中国車への「忖度」措置じゃない! 意外に知らない制度? BYDが選んだ認証方法「PHP」とはなんなのか
くるまのニュース / 2022年12月16日 9時10分
2023年1月にSUVの「アット3」を発売するBYD。日本で海外生産のクルマを販売する場合にはさまざまな手続きが必要ですが、BYDでは中国メーカーとして初となる「PHP」制度を採用しました。どのような制度なのでしょうか。
■来年BYDが攻める! どんな展開?
電気自動車で最近話題となっている中国の自動車メーカー、BYD。
2015年より自社製電気バスを日本国内でも販売しており、2022年7月には日本の乗用車市場への参入を発表しました。
同年12月5日には2023年1月に発売される「アット3」の価格が400万円(消費税税込440万円)であることや全国のディーラー網や手厚い保証制度などが発表されています。
よく勘違いされますが、BYDは「スタートアップ」でもなければ、「EVメーカー」でもありません。
BYDが設立されたのは1995年、広東省深セン市で産声を上げた当初は純粋なバッテリーメーカーでした。
その後、モトローラ製携帯電話のバッテリーに採用されるなど順調に業績を伸ばしていきます。
2003年には陝西省に本拠地を置く国営自動車メーカー「西安秦川汽車」を買収、自動車部門「BYD汽車」が誕生します。
最初のうちは純ガソリンの乗用車を生産していましたが、2008年には世界初の量産型プラグインハイブリッド車(PHEV)「F3 DM」をリリース。
その後、さまざまな電気自動車も手がけていくことで右肩上がりの大躍進を見せます。
日本では2015年2月に京都府のバス会社「プリンセスライン」へ電気バス「K9」を5台納入したことをきっかけに国内展開を本格化させていきます。
2020年には日本の道路事情に合わせて設計された日本独自モデル「J6」の販売を開始し、現在までに日本全国で約25の事業者へ70台近くを納入しました。
BYDが注目されるのには多くの理由がありますが、最大の特徴はその卓越したバッテリー技術にあります。
バッテリーメーカーという立場を最大限に活かし、さまざまな状況下においても安全性を確保する技術を確立。
その代表格としては「刀」状のセルを並列して構成させる「ブレードバッテリー」が挙げられます。
これ以外にも、自社の半導体部門でおこなわれる研究開発やアフターサポートの迅速さなど、スタートアップでは実現不可能な規模を誇るのがBYDなのです。
2022年7月には3つの乗用EVをもって日本の乗用車市場に参入することを発表しました。
最初は純電動コンパクトSUV「アット3(中国名:元 PLUS)」が2023年1月に販売され、その後に純電動コンパクト「ドルフィン」、そして純電動セダン「シール」が順次発売となります。
BYDは現在までに国内のさまざまなイベントに出展し、知名度向上のための草の根活動をおこなってきました。
また、2023年1月より全国22ヶ所にディーラーを開設、2025年末までに100ヶ所まで増やす計画を打ち出したりと、サポートに関してもほかのEVブランドとは異なる積極性も見せています。
そんなBYDですが、日本での販売において問題視されるのが「認証関連」です。
中国は「58協定」批准国ではありません。
「58協定」とは、1958年に締結された国連欧州経済委員会(UNECE)の多国間協定「車両等の型式認定相互承認協定」を指し、自動車部品の安全性や環境性に関する基準の国際調和、そして自動車型式認証の相互承認を促進する目的で締結されています。
アメリカも「58協定」には加盟していませんが、アメリカは自国の保安基準である「FMVSS」を設けており、日本でもFMVSSに則った型式認証をおこなっています。
また、似たような協定としては「98協定」が挙げられますが、こちらは認証制度を含まない「世界的な技術規則協定」であり、こちらは中国やアメリカも批准しています。
では、多くの輸入車が用いる通常の「型式指定制度(以下、TDS)」を用いない場合、どのような方法がほかにあるのでしょうか。
それが今回、BYDが用いる「輸入車特別取扱制度(以下、PHP)」です。
PHPの特徴は年間販売台数を5000台以下に限定する代わりに、TDSでは必須となる多くの申請プロセスを簡略化、要する時期も大幅に短縮した制度となります。
外圧によって「非関税障壁」だと非難されてきた日本の型式指定制度において、より多くの自動車メーカーに門戸を開き、自動車の輸入を促進するために設立されたのがこの制度です。
中国車が日本に入ってくるともなれば、無根拠な「政治的な陰謀論」を掲げて批判する人が多く見受けられますが、PHPを用いて登録される輸入車は一般的です。
車両型式における排出ガス規制の識別記号を見れば一発で見分けることが可能で、簡単にいえば内燃機関搭載車であれば先頭が「7」のモデルとなります。
アルピーヌ「A110」やルノー「メガーヌ」、メルセデスベンツ「GLB」、フォルクスワーゲン 「T-ROC」など、街中で日常的に見る輸入車も多くは車両型式が「7」から始まるモデルでつまりは「PHP車」です。
ちなみに一例ですが、「7AA」であれば「PHP車・ガソリン・ハイブリッド」、「7BA」であれば「PHP車・ガソリン・非ハイブリッド」。
「7CA」であれば「PHP車・ディーゼル・ハイブリッド」、そして「7DA」であれば「PHP車・ディーゼル・非ハイブリッド」と区別されます。
ちなみに、電気自動車の乗用車はPHPであろうと非PHPであろうと、一律で型式は「ZAA」から始まるので、BYD アット3もそれに当てはまります。
■中国メーカーとして初のPHPを用いたBYD
BYDもPHPを用いて日本でアット3を販売するので、例に漏れずほかのPHP車と同じ条件を踏むこととなります。
PHPでは、TDSで必須となる国土交通省の「サンプル車審査」「製品均一性の確保体制の審査」が省かれ、2ヶ月かかる申請プロセスが1ヶ月ほどの書類審査で完了します。
その後、実際に販売される個体に対する完成検査もPHPでは不要となり、最後に現車提示と書類の提出だけでその個体が公道を走行するために必要な新規検査が完了。
これはBYDだけが許された特権ではなく、多くの輸入車ブランドが用いている認証方法となります。
2023年1月に発売されるBYD「ATTO3(アット3)」
ちなみに、「販売台数年間5000台以下」を条件に許可されたその車種が年間5000台を超えてしまう場合は、再度、通常のTDSで型式を取得する必要があります。
この上限台数は、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉の場において上限台数の引き上げについて触れられたことや、欧州車で上限近くまで販売された自動車が存在したことなどを踏まえて、2013年に年間2000台から5000台に引き上げられました。
また「型式の指定」というのはひとつの車種に限るものなので、例えば型式の変更が必要なほど差異のあるアット3の別モデルや、ドルフィン、シールといった別車種の型式では、それぞれ別々の申請が必要となります。
「年間5000台」というのはメーカー全体ではなく、ひとつの型式(簡単に言えば車種)における上限なのです。
この手法を用いて、日本にて乗用車を販売する中国メーカーはBYDが初となります。
今後もNIOなどの多くの中国メーカーが日本への参入を目論んでおり、それらメーカーも同様の手法を用いて型式を取得することになるでしょう。
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