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「ハイブリッド」や「EV」推しの日産が新型ミニバン「セレナ」にあえて「ガソリン車」も残した事情とは

くるまのニュース / 2023年1月15日 11時50分

昨今の日産は電動化に力を入れており、EVやハイブリッドのe-POWER専用車を多くラインナップしています。そんななか、新型「セレナ」はe-POWERに加え、通常のガソリンエンジン車を用意しているのですが、なぜe-POWER専用車にならなかったのでしょうか。

■新型セレナは異例のガソリン車も設定!?

 最近登場した日産車にはハイブリッドの「e-POWER」専用車が多く、「ノート」「ノートオーラ」「キックス」「エクストレイル」はe-POWERのみです。
 
 また、日産車では「リーフ」をはじめ、「アリア」「サクラ」という電気自動車もあり、「電動化」が急速に進んでいます。

 日産車に通常のガソリンエンジン車(以下ノーマルエンジン)が設定されない理由について、商品企画担当者は次のようにいいます。
 
「今の日産車ではe-POWERが人気です。環境対応という意味でもe-POWERと電気自動車に力を入れています。そのため、ノートやエクストレイルはノーマルエンジンを用意していません」

 さらに、観点の異なるコメントも聞かれました。

「e-POWERに絞った背景には『選択と集中』もあります。例えばノートに価格を160万円前後に抑えたノーマルエンジン車を用意すると、コストの面からノートe-POWERのような上質なインパネは採用できず、質感の異なるインパネを用意することになります。

 そこでパワーユニットをe-POWERに絞り、その代わりに上級のノートオーラを開発しました。ノーマルエンジンの低価格グレードを用意するより、価格の高いノートオーラを加えた方が効率も良いからです」

 価格の安いノーマルエンジン車を用意すると販売総数は増えますが、高価格のe-POWERが減る可能性もあります。それなら販売総数を少し下げても、1台当たりの単価が高いe-POWER専用車にして、上級のノートオーラを加えるほうが効率は優れているというわけです。

 この考え方に基づき、今の日産の新型車は、スポーツカーの「フェアレディZ」を除くとe-POWER搭載車と電気自動車、軽自動車に二極分化されるのですが、新型「セレナ」は例外です。

 新型セレナは1.4リッターエンジンと組み合わせたe-POWER車のほかに、2リッター直列4気筒のノーマルエンジン搭載車も用意しています。なぜセレナは選択と集中の考え方を採用せず、ノーマルエンジンも選べるのでしょうか。

 新型セレナの開発者は、「ミニバンのお客さまにはファミリー層が多いです。購入時に家計の負担を重視されるので、価格を抑えられるノーマルエンジン車も必要です。この人気も根強いです」といいます。

 新型セレナの主力グレードは、エアロパーツを装着して各種の装備を充実させた「ハイウェイスターV」で、価格(消費税込、以下同様)はe-POWER搭載車になると368万6100円に達します。

 過去を振り返ると、2006年に3代目セレナに追加されたハイウェイスターの価格は240万4500円でした。16年前のことですが、当時と現在(データは2021年)で1世帯当たりの所得を比べると、今のほうが若干低いのです。

 そうなると現行セレナe-POWERハイウェイスターVの368万6100円は、先進的なハイブリッドと安全装備を搭載しても、3代目セレナハイウェイスターに比べて相当な高価格車になります。価格は約128万円高く、比率に換算すれば1.5倍になるからです。

 しかもセレナのようなミニバンは、就学年齢に達した子どもを持つ出費の多い世帯が購入します。2006年に比べて所得は増えていないのに、セレナの価格が約128万円も値上げされると購入しにくくなるのは当然です。

 そこで新型セレナでは、326万9200円のノーマルエンジンのハイウェイスターVも設定。e-POWERに比べて価格は41万6900円安く抑えられます。しかしそれでも、2006年に登場した3代目セレナハイウェイスターに比べて約86万円高いです。

 このような事情もあり、セレナはエアロパーツを装着しない標準ボディも用意しました。ノーマルエンジンを搭載する価格がもっとも安い標準ボディの「X」は、衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能の「プロパイロット」を搭載して価格は276万8700円です。このグレードなら購入しやすく、安全装備の充実も考えると、3代目セレナハイウェイスターに比べて割安とも受け取られます。

■ライバル勢で唯一、新型セレナが5ナンバー車も用意する事情

 ライバル車のトヨタ「ノア」やホンダ「ステップワゴン」も、価格の割安な標準ボディとノーマルエンジンの組み合わせを用意していますが、ボディは全車が3ナンバーサイズです。その点でセレナの標準ボディは、先代型と同じく5ナンバーサイズで残しています。

 なぜライバル車は現行型で3ナンバー専用車になったのに、セレナの標準ボディは5ナンバーサイズなのでしょうか。この点も開発者に尋ねました。

「日本では運転のしやすさから5ナンバー車を選ぶお客さまが多いです。またコンパクトカーからミニバンに乗り替えるお客さまも5ナンバー車を好まれます。そこでセレナも標準ボディを5ナンバー車にしました」

日産新型「セレナ」日産新型「セレナ」

 ここには他社とは違う事情もあります。日産には、商用車ベースの「NV200バネット16X-3R」(3列シート/7人乗り)を除くと、トヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」に相当する5ナンバーサイズのコンパクトミニバンがないことです。

 セレナがシエンタやフリードの需要までカバーしなければならないため、標準ボディを5ナンバー車として残しました。

 その一方で新型セレナには、価格が479万8200円に達する最上級グレードの「e-POWERルキシオン」もあります。ノーマルエンジンのXに比べて200万円以上も高い価格設定となっています。

 e-POWERルキシオンの価格が高い直接の原因は、ハンドルから手を離しても運転支援が続く「プロパイロット2.0」を標準装着したことです。e-POWERルキシオンの価格は、e-POWERハイウェイスターVよりも111万2100円高く、その内の約47万円は、プロパイロット2.0の対価で占められます。

 それにしても、なぜセレナは、価格が500万円近い充実装備のe-POWERルキシオンを用意したのでしょうか。その理由は上級Lサイズミニバンとなる「エルグランド」の販売低下です。

 かつてのエルグランドはLサイズミニバンの人気車で、初代モデルは1998年に1か月平均で約4600台を登録しました。ところが最近はフルモデルチェンジがおこなわれておらず、現行型は発売から12年以上を経過。登録台数も下がり、2022年の1か月平均は200台以下です。1998年の約4%まで落ち込みました。

 こうなると次期モデルへのフルモデルチェンジも厳しくなることが予想されますが、現行モデルの発売から10年以上を経過すると、新型への乗り替えを希望していたユーザーも、ほかの車種を購入します。

 日産の販売店からは「エルグランドから『アルファード』などに乗り替えるお客さまが増えており、これを食い止められる後継車種が欲しい」という話が聞かれていました。

 このニーズに応えたグレードが新型セレナe-POWERルキシオンというわけです。価格は500万円近いですが、エルグランドで人気の高い直列4気筒2.5リッターエンジンを搭載する「250ハイウェイスタープレミアム」も455万円8400円です。

 セレナはエルグランドよりもボディは小さいですが、e-POWERやプロパイロット2.0、カーナビなどが備わり、商品力はエルグランドを大幅に上まわります。機能と装備が大幅に向上するので、エルグランドからの乗り替えも提案しやすいです。

※ ※ ※

 今の日産には、コンパクトとLサイズのミニバンが欠けており、セレナがすべてを背負う必要があります。そこで新型セレナでは、5ナンバーサイズの標準ボディやノーマルエンジン、価格が500万円近いe-POWERルキシオンを設定しました。

 ノートが上質なノートオーラ、スポーティな「ノートオーラNISMO」、SUV風の「ノートAUTECHクロスオーバー」を用意するのと同様に、新型セレナも今後、アウトドアで使いやすいSUV指向、あるいはハイウェイスター以上に存在感の強いスポーティ指向など、さまざまなバリエーションを加える可能性があるのではないでしょうか。

 海外市場を重視して、国内で販売する車種を減らした日産には、1車種のなかのグレード構成を工夫してユーザーの選択肢を増やす宿命があるのです。

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