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2人のキーマンが語る! GR86&BRZの2台は「いっしょにいいクルマつくろう!」でどう進化した? S耐2022を振り返る!

くるまのニュース / 2023年1月10日 12時10分

2022年シーズンのスーパー耐久をカーボンニュートラル燃料を使って共に戦った「GR86」と「SUBARU BRZ」。2台は「いっしょにいいクルマつくろう!」という取り組みによって協調と競争をおこなってきたが、キーマンの2人は今シーズンを振り返ってどうだったのか。

■2台のクルマをそれぞれの知見で進化させてきた1年

「バイオマス由来の合成燃料(カーボンニュートラル燃料)」を使用したGR86/SUBARU BRZの「次世代モデルの先行開発」をスーパー耐久シリーズのST-Qクラスで公開しながらガチンコでおこなう。

 これまで先行開発/新車開発は「マル秘」というのが定説でしたが、この取り組みはそれらを大きく覆す出来事でした。

 筆者はこのプロジェクトを車両製作の時期からずっと追いかけてきました。

 このプロジェクトは2023年以降も続きますが、2022年シーズン終了が一つの区切りとなりますので、両社のキーマンに一緒に総括をしていただきました。

ーー 2021年のS耐最終戦(岡山)で「一緒に戦います」と発表してからお互い車両製作をおこなったわけですが、開幕戦前のテスト(富士スピードウェイ)でお互いのクルマを見たわけですが、そのときの印象は?

●SUBARU本井

「これは、勝ち目ないな」が本音でしたよ(笑)。

 車両は大きく手が入ってましたし、エンジン出力も50psくらい違いました。

 それに対して我々はノーマル、いやもしかしたらいじり壊しているのでは……と思うくらいのタイムで「トヨタさん凄いな、何とか一歩でも近づきたい」という気持ちでした。

●GR藤原

 我々はエンジンをノーマルの水平対向2.4リッターから直列3気筒ターボ(1.4リッター)に変更しました。

 このエンジンはGRヤリスの開発で鍛えてきた自負もあったので、「絶対勝てるはず」と思っていました。

 しかし、蓋を開けてみると、我々はトラブル続き。

 その間にSUBARUさんがあそこまで性能を上げてくるとは。

―― 開幕戦(鈴鹿)は2台ともに完走はしましたが、結果を見ていくと予選/決勝共にGR86が圧勝しました。

●GR藤原

 初戦ではそれなりの結果が出ました。

今思うと、そこで我々は“勘違い”をしていました。

 正直「勝ったから、次も何とかなるでしょ」くらいに思っていましたが、富士24時間に向けたテストを進めていくと、「クルマの事、全然わかっていない」ということを知ることになりました。

―― 対するSUBARU BRZは開幕戦はノーマル+αのような状態で戦っていました。

●SUBARU本井 

 恐らくノーマルよりも劣っていたと思います。

 レースをやっている人からしたら当たり前の事ですが「車高を下げただけじゃダメなんだ」ということに気が付きました。

 量産の延長線なので、そんなおかしい事にはならないだろうと高を括っていたのですが、「これは参ったな」と。

 そういう意味では我々は開幕戦を戦って以降、「やる気スイッチ」が入った感じですね。

―― 第2戦は富士24時間、どちらも想定内/想定外のトラブルがたくさん起きました。

●SUBARU本井 

 そうですね。GRさんと共にトランスミッションにトラブルが出ました。

―― 量産車では大丈夫ですが、レースのような過酷な条件では通用しなかった……と?

●SUBARU本井

 そうですね。量産車のエンジニアなのでどこが壊れやすいかは知っていますが、「サードパーティの強化品を付けたから大丈夫」という根拠のない思い込みは全て外れました。

 ここで学んだのは「検証せずに投入するのは絶対やめよう」ということ。

 量産車では当たり前にやっていたのですが、それができていませんでした。

――GR86はSUBARU BRZ以上に壊れましたね。夜中にエンジン交換もおこなわれました。

●GR藤原 

 本井さんと全く同じ意見です。

 我々は量産メーカーで大量生産のなかで品質保証をやっています。

 レース屋さんのように一品で物を作って性能を出すというのは難しい。

 我々は「アジャイル開発」といいますが、アジャイルというのは行程を飛ばしていいことではないと。

 行程を飛ばした物は絶対に失敗する、富士24時間以降は口を酸っぱくしていうようになりました。

「28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」を担当した藤原裕也氏(左)と「61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」のチーム監督となる本井雅人氏(右)「28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」を担当した藤原裕也氏(左)と「61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」のチーム監督となる本井雅人氏(右)

――つまり、量産メーカーは「博打をしてでも勝てばOK」ではダメだと?

●GR藤原 

 そうです。、富士24時間に向けて投入したパーツも設計の狙い通りになっていないことも解ってきました。

 ただ、24時間を走らせなければならない。

 全てがごちゃ混ぜで、何が見れて、何が見れていないのかが、全く解らずレースが終わった感じです。

――ドライバーからの指摘はどうでしたか?

●GR藤原

 トランスミッションが壊れましたが、ドライバーは走行中に「壊れる気がする」と思ったそうです。

「それって何なの?」という所を教えてもらうことを始めました。

 データを取ると壊れると感じるときに、「こんなに入力が入っている」、「こんなに傷つけている」というのを改めて知りました。

――スバルはどうでしょうか? 富士24時間ではスポットで加わった鎌田選手のアドバイスが活きたと聞きましたが?

●SUBARU本井 

 鈴鹿以降の課題は、井口選手/山内選手の要求するものに対して我々の技術が追い付いておらず信用をなくしていました。

 しかし鎌田選手が入ってうまく通訳してくれたことは大きな転機でした。

――つまり、レーシングドライバーとエンジニアを繋ぐ翻訳者的な存在だったと?

●SUBARU本井 

 鎌田選手は自分でクルマを弄っているので、「何をどうすると、こうなるはず」というのは、我々に近い考え方を持っているので、レーシングドライバーとエンジニアを上手く繋いてくれました。

 そのなかには「我々がやっている事は間違っていない」という気づきもあり、そこからエンジニアのモチベーションや技術が上がったと思います。

■シーズン中盤で変わった? レースでのクルマづくり

――第3戦(菅生)はGRはスキップ、スバルは方向性が大きく変わりました。お互いここが“転機”になったという印象がありますが、どうでしょうか?

●GR藤原 

 スバルさんと同じで富士24時間でドライバーの信用を失っていました。

 我々も良いと思って投入しても、「全然良くなっていない、乗りにくい」といわれてしまい、正直自分が今何をやっているのか解らなくなってしまいました。

 そんななかで参戦してもクルマ作りは前に進まないと、モリゾウ選手をはじめ、ドライバーは感じていた。我々も現状立ち位置を確認するため、欠場を提案させていただいた、1回休むことにしました。

――スバルは“速さ”を追求したクルマづくりに変わったと思いました。あのとき、本井さんは「一度、自分たちの常識の外を経験してみる、そんな挑戦をした」と語っていました。

●SUBARU本井

 そうですね。鈴鹿の反省に対してやりたい事、もしくはやってはいけないことが山ほど出てきましたが、富士24時間には間に合わない物もたくさんあり、菅生でほぼ全て入れられたという感じです。

 GRさんはいませんでしたが、86号車(トムススピリット)とシッカリ勝負ができ勝てたことで、まだまだ未熟とはいえ「我々がやっている事は間違いっていない」と自信が持てました。

スーパー耐久シリーズ2022は、毎戦クルマも人も進化していったスーパー耐久シリーズ2022は、毎戦クルマも人も進化していった

――第4戦(オートポリス)は再び2台の戦いになりました。GR86は途中でリタイアしてしまいましたが、取材している側としては、これまではガチンコ勝負ながら「己との戦い」でしたが、ここから「やっと戦いが始まった」という印象を受けました。

●SUBARU本井

 コースレイアウトや燃費戦略などから「いい勝負ができるのでは?」という感触がありましたが、トヨタさんはリタイア。

 リザルトとしては勝ちなのですが、まったく勝った印象がないですね。

 ただ、プロドライバーの2人が初めて喜んでくれたので、自分たちにとっても笑顔が力になることを感じました。

●GR藤原

 菅生をスキップしてクルマの素性を確認、その立ち位置を明確にして進んでいこうと踏み出したのがオートポリスでした。

 レースとしてはリタイアでしたが、エンジニアがやりたいこととドライバーの感覚が合い始めて、「クルマづくりがようやく始まった」というのが正直な実感です。

 やはりレースでクルマを鍛えるのは甘くないことを痛感しました。

――第5戦(もてぎ)は、筆者が見ているなかで初のガチンコ勝負。結果はGRが勝ちましたが、両チーム共に「涙」がありました。本井さんは間違いなく悔し涙でしたね。

●SUBARU本井

 作戦もマシンについても何一つ反省がないレースでしたが、やり切ったのに負けた。

 会社に入ってから長いですが、一番悔しかった出来事ですね。

 ただ、今だからいえますが、マシンはオートポリスから伸び代がなかったので、「もう少しやっておけば」というのはありますね。

――藤原さんは「肩の荷が降りた」という感じの涙だったと思います。

●GR藤原

 一番嬉しかったのは、現場でクルマを一番見ているエンジニアやメカニックに完走した事を実感してもらえたことです。

 モリゾウさんからも「このクルマに一番必要なのは“結果”だぞ」といわれましたが、それは「勝て!!」ではなく、皆に報いることだと。

 そういう意味では非常にプレッシャーのある戦いでした。

■「意思ある情熱と行動」を持って挑む、シーズン終盤戦

――第6戦(岡山)はいいレースでした。実はこれまでは「壊れないで2台ゴールして」と祈りながら見ていた所もありましたが、ここでは初めて「どちらが勝つんだろう?」とドキドキしながら見ていました。スバルはマシンの改良も含めて「背水の陣」で臨んで勝ったレースだったと思います。

●SUBARU本井

 一番は関わっているメンバーが同じ気持ちで頑張ってくれたことですね。

 これまでSUBARU BRZはエアコンを装着し、レース時でもロスなく効く仕様にしていましたが、プロドライバーから「コンマ何秒でも遅くなるならプロは使わないと」。

 それを多くのメンバーが直接聞いたことも、みんなのモチベーションに直結しましたね。そこまでやるんだと。

●GR藤原

 ここで負けたのは本当に悔しかったです。

 3時間のショートスプリントでピット戦略が大事なのは分かっていました。

 実は松田エンジニアと初めて“戦略”に関する議論をしたのが岡山です。

 逆にいうと、そこの議論ができる所まで来たなという所もあります。

 今まで富士も菅生もオートポリスも負け逃げをしていましたが、今回は本当に負けた。

 もてぎで本井さんが「悔しかった!!」といっていたのは、こういうことだと理解しました。

協調と競争で挑んだスーパー耐久シリーズ協調と競争で挑んだスーパー耐久シリーズ

――最終戦(鈴鹿)は、初戦と同じ場所で1年の成長や進化が確認できたと思います。

●SUBARU本井

 予選から決勝、序盤はいいバトルをしていましたが、燃圧センサーのトラブルでリタイア。「終わっていない感」が強いですね。

●GR藤原

 外から見ていると順調そうに見えたかもしれませんが、潜在的な課題も根本的な解決には至らず、課題は山積み。

 でも、本音はスバルさんと一緒にゴールしたかったです。

――この1年、共に仲良く喧嘩しながら戦ってきましたが、正直どうでしたか?

●SUBARU本井

 勝ち負けはともかく、エンジニアの育成は大きかったですね。

 当たり前なのにできなかったこと、領域を超えて上も下も関係なく皆でシッカリ議論する。

 そんな動きが自然とできるようになったことが、今年1年で1番変わったことでしょうね。

 結果としてクルマ1台を見ることができるエンジニアの具体化が本当に進んだと思っています。

●GR藤原

 本井さんと同じですが、領域だけでなく組織を超えた繋がりや連携ができたことが大きいですね。

 成瀬さんの時代のトヨタはそうだったと聞いていますが、GRの目指すべき部分だと思っています。

 実は岡山あたりから、エンジニアがドライバーと話をしている最中に笑顔が出るようになりました。

 クルマとしてはまだまだですが、方向性がシッカリしたことでエンジニアがドライバーに自信を持って提案でき、失敗しても成功しても次に繋げることができるようになったかなと。

■1年じゃ終われない! 2023年の2台はどうなる?

――すでにどちらも来年の参戦を表明していますが、どのような戦いを?

●GR藤原

 スバルさんとは「協調と競争」といっていますが、1年戦ってみて、隠すことは何もなくて手の内を全て理解した上で競争すればいいのかな……と思っています。

 GR佐藤プレジデントが公言していますが、来年のマシンは骨格にも手をいれます。

 ここにもスバルさんには是非入ってもらいたいと思っていますが、今まで以上にもっとオープンに話ができるようにしたいと思っています。

●SUBARU本井

 まずはセルフBOPですね(笑)それは半分冗談、半分本気ですが、藤原さんから色々なご提案をいただいています。

 骨格の話もそうですが、我々もやりたいことがたくさんありますので、一緒にできるところはやっていきたいと思っています。

 1年戦って思ったことは、レース後にお互い“種明かし”をやったほうがいいかなと。

 きちんと共有することでお互いの次のモチベーションに繋がると思っています。

隣の芝は青かった? 切磋琢磨した2台隣の芝は青かった? 切磋琢磨した2台

――このプロジェクトは次期モデルの先行開発を担っています。現時点ではGR/SUBARU共に開発GOが正式に出ているわけではありませんが、現場の想いとしてはこの活動を次のモデルに繋げたいという思いは強く持っているわけですよね?

●SUBARU本井

 そうですが、我々はもっと広い意味で捉えていて、SUBARU BRZだけではなくスバル車全てを鍛えると考えています。

 高負荷/高G領域でシャシーを使い、タイヤ4輪を使いこなすことで、乗りやすいクルマ→お客様の喜びに繋がると思っています。

●GR藤原

 私はGRカンパニーの人間なので、やはりライトウェイトスポーツカーを残していきたいという想いは強いです。

 GRは専用モデルを多くラインアップしていますが、やはりライトウェイトでアフォーダブルなスポーツカーを提供することでもっとスポーツカーの視野を広げたいので、スバルさんを含めた多くの仲間と一緒にやっていきたいです。

2022年シリーズが終わり…次は2023年シリーズに!2022年シリーズが終わり…次は2023年シリーズに!

※ ※ ※

 このように1年を通じてGR/スバル共にさまざまな変化があったのがありました。

 2022年のシーズンは終了しましたが、モノづくりとしては次に向けたスタートがすでに切られています。

 2023年のスーパー耐久シリーズ開幕戦の公式テストは2月23日、開幕戦(鈴鹿)は3月18-19日を予定しています。

 まだ余裕があると思いきや、実は時間はありません。

 恐らく、どちらも2022年の経験・反省を活かしたマシン製作に取りかかっているでしょう。

 次期GR86/SUBARU BRZが正式に発売されるまでこの取り組みをシッカリと見届けたいと思っています。

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