なぜスバルは「走りの良さ」を追求する? 安全性を何より重視!「事故低減」への取り組みに迫る!
くるまのニュース / 2023年3月1日 20時10分
スバルは、事故低減に向けてより安全なクルマを開発すべくさまざまな取り組みをおこなっています。「走行安全」についてどのようなことをおこなっているのか、同社の研究施設に潜入し、実体験しました。
■走りの良さが安全につながる
スバルには「走りを極めれば安全になる」という思想があります。
スバルにとって走りは安全を高めるための重要な要素であり、基本性能である「走る、曲がる、止まる」を磨くことで、天候や路面によらず安心して運転でき、万が一の際にも思い通りにコントロールして安全に回避ができるといいます。
どういうポイントに、なぜ着目し、それをどのように実現して安全につなげようとしているのか、「スバルの事故低減に向けた取り組み」について理解を深める「テックツアー」がメディア向けに開催されており、2022年8月の「予防安全編」、11月の「衝突安全編」に続き、3回目となる「走行安全編」がおこなわれました。
スバルは、あらゆる環境下で誰しもがコントロールしやすいクルマを目指してきました。2000年代には定常特性の開発までだったところ、2010年以降は、ユーザーが運転して実際に感じるかという特性を含め、その指標化とメカニズム解明を重視して動的質感の開発を実施。
実際にユーザーから「まっすぐ走れる」とか「長距離でも疲れない」といった評価を得ることができているそうです。
さらに、人が感じる乗り心地のメカニズムを医学的なアプローチを取り入れて解明し、頭部の横揺れの低減や音の収束性の向上をさせることで、乗り心地を進化させてきました。
それらを具現化するための人材育成も、スバルのクルマづくりの大きな要素であり、「SDA=スバルドライビングアカデミー」という独自の取り組みをおこなっているのも特徴です。
SDAは、「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」という考えのもと、運転スキルと評価能力を高める目的で2015年9月に創設。スバルにはいわゆるテストドライバーという職種は存在せず、鋭い感覚を身につけたエンジニアがその役目を兼ねてクルマを評価しています。
今回、テックツアー 走行安全編の会場となった「スバル研究実験センター」(栃木県佐野市)は、東京ドーム38個分に相当する178ヘクタールの敷地に、4.3kmの高速周回路をはじめ各種評価路面や研究実験施設が効率的に配置されています。
走行安全編のプログラムでは、まずは高速周回路のバンクで、SDAの精鋭4人による編隊走行を見学。1周目は横斜め方向、2周目は縦列で車間距離を一定に保ちながら、4台のトレーニング車両(BRZ・WRX STI)が160km/hで走っていくさまは圧巻です。
これがいかに大変なことで、ドライバーの技量とクルマ自体のコントロール性がどれほど優れているのか、想像してみてください。その気になればもっとビタビタに接近して走れるというから驚きです。
次いで、純BEVである「ソルテラ」のAWDで走破性と動的質感を確認。前後にモーターを独立して搭載したことによってエンジニアの考える最適な駆動力を配分できることが強みで、砂利路面の急坂でも発進性に優れることやヒルディセント機能を体感しました。
モーターの力強いトルクと素早いレスポンスを活かし、「X-MODE」をONにすると4輪の駆動力やブレーキなどを適切にコントロールして悪路からのスムーズな脱出をサポートしてくれます。
さらに、一定の低速を維持する「グリップコントロール」という機能も搭載。これらにより30%の上り勾配でもなんのその。条件によっては40%でも上れるそうです。降坂は45%というもっときつい傾斜を安心して下りることができました。
凹凸の大きな悪路や滑りやすい路面でも車速の調整を気にせずステアリング操作に集中できるおかげで、本当に何ごともないかのようになめらかに走れて、悪路走行時の安心感がより高まります。
今回の坂くらいではX-MODEを使わなくても走れないことはないといいますが、もう少し路面が荒れてくるとそうはいきません。いずれにせよONにしたほうがよりスムーズに走ることができることには違いありません。
さらに、クロール台の走行を外から見学。対角線の前後2輪だけが接地していて、そこから発進するという非常に難しい状況でも、浮いた車輪にブレーキを適宜かけて空転を抑えつつ、接地している車輪に駆動力を最適に制御することでしっかり前進していくことができます。
これにもX-MODEが効いています。モード選択により、路面の状況と各タイヤの車速をみてスリップしたかどうかを判定し、しきい値と制御をどう入れるかを調整しているとのことで、さすがにこちらはX-MODEを使わないと前に進むのは難しいそうです。
このあたりは、もともと走破性を重視してX-MODEなどを手がけてきたスバルなればこその強みです。
ソルテラのAWD性能の良さがわかったところで、次は広場のようなスペースで円旋回を試してみました。ステアリングの切れ角が大きく、ホイールベースが長いわりに小回りが利くことを確認。また、舗装路では段差を乗り越えたあとの振動の収まりが良く、オンロードでの快適性も実感できました。
■長距離を走っても疲れにくいシートを新開発!
今度は、一般道やちょっとしたワインディングロードを模した1.7kmの商品性評価路で、「XV」と新型「クロストレック」の乗り比べです。
車速を高めなくても十分に違いがわかると聞いていたとおり、40km/hから80km/hを上限に走行したところ、XVも良くできたクルマだと認識していましたが、新型クロストレックとの走りの違いは歴然としていました。
新型「クロストレック」と「XV」
新型クロストレックは走り出しから車速をコントロールしやすく、継ぎ目など路面からの入力があったときもあまり揺すられることなく、フラットな乗り心地をキープしてくれます。
操舵時のステアリングフィールがしっかりとしていて、応答遅れも小さく走りに一体感があり、戻したときの収束も良くて揺り返しが小さく、安定していて路面の影響も受けにくいので修正舵も少なくて済みます。
取り付け剛性や身体保持の改善を図り、頭部の揺れを抑制したという新しいシートは、座った瞬間からしっくりくる感じがして、コースをしばらく走ってコーナリングを重ねるとなおのこと良さを実感します。
事前に「ぜひ着目して欲しい」と伝えられていたとおりで、これなら長距離を走っても疲労が小さくて済むことでしょう。
また、高減衰マスチック材の追加により、乗り心地にも影響があるというルーフ共振現象の収束性を改善したことで、静粛性が向上するとともに、確かに乗り心地もずいぶん良くなっているように感じられました。
途中で小雨が降り始めたのですが、雨粒がルーフを叩く音の大きさも、XVと新型クロストレックでは違っていたこともお伝えしておきましょう(もちろん新型クロストレックのほうが静かでした)。
別のプログラムでは、高速周回路でインストラクターがドライブするトレーニング車両に同乗しました。
何年か前に筆者(岡本幸一郎)は高速周回路を自分で運転したことはありますが、インストラクターの運転で同乗するのは初めて。
高速でバンクの上端を走行すると縦Gがすごいのに対し、下端だと横Gがすごいことを体感したほか、逆に車速を落してバンクを上下したときの反応や、ストレートを200km/hでレーンチェンジしても安定していることや、240km/h超からのブレーキングでもほとんどステアリングがぶれないことなどを確認しました。
3車線はレーンごとに制限車速が決まっていて、テスト時にはバンクで3台並ぶこともあるそうです。SDAで「特殊ライセンス」を保持しているドライバーは、黄線より上でガードレールからドアミラーまで数cmという単位でシビアにコントロールして走れることも助手席で体感しました。
ご参考まで、高速周回路では風を発生させる装置を持ち込んで横風の影響や、近くをトラックなどが並走しているとクルマがどのような影響を受けるかといったシチュエーションも再現して試験しているそうです。
また、併設された総合路では、定常的な測定や極低速での乗り心地なども確認します。最新のSGP(=スバルグローバルプラットフォーム)の開発においても細かいところを煮詰めるときはこちらでテストを実施するといいます。
加えて、SDAの活動の一環として、2022年より参戦しているスーパー耐久シリーズに関する成果についても報告がありました。モータースポーツは未経験であまり興味もなさそうだったメンバーも、現場に行くと最初は右も左もわからない感じだったところ、しばらくすると目の輝きが変わるというエピソードが印象的でした。
※ ※ ※
スバルのクルマづくりの背景にあるのは、とにかく「人」です。「人」中心の車両開発を支えるのもまた「人」であり、それにより実車の完成度が高まることは、走行安全の観点でも有益です。
いつの日かスバルの悲願である死亡交通事故ゼロを本当に実現できるよう我々も願ってやみません。
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