中国EVメーカー「BYD」が今キテる! 日本で“テスラみたいな存在”になる!? クルマの性能がグンと上がった訳
くるまのニュース / 2023年2月18日 11時10分
中国自動車メーカー「BYD」のEVが日本で発売されるなど注目を集めています。10年前と比べて格段にレベルアップした中国EVですが、なぜ性能を上げることができたのでしょうか。
■中国製EVの実力は?
最近、中国の自動車メーカー「BYD」に関する記事やニュースをよく目にするようになりました。
直近では、2023年1月中旬に開催された東京オートサロン2023で独創的な雰囲気を醸し出すBYD展示ブースが来場者の注目を集めたほか、2月2日にBYD正規ディーラー1号店の「BYD AUTO 東名横浜店」がオープンするなど話題となっています。
2025年には全国100か所まで販売網を広げる計画のBYDですが、そもそも中国EVの性能は日本や欧州、アメリカのEVと比べてどうなのでしょうか。
筆者(桃田健史)は日本自動車輸入車組合(JAIA)主催の報道陣向け試乗会に参加し、BYD「ATTO 3」を筆頭に、メルセデス・ベンツ「EQS 450+」、アウディ「Q4 e-tron Sline」、フォルクスワーゲン「ID.4」、そしてテスラ「モデルY」といった合計5台のEVを乗り比べてみました。
5台のなかではATTO 3がもっとも価格がリーズナブルでしたが、乗り味はとてもマイルドで扱いやすく、またクルマとしての完成度としてもほかの4台と比べて「特に劣っている」という印象はまったくなく、BYDが目指すブランドの世界観を感じることができました。
同時に、「中国EVもついにこのレベルまで来たな」と、ATTO 3を走らせながら、これまでの中国車に関する取材体験を懐かしく思い出しました。
今(2023年2月)から14年前の2009年1月、当時世界最大の自動車製造・販売国だったアメリカの北米国際自動車ショー(通称、デトロイトショー)にBYDはミニバンタイプのEV「e6」を出展し、世界の注目を浴びます。
ボディサイズは全長4554mm×全幅1822mm×全高1630mm。電池容量は70kWhで、、これは当時の三菱「i-MiEV」の4倍以上、またその後に登場する日産初代「リーフ」の2倍以上の大容量を搭載し、満充電での航続距離は400km以上。報道陣の多くが初めて見るe6に興味津々でした。
当時、テスラはまだ初期「ロードスター」のみを製造するごく小さなベンチャーにすぎず、「モデルS」の詳細な生産計画も立っていない状況。
それが今では、世界的にEVシフトが急加速し、EV生産台数でテスラとBYDが世界1位、2位になっていることを、2009年当時は誰も予想していなかったでしょう。
■海外メーカーとの協業でクルマ作りのノウハウを学ぶ
筆者は2000年代から中国の自動車市場について本格的な現地取材活動を始めましたが、俗にBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカなど)と呼ばれる、当時の経済新興国は経済成長に伴い、それぞれ国でクルマの製造拠点が増え、国内販売台数が増加する機運にありました。
なかでも中国は、中央政府が打ち出す総合経済対策・5カ年計画で次世代自動車の研究開発と普及を強く打ち出していたのです。
トヨタとBYDの協業で誕生した新型セダンEV「bZ3」
例えば、2000年代後半には、中国の国内と国外の双方に向けた情報発信源として、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博、そして2010年の広州でのアジア競技会を3大イベントと位置付け、EVバスの導入などを積極的に進めました。
さらに、2011年から2015年にかけての総合経済対策・第12次5カ年計画では、環境分野、資源エネルギー分野、IT分野を重視し、そのなかにEV普及政策を盛り込んでいます。
そうしたEV普及政策のキックオフとして、2010年11月に、BYDの本拠地である深センで、電動車の国際フォーラム「EVS25」が開催されました。
そのとき、中国の中央政府や深センの地方政府の幹部が、次世代の中国自動車産業界におけるBYDの重要性を強調したことが印象的だったのですが、この時点ですでにBYDは中国にとって次世代車のエース級だったといえるでしょう。
その後、中国における電動車政策は何度かの修正された後、最終的には米・カリフォルニア州政府とカリフォルニア大学デイビス校などと協調して、NEV(新エネルギー車)に関する政策を打ち出すことになります。
カリフォルニア州は1990年代からZEV法(ゼロエミッションヴィークル規制法)を施行しており、ZEV法は長きにわたりグローバルでのEV政策の基準とされてきました。ただし、国全体としてZEV法のような規制を実施したのは、中国NEV政策が世界で初めてだといえるでしょう。
NEV政策については、ユーザーの購入補助金が段階的に減少することで、2010年代後半には個人所有車が伸び悩む傾向も一時的には見られました。しかし、2020年代に入ると、欧州を起点とした世界的なEVシフトによって、欧米日韓の大手メーカーがEVシフトを明確化したことが中国国内でのEV消費を後押しするようになっています。
また、長年、中国で海外メーカーが新車を製造・販売する場合、中国地場メーカーと出資比率を対等とした協業が必要とされていたほか、電動化技術について、海外メーカーは中国国内における一定の情報公開を求められるという条件がありました。
こうした中国独自の環境の下、中国地場メーカーは実質的に、海外メーカーから「走る・曲がる・止まる」というクルマとしての基本的な研究開発、電動化技術、そして車両や部品の製造に関するノウハウを短期間に学ぶことができたのでしょう。
BYDに関しては、海外メーカーとの協業体制が、ほかの中国大手や中堅企業とは若干異なる印象がありますが、それでもメルセデス・ベンツ(ダイムラー)やトヨタとの協業によって自動車に関連する多くのこと学ぶことができたはずです。
2010年代半ば頃までは、さまざまな中国車に中国国内で試乗してみると、EVはもとより、ガソリン車でも、クルマとしての出来が「まだまだ途上」という印象がありましたが、それから10年弱で、今回改めて試乗したATTO 3で感じたようなレベルまでクルマとしての完成度が高まっているというのが中国車の現実です。
BYDの乗用EVが日本市場で根付くには、クルマとしての性能だけではなく、販売や修理に対する顧客サービスの満足度や、経年劣化した際の品質とリセールバリューなどを含めたBYDブランドの総合力をユーザーがどう評価するにかかっていると思います。
テスラを買う人が「テスラはアメ車」という認識があまりないように、「BYDは中国車」というイメージを強く持たないユーザーが今後増えていくのかもしれません。
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