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新型「戦車」の開発期間はクルマ以上? ライバル不在の「90式戦車」とはなんだったのか

くるまのニュース / 2022年9月9日 6時30分

地上戦の要となる戦車。クルマの研究開発と同じく、世界中のライバルと追いつけ追い越せ競争で性能、品質向上させて進歩しています。そうしたなかで、登場した際にライバル不在の戦車が存在しました。それはどのような状況だったのでしょうか。

■生まれてみればライバルがいなくなっていた90式戦車

 クルマの研究開発は世界中のライバルと追いつけ追い越せ競争で性能、品質向上させて進歩しています。
 
 これは戦車も同様ですが、登場した際にライバル不在の戦車が存在しました。それはどのような状況だったのでしょうか。

 日本は戦後61式戦車、74式戦車、90式戦車、10式戦車を国産してきましたが、3代目の90式は国際環境が激変した時期に生まれました。

 戦後の自衛隊は東西冷戦という国際環境下で常にソ連軍を意識して備えてきました。

 61式も74式のソ連の戦車がライバルで、90式戦車も日本に上陸してきたT-72というソ連軍戦車に対抗するというコンセプトで開発されています。

 90式戦車が完成制式化されたのは1990(平成2)年のことですが、翌1991(平成3)年にはソ連は崩壊して東西冷戦は終結。

 T-72が日本に上陸してくる可能性はほぼゼロとなり、90式が生まれてみればライバルはいなくなっていたわけです。

 戦車は開発から生産にこぎ付けるまで長い時間がかかります。設計着手段階で完成した時代を予想するのは「賭け」に近いものとさえいわれます。

 90式の場合は「賭け」は外れてしまったといえるかもしれませんが、東西冷戦の終結により平和な時代が訪れると思えば悪いことではありません。

 クルマの新車開発にも数年かかり、未来を読まなければならないのは同じです。

 スズキ公式サイトの「スズキこどもの質問箱」には「新車開発にかかる時間は?」という質問があり、下記のように記載されています。

「全く新しい自動車を企画してから工場で生産されるまでには、およそ3年くらいかかっていました。

 最近では技術(ぎじゅつ)が進んで、開発期間はどんどん短くなってきていますが、新しい自動車を開発するときにはその開発期間の長さを考え、少なくとも5~10年先を考えて開発しています」

 クルマの新車開発においても将来を予測する「賭け」の要素が多いことが分かります。

 90式の開発が始まった1977(昭和52)年は冷戦期でありソ連軍の戦車が北海道に上陸することが真面目に脅威とされていました。

 現実には極東ソ連軍には日本に十分な数の戦車を上陸させられるだけの輸送力は無かったのですが緊張感は高く、「ソ連軍北海道上陸!」なんて仮想戦記物が出た世相でした。

 当時ソ連は125mm滑腔砲を備えたT-72の生産配備を始めており、陸上自衛隊主力の74式戦車の105mm砲では力不足とされ、T-72に対抗できる新戦車の開発が急務とされていたのです。

■新戦車として登場した「90式戦車」はどんな存在だったのか?

 新戦車は日本でT-72と戦う為に主戦場と想定された北海道の地形、道路、橋梁、田畑から植生、市街地構成、気象環境など多くの要素がパラメーターとして検討が繰り返され、着手から3年後の1980(昭和55)年に開発要求書がまとめられました。

 アメリカのM1エイブラムスやドイツのレオパルド2といった「第3世代」と呼ばれる他国戦車の主砲は120mmを採用しており、新戦車の主砲は120mm砲、重量は50t以下、出力重量比は30hp/tでエンジン出力は1500馬力レベル、正面から120mm弾に耐えることなどが列国の「第3世代」に匹敵する性能が要求仕様に盛り込まれたといわれます。

 この要求に応える為技術の粋が集められました。例えば目標を照準するのに74式までは光学照準器を覗きこんでいましたが、90式では物体の発する熱線(赤外線)を捉えるサーマル映像装置のモニターで見て照準します。

 夜間でも使用でき、悪天候、煙幕やカモフラージュなどの影響も受けにくくなっています。

 さらに画像自動追尾機能が付き、ロックオンボタンを押すと画像が記憶され、お互い移動しても目標を追尾し続けることができます。

 この技術は現在では防犯カメラの顔認識追尾機能で広く使われるようになっています。

豪雪の中、隊列を組んで待機する戦車隊。みるみる雪が積もって自然の冬季迷彩になっていく。(撮影:月刊PANZER編集部)豪雪の中、隊列を組んで待機する戦車隊。みるみる雪が積もって自然の冬季迷彩になっていく。(撮影:月刊PANZER編集部)

 また主砲弾の自動装填装置が採用されたのも特徴です。先に紹介した目標ロックオン機能により主砲は目標を狙い続け移動中でも装填でき、行進間射撃が可能になりました。

 手動装填では行進間主砲が目標を指向し続けていると砲尾が不規則に動き回り装填手は危なくて装填できません。それまでは停止して射撃するのが普通でした。

 こうして日本の技術力の粋を集めて完成した90式戦車は他国の「第3世代」戦車に勝るとも劣らないスペックを実現。2010(平成22)年の3月で調達終了まで341両が生産されました。

※ ※ ※

 結局ライバル不在となった90式は無駄だったのでしょうか。

 90式が生まれたときは冷戦が終結し平和な時代が来て「賭け」は外れたように見えます。

 しかし、平和な時代とは次の戦争の準備期間、という現実を再確認させられると、実は「賭け」は当たっていたのではないかとも思えてきます。

 確実にいえるのは次世代の10式戦車に繋がる技術伝承という役目を果たしたということです。

 先に紹介した画像自動追尾機能や自動装填装置などはさらに進化して10式のIT戦闘システムにも生かされ、複雑なスラローム射撃が出来るまでに進歩しました。「賭け」は当分続きそうです。

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