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なぜ関西では駐車場を「モータープール」と言うの? 東京では廃れた表現が今も残る背景とは

くるまのニュース / 2022年8月25日 9時10分

月極駐車場や時間貸し駐車場を表す言葉について、大阪を中心とした関西地方では「モータープール」とよぶことがあります。なぜ関西地方だけは「モータープール」という言葉が使われているのでしょうか。

■大阪以外ではほとんど見られない「モータープール」、その理由は?

 大阪を中心とした関西地方で多く見られる「モータープール」。
 
 月極駐車場や時間貸し駐車場を表す言葉ですが、なぜほとんど大阪だけで「モータープール」という言葉が使われているのでしょうか。

 同じ日本でありながら、東京と大阪では文化が大きく異なります。その最たるものが言葉ですが、クルマに関する言葉にも両者で大きな違いが見られ、「モータープール」は、そんな言葉のひとつです。

 クルマを表す「モーター」と、「あるものがたまっている状態」を表す「プール」を組み合わせた「モータープール」は、大阪を中心とした関西では「駐車場」を意味する言葉として一般的です。

 実際、大阪の中心部である梅田駅周辺には、2022年8月現在で20を超える「モータープール」が存在しています。

 一方、東京駅周辺には「モータープール」という名称が付けられた駐車場は皆無です。もちろん、駐車場自体は東京駅周辺にも多く存在しています。

「モータープール」という名称の駐車場はそのほとんどが大阪府内にあり、それ以外では奈良県や和歌山県の都市部などで見られます。

 一方、同じ関西でも京都や兵庫ではそれほど多くはなく、「モータープール」は、かなり局所的なものであることがわかります。

 また、「モータープール」と呼ばれる駐車場には、なんらかの特殊な設備やシステムがあるというわけでもないようです。

 ただし、より詳しく見ていくと「プール」という言葉のとおり、複数台駐車できることは必須条件といえそうです。そのため、戸建住宅の駐車場を「モータープール」と呼ぶことはありません。

 また、店舗や施設に併設された一時利用のための駐車場も「モータープール」と呼ぶことはないようです。

 このように考えると「モータープール」は、「複数台のクルマを、一定期間にわたって駐車する場所」ととらえることができます。

 ちなみに、現在では時間貸し駐車場(コインパーキング)も「モータープール」と呼ばれていますが、コインパーキングが誕生したのは1990年代と比較的最近のことであり、それ以降月極駐車場から業態を変更する例も多く見られました。

 もともと「モータープール」の名で運営されていた駐車場が、コインパーキング化してからも便宜上同じ名称を利用する例が多かったことが、現在ではコインパーキングも「モータープール」と呼ぶようになった背景と考えられます。

 逆にいえば、「モータープール」の本来の意味に「時間貸し」というニュアンスはないと考えて良さそうです。

「モータープール」については「大阪(関西)における『駐車場』の呼び方」と説明されることがしばしばありますが、「駐車場」はより広い意味の言葉であるため、それは必ずしも正しくありません。

 東京(共通語)では、「モータープール」と完全に合致する言葉はなさそうです。強いていえば、「パーキング」などがそれにあたるかもしれませんが、俗語的表現であり「モータープール」ほど一般的とはいえないようです。

■実は東京にもあった「モータープール」 どこにあった?

 では、なぜ大阪を中心とした一部の地域で「モータープール」という言葉が浸透するようになったのでしょうか。

 この点については、これまで多くの人々が考察をおこなってきました。

 しかし、言葉の成り立ちや移り変わりは、あるはっきりとした時点や場所でおこなわれるものではなく、さまざまな要素が複雑にからみあって起こります。

 そのため、「モータープール」の成り立ちについても、あいまいな部分は多いようです。

 ただし、1953年に梅田駅前でオープンした第一生命ビルディングには、地下に大阪初となる「モータープール」を備えていることが、当時の新聞で報じられています。

 また、1950年に発表された三島由紀夫の小説『愛の渇き』では、現在の阪急うめだ本店付近に「モオタア・プール」があったという描写が見られます。

 つまり、少なくとも終戦直後には、大阪で「モータープール」という言葉が用いられていたことがうかがえます。

 一方、同時期の小説家である宮地嘉六が1952年に発表した『老残』には次のような一文が見られます。

「一方はモータープールの金網の塀(へい)が続いていて、その二間幅ほどの通路を進駐軍将兵がひつきりなしに往来している所なのである」

 ここで注目すべきは、この小説の舞台は戦後間もない東京であるという点です。また、作者の宮地嘉六も関西出身であったり、関西に居住歴があったりすることはありません。

 つまり、「モータープール」は、大阪や関西地方で生まれた言葉ではないことがわかります。

 英語の「motor pool」は、軍事機関などにおいて軍用車両や関係車両を一時的に留め置いておく場所を意味します。

「軍用車を留め置くスペース」として「motor pool」という表現を使っていたという(画像はイメージ)「軍用車を留め置くスペース」として「motor pool」という表現を使っていたという(画像はイメージ)

 広い意味では「駐車場」と呼べるかもしれませんが、日本語の「モータープール」よりも限定された意味の言葉のようです。

 ただ、英語の「motor pool」が、現在日本語として使われている「モータープール」との語源となっていると見て間違いなさそうです。

 日本は、1945年9月2日から1952年4月28日にいたるまでの約7年の間、連合国軍による占領統治下となっており、連合国軍は実質的には米軍であり、日本では「進駐軍」という呼ばれることのほうが一般的でした。

 当時、東京の中心部には連合国軍の公的機関が多く設置されていました。例えば、連合国軍総司令部は、日比谷にあった第一生命館(現在の第一生命日比谷ファースト)に設置され、周辺には多くの「motor pool」が存在。

 進駐軍の関係者は、あくまで「軍用車を留め置くスペース」として「motor pool」という表現を使っていたところ、それを聞いた日本人が「複数台のクルマを、一定期間にわたって駐車する場所」として理解したことが、現在の「モータープール」につながっていると見ることができそうです。

 当時、大阪にも進駐軍の各種機関が設置され、それにともない「motor pool」も用意されました。そしてそれを「複数台のクルマを、一定期間にわたって駐車する場所」として理解したという事情は、東京も大阪も変わらないようです。

■紆余曲折を経て、なぜ大阪だけで生き残った?

 では、なぜ大阪を中心とした一部の地域だけで「モータープール」という言葉が生き残ったのでしょうか。

 この点についても諸説ありますが、東京で「モータープール」という言葉が廃れていったのには、進駐軍をイメージする言葉が敬遠される傾向が強かったことと関係しているようです。

 それまで「敵国語」であった英語を積極的に使うことがためらわれるのは、多くの人が共感するところです。

 そのため、その後モータリゼーションが発達した後も「駐車場」という漢語表現が一般的に用いられるようになったようです。

 そのほか、東京では進駐軍による「motor pool」が、占領統治の終了後比較的早い段階で撤去されたことなども、「モータープール」が定着しなかった一因のようです。

自動車メーカーなどの生産車を保管する場所を「モータープール」と呼ぶこともある自動車メーカーなどの生産車を保管する場所を「モータープール」と呼ぶこともある

 一方、ホンダの創業者である本田宗一郎氏が、戦後進駐軍向けのバイク整備で資金を得たように、商才のある人々にとって進駐軍は新たなビジネスチャンスでもありました。

 いうまでもなく、大阪は古くから商人の街です。戦後になり、雨後の筍のように大阪の街に登場した「モータープール」ですが、来たるべきマイカー時代を見越した中小企業や個人によるものだったといわれています。

 一般的に、外来語は現代的かつ新鮮な印象を与えます。復興に向けて動く大阪の人々にとっては、「モータープール」は「敵国語」ではなく、モダンな印象を与える言葉という側面が強かったのかもしれません。

 もちろん、これもあくまでひとつの仮説に過ぎません。ただ、「モータープール」が大阪を中心とする一部の地域で局所的に用いられている背景には、新しいものを柔軟に採り入れることで街を賑わせてきたという、商人の街ならではの精神があることは間違いなさそうです。

 ※ ※ ※

 テレビやインターネットの発達によって、全国各地の文化が均一化されつつある昨今では、「モータープール」という表現も存在感を失いつつあるようです。

 言葉が移り変わることはいつの時代でもあることですが、いままで慣れ親しんだ言葉が廃れていくのは、どこか心寂しいものです。

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