世界が注目する「WRC」とは何? 愛知・岐阜各地で「ラリージャパン」開催の意義は? 地域盛り上げの期待高まるなかの「メリット・デメリット」とは
くるまのニュース / 2022年11月9日 7時40分
2022年11月10日から13日に愛知県と岐阜県で「WRC(FIA世界ラリー選手権)」の日本ラウンドとなる「ラリージャパン」が12年ぶりに開催されます。どのようなイベントとなるのでしょうか。
■世界的人気のモータースポーツ競技「WRC」 11月10日から愛知・岐阜両県で開催
日本では12年ぶりとなるモータースポーツ「WRC(FIA世界ラリー選手権)」が愛知県と岐阜県の両県で、2022年11月10日より4日間開催されます。
世界的に人気のモータースポーツであるWRCが開催されることにより、この競技が開催自治体にもたらす効果はあるのでしょうか。
WRC(世界ラリー選手権)は1973年に創設された世界大会。そもそもラリーとはモータースポーツの一種で、スペシャルステージ(SS)と呼ばれる交通が遮断された一般道を市販車ベースのラリーカーで走行するものです。
ラリーは一般的なサーキットでの競技と違い、同時に複数台で走行して順位を争うのではなく、1台ずつ1分から3分間のインターバルを置いて出発。各SS内のタイムを競い、すべてのSSでのタイムを累計しもっともタイムが短ければ勝ちという競技です。
コ・ドライバーというコースのナビゲート役を助手席に乗せ、二人三脚で競技がおこなわれるのも特徴で、舗装路(ターマック)だけでなく、未舗装路(グラベル)や雪道のスノーなど、舗装路を走行するサーキット競技と違い、極めて過酷な路面状況を上手くコントロールしながら全開走行します。
WRCは三菱「ランサーエボリューション」やスバル「インプレッサWRX」などをはじめ、これまでに日本車も数多く参戦。日本車全体では累計151勝という結果も残してきたため、ファンも多いモータースポーツですが、日本では長らく開催されませんでした。
2004年、ついに北海道十勝地方で「ラリージャパン」としてWRCが日本初開催されました。2007年まで4回開催されたのち、2008年には札幌を中心とする道央地区に開催地を移し、2010年の第6回を最後に、いちど日本での開催はストップしています。
ちょうど10年ぶりとなる2020年の時点で、愛知県と岐阜県の両県での開催が予定されていましたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響によりやむなく中止。2021年も開催はできず、ラリーファンなどからは開催を危ぶむ声もありました。
そして2022年に2回の延期を重ねて、12年ぶりの日本開催が決定したのです。
競技は11月10日から13日までの4日間にわたって実施。競技コースであるSSは、愛知県では豊田市・岡崎市・新城市・設楽町の4市町で、岐阜県では中津川市・恵那市の2市で19に分かれて設定されます。
19の国と地域から38ものドライバーとコ・ドライバーがタッグを組み、これらの地域で最速を目指すべく、全開走行で駆け抜けます。
■大会開催により各市町村には大きなメリットが
12年ぶりとなる今回のWRC(ラリージャパン)ですが、開催にあたり6つの各自治体それぞれによる協力が不可欠です。WRCの日本での開催について各自治体はどのように考えているのでしょうか。メリットやデメリットなども含めて、自治体の担当者に直接取材をおこないました。
世界中に配信されるが現地を訪問し生で観戦するファンも多い
開催のメリットについて、岡崎市の担当者は以下のように話します。
「岡崎にいながら世界最高峰のレースを見ることができ、スポーツ振興を加速させられます。
県外、海外からの来訪者がいることにより、地域の活性化につながる側面も大きなメリットです。(ラリーの様子が)世界150か国以上でテレビ放映されるため、映像を通じてPRするチャンスです」
新城市の担当者は、「子どもたちがラリーに興味を持ってもらい、新城へと戻ってくるきっかけづくりになります」といいます。
豊田市の担当者は、開催のメリットについて「山間地振興」「交通安全推進」「産業振興」の3つを挙げています。
「豊田市の7割が山間地となっており、高齢化・過疎化も進んでいる中で、競技コースが山間地に設置されることで、山間地に対して(注目の)スポットを当てることができます。
11月は紅葉と名物である芝桜が咲き、年間でもかなり綺麗な景色を見ることができます。これを世界と日本全国に発信できることがメリットです」
交通安全推進と産業振興について、豊田市の担当者は以下のように続けます。
「豊田市はクルマのまちであり、今回のラリージャパン開催で交通安全を呼びかけたいと考えています。
ラリードライバーによる高齢者向けの安全教室を開いたり、JAFの『オートテスト』で運転技術の向上を目指した企画も考えています。
クルマのまちとして(ラリージャパンにより)若い方にもクルマに興味を持ってもらうきっかけとし、自動車産業の発展を目指したいです」
また、長久手市の担当者は「(トヨタGRチームに)出場する地元出身の勝田選手を知ってもらうことで、長久手市にも興味を持ってもらうきっかけとなります」と話します。
設楽町の担当者は「小さい町ですが、全世界に町の名前が発信されること」を最大のメリットとして挙げ、新城市、中津川市の担当者も同様の回答。各自治体ともに「地域の知名度が上がること」「観戦客の来訪により経済効果が期待できる」が共通した回答でした。
WRCは全世界で人気のモータースポーツであり、世界各国に大会の様子が配信されるため、地域の名称とともにこの時期では紅葉シーズンで美しく彩られた山間地の景色や、日本らしい街並みなどをアピールできる絶好のチャンス。WRC終了後のインバウンド需要も期待できます。
■既に経済効果も出始めている一方で開催自治体ではデメリットも
一方で、各自治体の担当者はメリットだけでなく開催によるデメリットも実感しているようです。
設楽町の担当者は「(SSが)金曜日の平日に開催するので、交通規制が発生します。通勤や通学に少なからず影響あります」と話します。
豊田市の担当者は、「交通規制が発生するので市民生活に影響がでます」としながらも「これまで開催してきたモータースポーツイベントでは市民の理解が得られています」とデメリットについてはさほど大きな問題ではないとしています。
全開走行するため道路の封鎖は必須
このように、ほとんどの自治体でデメリットとして取り上げていたものは、「地域住民への影響」。
競技の実施に際し、交通を遮断する必要があるため、平日開催の場合は通行止めなどの交通整理は必須で、通勤や通学への影響は免れません。
このことについて中津川市の担当者は「周辺住民の理解は絶対で時間もかかります」と開催の協力を得ることの大変さを話しています。
さらに、その交通整理をはじめ、会場のピックアップやPR活動など費用がかさむことが予想されます。新城市の担当者は「(開催には)かなりの予算が必要でした」と振り返ります。
また、SSについても各自治体で差があり、日程や開催のタイミングなどでデメリットを感じることもあるようです。
中津川市の担当者は「今回は、中津川市内のSSが午前中1回で終了してしまいます。定員も少ないです」と話します。
長久手市の担当者は「(ベッドタウンで宅地が多いという)地域の特性上SSが設定されません」と、地元出身の勝田選手が出場するなか、SS自体の設定がなされないことを嘆いています。
では、地域住民から理解を得なければならないという高いハードルがあり、その上予算も必要、さらには予想外の延期が2回も重なり、結果的に厳しいといわざるをえない状況に直面していますが、開催地域では盛り上がりを見せているのでしょうか。
ほとんどの自治体では、地域住民からの期待の声が多く、関心を寄せる方が多いといいます。
岡崎市の担当者は以下のように話します。
「当初ラリー競技自体への不安の声がありましたが、説明を繰り返すうちに理解を得ることができ、度重なる延期でも欠かさずPRイベントをおこなうことで、地域住民の熱と期待を高めることができました」
設楽町の担当者は、「新型コロナウィルスにより延期となったことを残念がる声が多かったです
町民からは『今年開催できるの?』といった声も上がり、ようやく開催できて期待が膨らんでいます」と続け、WRCにより全世界が設楽町のことを知ってもらうきっかけとして前向きに捉えている地域住民が多いと分析しています。
市民限定で観戦エリアが展開される新城市では、「地元の人たちは歩きで観戦エリアまで行くことができ、早くも『ラリーを見たい』という声もあがっています。
新城では20年間ラリー競技が開催されており、国外のラリーイベントのような、ひとつのお祭りのようになるといいですね」と今後についても期待を寄せています。
恵那市の担当者も「徐々に盛り上がりを見せている様子です」とコメント。
各地域の経済効果については、大会の開始前ということで正確にはわからないとする自治体がほとんどでしたが、豊田市や設楽町によるとすでに宿泊施設の予約が埋まっており、新規での予約は取りづらく、経済効果は大いに期待できると話します。
さらに設楽町の担当者は「SSとなる道の周辺に、ラリーファンと思われるスポーツカーやバイクなどが増えてきました」といい、開催前にも関わらず既に現地の様子を見たいモータースポーツファンが訪れているようです。
恵那市の担当者は、「SSやリエゾン区間のある地域では、観客の受け入れ準備を進めています。観光や宿泊などの経済効果に期待しているところです」と、観戦者が市の観光地にもお金を落とすことで、経済の活性化に期待を寄せています。
中津川市でも、「はっきりとしたもの(経済効果)は不明ですが、各媒体で市の名前が掲載されていることから、問い合わせも多く、広告としての効果を感じています」と、反響の高さを実感しているといいます。
※ ※ ※
今回のラリージャパンでは、開催に向けての各自治体による準備や、予想外の延期が2度も続くなど、調整に困難を極める側面も多く、それにともなうデメリットも避けては通れない現実があります。
一方で、開催によって全世界から各地域への注目が集まり、継続的な観光客増加と地域の活性化などに期待が持てるほか、通常横のつながりを持つことが少ない各自治体が、トヨタをはじめとする協賛企業と協働し、官民一体となってひとつのイベントを成功させようとするケースは珍しいといえます。
このラリージャパンが無事成功し、経済効果も具体的な数値によって明らかになることで、自治体と企業の協働による成功事例として残ることになるか、地域の活性化という視点からも期待の高まる大会となっています。
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