2090万円のトヨタ「センチュリー」に違法判決なぜ? 山口県「貴賓車購入」で勘違いされる問題点とは
くるまのニュース / 2022年11月8日 14時10分
2022年11月、山口地方裁判所は同県の村岡嗣政知事にトヨタ「センチュリー」を「貴賓車」として公費で購入したのは違法だとして、購入費全額の支払いを命じる判決をいい渡しました。各メディアでは「公費でセンチュリーを購入したこと」に問題があったように報じられていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
■「公費でセンチュリーを購入したこと」が違法なわけではない。
山口県がトヨタ「センチュリー」を「貴賓車」として公費で購入したのは違法だとして、山口地方裁判所は2022年11月、村岡嗣政知事に購入費全額の支払いを命じる判決をいい渡しました。
各メディアでは「公費でセンチュリーを購入したこと」に問題があったように報じられていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
この裁判は、山口県が「貴賓車」としてセンチュリーを公費で購入したのは、村岡嗣政知事による裁量権の逸脱であるとして、元県職員の男性が訴えを起こしたものです。
歳出削減が求められる昨今、よりリーズナブルな車種を選んだり、リースなどのファイナンスプランを活用したりといった方法もあったなかで、国産最高級車として名高いセンチュリーを購入したのは、知事の裁量を越えた無駄づかいであるという男性側の訴えが全面的に認められたかたちとなります。
この判決をうけて「センチュリー」「購入」「違法」といった言葉が各メディアの見出しに並びました。
各メディアの内容を見ても「公費でセンチュリーを購入すること」に問題があったような印象を与える報道も少なくありませんでした。
しかし、判決の内容をよく見ると「公費でセンチュリーを購入すること」そのものが違法というわけではなく、さまざまな背景があってこのような判決となったことがわかります。
まず、そもそも山口県では「貴賓車」としてセンチュリーを1台保有しており、問題となっているセンチュリーは2台目として配備されたものです。
確かに、各都道府県を見てもセンチュリーを常に保有しているのはわずかであり、さらにいえば2090万円での購入契約も全国で2番目に高額であったとして指摘されています。
ただ、外国の要人や皇族の送迎に用いることが「貴賓車」の主目的であることを考えると、後述するようにセンチュリーはもっとも妥当な選択肢のひとつです。
「貴賓車」を用意すること自体は妥当であり、センチュリーが適した1台であることも疑う余地はありません。
そのため、すでにセンチュリーが「貴賓車」として1台配備されているにもかかわらず、2台目のセンチュリーを新たに購入する必要性があったのかどうかが争点です。
調査の結果、問題となった2台目のセンチュリーが外国の要人や皇族の送迎に利用されたのはわずか6日であり、それ以外はほぼ県議会議長によって利用されていたことが明らかになりました。
たしかに、県議会議長も「貴賓車」の送迎の対象ではありましたが、利用実態を見る限りは2台目の「貴賓車」を購入する合理的な理由はないと判断されたことが、今回の判決につながったとされています。
つまり、一部のメディアでセンセーショナルに報道されているように「公費でセンチュリーを購入すること」に対する違法判決ではないことには注意が必要です。
■忘れてはいけない「貴賓車」の意義
「貴賓車」に対してどのような車種を選ぶかについての明確な規定はないため、極端にいえば軽自動車を選ぶことも可能です。
実際には、トヨタ「クラウン」や「アルファード」、レクサス「LS」、そしてセンチュリーのような国産高級車が選ばれるのが一般的です。
今回のケースの場合、そもそも「貴賓車」を購入する意義自体が不透明であったために、たとえ購入したものがセンチュリーでなかったとしても、大きな問題となっていた可能性は高いと見られます。
たしかに、歳出削減は国や地方自治体における最重要課題のひとつですが「貴賓車」には、国内外の要人に対して最大限の礼節を尽くすことで外交および内政上のメリットを得るという大きな目的があるため、その存在そのものを否定してしまうのは早計です。
世界を見ると「貴賓車」として用いられるクルマは、その国を代表する自動車メーカーのフラッグシップモデルであることがほとんどといえます。
いずれも、いわゆる高級車であることは事実ですが、単なるぜいたくなクルマというわけではなく「貴賓車」に求められる品格や機能性、実用性を追求した結果、高額なクルマとなっているケースが多いようです。
まさにショーファーカーを代表するトヨタ「センチュリー」 1度は後席に乗ってみたい
センチュリーについても、2008万円という国産車随一の価格でありながらも、設計思想や生産工程についても一般的なトヨタ車とは大きく異なっているため、「売れば売るほど赤字になる」といわれています。
にもかかわらず、センチュリーがいまなお現役であり続けるのは「貴賓車」というひとつの文化を形作っているからにほかなりません。
「貴賓車」という文化そのものを否定してしまうと、センチュリーの存在意義そのものが失われてしまいます。
それはすなわち、日本の自動車文化の大いなる喪失であるといえます。
税金が適切に使用されているかどうかは、われわれひとりひとりが厳しい目を持って判断しなければなりませんが、今回の山口県での例をうけて「貴賓車」そのものが否定されることがないようにしたいものです。
※ ※ ※
センチュリーには「一般人は購入することができない」や「購入のための審査がある」といった一種の都市伝説がささやかれることがあります。
実際にはそのようなことはなく、基本的には誰でも購入することが可能です。
たしかに、受注生産であるために購入の際には100万円程度の手付金が必要となることや、反社会的勢力でないことを確認する必要があることなどは事実ですが、これはセンチュリーに限った話ではありません。
前述の都市伝説はこうした話に尾ひれがついたものだと思われますが、そうした「伝説」を生んでしまうこと自体が、センチュリーが別格の存在であることの証左といえるかもしれません。
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