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なぜ日本の「幼稚園バス」は安全性劣る? 韓国は子供の安全重視も… 背景には幼稚園団体の「認識のズレ」あった?

くるまのニュース / 2022年9月30日 7時10分

昨今、子供の車内置き去りによる事故が話題となっています。また、かねてから幼稚園バスに子供用シートベルトが装着されていないことも問題視されていますが、なぜ子供の安全性は向上しないのでしょうか。

■日本の「幼稚園バス」安全基準はどうなっている?

  日本には公立(2920園)・私立(6152園)合計で9072の幼稚園が存在しており、認定こども園や保育所などを合わせると幼児のための施設は約4万か所以上。

 そのうち全国で合計約1万の園が送迎バスを保有しています。1つの園が複数台のバスを所有していることも多いので数万台のバスが日本各地で日々、園児の送迎に使われていることになります。

 しかし、日本で使われる幼稚園バスはチャイルドシートやシートベルトの設置義務がありませんが、隣の韓国では厳格化されたルールが存在するといいます。なぜ高い安全性を誇る日本車にもかかわらず、幼稚園バスの安全性は低いのでしょうか。

 通称「園バス」、「幼稚園バス」などといわれるこれら送迎バスの正式名称は「幼児専用車」(幼稚園バス)といい、道路運送車両の保安基準(以下、保安基準)においては、座席の寸法や補助座席の設置禁止、通路の設置義務や寸法要件、立席の設置禁止、乗降口や非常口の設置義務や要件などについて定められています。

 保安基準第22条の3によって「座席ベルトの装備要件」は除外されているので、幼稚園バスにはチャイルドシートやシートベルトの設置義務がありません。

 また、保安基準のような法的拘束力はありませんが、平成25年3月には国土交通省(車両安全対策検討会)によって「幼児専用車の車両安全性向上のためのガイドライン」が公開されました。

 実際に国土交通省の国際基準課に聞いたところ「幼児専用車として自動車メーカーや架装メーカーによって製作される車両はほぼ100%、このガイドラインに準拠しています」とのことでした。

 このガイドラインでとくに強調されているのが幼児用座席の仕様です。

 さまざまな年齢(体格)の幼児が安全に使える幼児用座席ベルトが存在しないことで、座席の背もたれなどを衝撃を和らげる仕様に改良することが推奨されています。

 具体的には、以下の要件です。

 ・シートバック(背もたれ)の高さを100ミリ高くする。
 ・他車からの追突などで衝撃を受けた際、子どもの顔や頭がぶつかってもけがが少ないよう前席の背もたれ部分を分厚く柔らかい素材に変える。

 ちなみに園児に送迎に使う車両は必ずしも保安基準やガイドラインを満たした「幼児専用車」である必要はありません。

 一般のバスでもワンボックスでもセダンでも園長所有のクルマでも送迎用に使ってよいことになっています。

 ただし、幼児専用車としての保安基準を満たしていないと一般車両と同じ扱いになるため、5歳までの幼児が乗る際には体格に合ったチャイルドシートに乗せることが道路交通法によって義務付けられます。

 日本の幼稚園バスはさまざまな面で安全性があまり高くないと感じますが、一方韓国では先進の安全装備を持つ画期的な幼稚園バスが2021年発売されていました。

 ヒョンデ「スターリア・キンダー」という日本のワンボックスベースの幼稚園バスと同様のサイズです。どのような安全対策が施されているのでしょうか。

 スターリア・キンダーのボディサイズは全長×全幅×全高=5255×1995×2000mmで幼児の乗車定員はLPG車14人、ディーゼル車15人。

 日本の幼児専用車では免除されているシートベルトは子どもの体に合わせて肩ベルトの高さが調整できる3点式シートベルトを採用していおり、ベルト装着の有無は運転席で確認可能です。

 さらに韓国では、幼稚園バスでも乗る子供全員にチャイルドシートが義務付けられていますので、6歳以下の子供が乗る場合はチャイルドシートを着用します。

 法律で設置が規制されている置き去り防止のシステムも秀逸です。アナログとデジタルを組み合わせた「チャイルドオンボードアラーム」(写真右上)はエンジンをオフにしてボタンを3分以内に押さないとブザーが鳴るということになり、これでドライバーはすべての子どもが降りたかどうかを確認しています。

 規定時間内にボタンが押されない場合は幼稚園や保護者のスマホに警告が送られる仕組みとなっています。

 万が一、子どもが車内に残された場合に助けを求めるための「安全ベル」も装備されています。

 車内に閉じ込められた場合、車内からこのボタンを押すと、外部からでもわかる警告灯が点滅し、ドアロックが解除され、「助けて!」というメッセージがバスの外にいる人に向けて流れます。

 なお、韓国では2021年から幼稚園バスを含むスクールバスのガラスを透明にするというルールが導入されました。何かあった際に外部からも車内の様子が確認しやすくなります。

 3歳女児が車内置き去り事故で死亡した幼稚園バスには外から車内の確認困難な窓部分まで覆うラッピングが施されていましたが、韓国ではこのようなラッピングは一切禁止です。

■なぜ韓国は安全強化出来て…日本は遅れているのか…原因は全日本私立幼稚園連合会?

 ここで疑問に思うことがあります。世界最高の信頼性と先進の安全装備を備えたクルマを多数、国内外に送り出している日本の自動車メーカーがなぜ幼児用ベルトを開発できないのでしょうか。

 前述の幼児専用車の車両安全性向上のためのガイドラインでは以下のように記されています。

「現状、幼児専用車に装備される幼児用座席に適した座席ベルトが存在しないことから、今後、幼児専用車の使用実態に配慮した、幼児自らが正しく、かつ、容易に着脱できる、座席ベルトの開発を自動車製作者等に促す」

 このガイドラインが出されてから間もなく10年が経過しますが、いまだに幼児専用車に適したシートベルトは実装されていません。

 その理由について国交省や幼稚園バスを製造する自動車メーカーに聞いたところ、驚きの回答が返ってきました。

 ・幼児の使用に適した幼児用座席ベルト(ELR2点式)は開発が完了
 ・着脱に関しても3歳と6歳の園児数名でテストを実施。使用に問題がないことも確認されている。

 時間をかけて数多くのテストをして最良と考えられる幼児用ベルトはすでに開発済みだったのです。

 しかしながら、全日本私立幼稚園連合会に代表される幼稚園団体が幼児バスへのベルト装着に消極的で実装に至ってない現状があるのでした。

 2012年から開催されているヒアリングにおいて連合会のスタンスは現在も変わっていないといいます。

 ・幼稚園側としては、安全面について現状の車両で特に不安、不満はない。
 ・ベルトを装着するメリットよりデメリットの方が大きい
 ・コストがかさむので補助金を出してほしい
 ・ベルト脱着でスタッフの手間がかかるし、渋滞の原因にもなる。周辺住民からのクレームも来る。
 ・津波にのまれたり、踏切で故障して立ち往生したり、車両火災が発生した際、すぐに脱出できず危険だ

これが幼児専用車に適用される要件これが幼児専用車に適用される要件

 すべての乗り物でシートベルトを例外なく装着することは命を守る習慣を作るという教育的観点からも意義が大きいと思われますが、幼稚園側はスタッフの手間や周辺からのクレーム、設置コストのほうが重要と考えているようです。

 幼児の体を衝撃から守るベルトが全く存在しない現在の幼児バスでは大きな事故の際、子どもたちが車外に放出されて死傷する危険も十分にあります。

 急ブレーキだけでも座席から転げ落ち、床や金属製の支柱などに頭を打ち付けて大けがをするかもしれません。

 津波や車両火災など万が一の脱出性を心配するより、日常の衝突安全性を重視するべきではないでしょうか。

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