専用車「JPN TAXI」あるのになぜ? コンパクトミニバン「シエンタ」にタクシー仕様「じわじわ」増殖中の謎
くるまのニュース / 2022年11月24日 9時10分
2017年に発売を開始したタクシー専用車、トヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」が急速に数を増やしている一方で、コンパクトミニバン「シエンタ」を用いたタクシー車両もみかけることがあります。その理由についてタクシー業界関係者に訊ねてみました。
■東京の風景を一変させた「ジャパンタクシー」の増殖ぶり
東京2020オリンピック・パラリンピック開催を機に、都内の風景がすっかり変わりました。街を走るタクシーが、軒並みトヨタの新型タクシー車両「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」に切り替わったからです。
そんななか、あえてトヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」をタクシー車両に起用するケースもみられます。一体どうしてでしょうか。
かつては4ドアセダン車が主流だったタクシーも、近年はトヨタが2017年から発売を開始した「ジャパンタクシー」がその勢力を増しています。
キャビンが大きなコンパクトハイトワゴンスタイルと後席の大きなスライドドアが特徴で、広い車内が自慢です。
1995年から、日本のタクシーの代名詞ともいえるタクシー専用車種の「コンフォート/クラウンコンフォート」を販売していたトヨタは、2013年の東京モーターショーに次世代タクシーのコンセプトモデル「JPN TAXI Concept」を参考出品。2017年にはジャパンタクシーとして市販を開始しました。
一方日産は「セドリック」(セドリック営業車)を2014年に生産終了。後継車だったはずの「NV200タクシー」も2021年、ひっそりと販売を終えています。
トヨタも、コンフォート/クラウンコンフォートの生産を2018年には終了させ、結果としてジャパンタクシーが唯一のタクシー専用車種として市場を独占する状況になりました。
ジャパンタクシーは、後席足元のフラットフロアや広い室内、スライド式のリアドア、車椅子に乗ったままで乗降が可能な設計、衝突回避支援ブレーキを標準装備するなど、次世代タクシーを担うモデルにふさわしい内容を備えています。
国土交通省が定めるユニバーサルデザイン(UD)対応タクシーにも認定されており、導入時には国から補助金が支払われます。
特に東京のタクシーでは、2020年東京オリンピック・パラリンピック(コロナ禍の影響で2021年に開催)に合わせ、「車いすのまま乗降できるスロープ又はリフトを装備」したUDタクシーの導入を促進するため、東京都独自の補助金を助成することに。
そのため従来のタクシーからの置き換えが急ピッチで進み、ジャパンタクシーはすっかり東京の風景のひとつとなりました。
しかし一方で最近、街行くタクシーにシエンタの姿も見かけるようになっています。それには理由があるようです。東京のみならず全国的にみても、ジャパンタクシーの普及には壁があるからだというのです。
タクシーメーターやドライブレコーダー・LED表示器の販売・取り付けなど、タクシー関連の事業をおこなうフタバシステム株式会社の松田 隆氏は次のように語ります。
「ジャパンタクシーは、ベーシックグレードの『和(なごみ)』でさえ330万円以上します。これまでのコンフォート/クラウンコンフォートが、おおむね180万円から250万円台(高くても300万円以下)だったので、価格が高額になったことは否めません。
導入補助金が出るとはいえ、その差額は事業者にはとても大きいです。さらに補助金を得るために、一台あたり数名、ユニバーサルデザインタクシードライバー研修を受講させる必要もあります。
その点で、ハイブリッドモデルでも200万円台で買えるシエンタは、貴重な存在なのです」
■代替車種がほとんどないなかで唯一輝く「シエンタ」の存在
しかもジャパンタクシーは、いくつか改善すべき点が事業者・乗務員・乗客から指摘されているといいます。
「例えば乗客との現金収受の際に小銭の置き場がない、日報を書くバインダーの置き場がない、設計上の問題で車椅子の乗降で時間がかかりすぎる、酔った乗客を乗せたとき、気分が悪くなっても右側リアドアの窓が開かない、『いざ』というときも電動スライドドアで開閉が遅いなど、さまざまです」
トヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」の急速な普及で東京の風景はすっかり一変した[画像はイメージです]
「さらにこれはタクシー全体の問題でもあるのですが、日本中からLPGを補充するスタンドが減少しており、LPG専用のタクシーには不利な状況が作られつつあります。
そのためジャパンタクシーの導入に躊躇している事業者があるのも事実です」(フタバシステム 松田 隆氏)
こうしたさまざまな課題に対し、根本的な解消策を見出すことが難しいのだと松田氏はいいます。
「ジャパンタクシーの代わりになるタクシー用車を探した場合、かつては2代目・3代目『プリウス』や、ミニバン型の『プリウスα』もタクシーとしてよく使われていましたが、後継の4代目プリウスは屋根が低くタクシーには不向き。
また4ドアセダンの『カローラアクシオ』や後継車の『カローラ』は、タクシー用としては後席が狭いという評価です」
そこで、コンパクトで室内も広く荷物も積めて、リアがスライドドアで乗降性も良く、ジャパンタクシーと同じような姿をしているシエンタが注目されるようになったというのです。
「美点が多いシエンタですが、タクシー用車に選ばれた経緯は『消去法』だった、ともいえます。前述のようにLPGスタンドが減っているため、ガソリン車でハイブリッドの設定があるのも、シエンタのメリットです。
ただし、2代目シエンタは当初7人乗りしかなかったので、構造変更をして2列・5人乗りに改造した事業者もありました。3列・7人乗りだとジャンボタクシーの扱いになってしまうのです。
その後5人乗りの『ファンベース』が追加されたことで、シエンタは、タクシー用車として大幅に台数が増加しました。最初から5人乗り設定がある3代目の新型シエンタも、同様の理由でデビュー早々にタクシーへ採用され始めています」(フタバシステム 松田 隆氏)
なお指摘を受けたトヨタも、「ジャパンタクシー」問題点はそのままにはしておらず、車椅子の乗降改善対応、電動スライドドア開閉速度のアップなど改善を地道に進めており、これからも販売台数は確実に増加していくでしょう。
※ ※ ※
最後に松田氏に、なぜ「シエンタ」のライバルであるホンダ「フリード」のタクシーが少ないのかと聞いてみました。
「タクシー業界ではトヨタのブランドイメージが圧倒的に強いことに加え、トヨタの法人営業部は古くからタクシー事業者に強いことも挙げられます」
いちタクシーファンとしては、いろいろな車種がタクシーで使われるのは楽しくもあります。これから先も、どんなクルマがタクシーに採用されるのか注目していきたいと思います。
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