の制御技術、さらにはカローラ累計5000万台記念限定車で話題となった除電スタビライジングシートなどを組み合わせるなど、トヨタが現在持っている最新技術をフル活用している事がわかります。
ちなみに豊田章男社長は昨年12月におこなわれた電動化戦略発表会で、筆者の質問に対して「電動化技術を活用すれば、AWDのプラットフォームをひとつ作れば制御次第でFFにもFRにもできます。そんな制御を持ってすれば、モリゾウでもどんなサーキット、どんなラリーコースでも安全に速く走れる事ができます」と答えてくれました。
しかし、それはBEVだけでなくこの新ハイブリッドでも実現できるということを、このシステムが証明しています。
新型クラウンの走りについて聞いたところ、開発責任者の皿田明弘氏は「駆動方式の概念を変える走りを実現できたと思っています」と語っていますが、BEVながらも似た機構を備えるレクサスRZに試乗して驚いた筆者としては、「期待しかない」というのが本音です。
このように、新しいコンセプト、そして新しい走りを備えた16代目、ユーザーは明治維新の如く「文明開化の音」を感じることができるのでしょうか。筆者は間違いなく「YES」だと信じています。
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