実現性アリ!? トヨタが旧車「86レビン」EV化事業に前向き姿勢! メーカー直系「BEVコンバージョン」ビジネスの可能性とは
くるまのニュース / 2023年3月25日 16時10分
東京オートサロン2023にトヨタが出展した旧車「カローラレビン」(AE86型)のBEV(電気自動車)仕様「AE86 BEV コンセプト」を実現させる可能性が見えてきました。クラシックカーを再生しBEV化する「事業」について紹介します。
■市販車部品を活用し誕生! 実現性も高そうな「AE86 BEV コンセプト」
トヨタが、2023年1月に開催された東京オートサロン2023に出展した「AE86」(カローラレビン)のBEV(電気自動車)バージョン「AE86 BEV コンセプト」には、同時に登場した水素燃料仕様車「AE86 H2 コンセプト」も含めて、来場者の注目を浴びたことが記憶に新しいところです。
そんなAE86 BEV コンセプトが、リアルに販売される可能性が出てきました。
東京オートサロン2023のAE86 BEV コンセプトは、豊田章男社長が近年、言い続けてきた「もっといいクルマを造ろう」という合い言葉の中で、すべてのクルマ好きの人たちに向けたメッセージのひとつで、ネオクラシックカーの代表格であるAE86型カローラレビン/スプリンタートレノに最新技術を融合する形で「見える化」(可視化)したものといえます。
そんなAE86 BEV コンセプトが、3月18日から19日の「スーパー耐久シリーズ2023」第1戦開催地である鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)内のトヨタGAZOOレーシングブースにも出展されました。
そこで会場のトヨタ関係者に声をかけていろいろ話を聞いてみると、AE86 BEV コンセプトについて「量産化を視野に社内で検討中」というではありませんか。
東京オートサロン2023での初お披露目以来、メディアやSNSで「ぜひ実現して欲しい」という熱い要望があり、そうしたファンの声にトヨタとして真摯に受け止めているのです。
とはいえ、こうしたBEVのコンバージョン(機器の転装)には様々な課題があります。
第一は、信頼性です。
すでに、世の中には旧車をBEVコンバージョンするビジネスは存在しますが、その多くは中小の事業者が行っているため、品質や安全性には事業者によってばらつきがあるのが実状です。
第二は、コストです。
旧車・クラシックカーのエンジンをモーター・バッテリーに載せ換えるBEVコンバージョンは、いわゆるレストア(車体や足回り、室内などを新車同然に復元させる)作業が伴います。
単純にモーターに積み換えれば良いということではなく、クルマ全体を修繕する必要が出てきます。
そうなるとクルマの個体ごとに、BEVコンバージョンのトータルコストは大きな差が生まれることが考えられます。
AE86 BEV コンセプトのモーターは、北米市場向けフルサイズピックアップトラック「タンドラ」のハイブリッド用モーター(最大出力68.4kW・最大トルク190Nm)を使用しています。
一般的なBEVとしてみると、決して高出力ではありませんが、AE86の車体や各部品への負荷を考慮すると、トヨタの現行モデルの中ではこのモーターがベターチョイスだということです。
バッテリーについては「プリウスPHV」用のリチウムイオン電池で、電池容量は8.8kWhです。
また、その他の駆動系やブレーキ系などの各種部品は、トヨタ純正部品として販売されているもので、トータルコストとしても、一般的なレストアの範囲で収まることになるでしょう。
■欧米各社の中には「BEVコンバージョン」をビジネス化している事例も
気になるのは「お値段」ですが、実はトヨタとしてもベンチマークになる事例がいくつか存在があります。
そのひとつが、フランスのルノーが2023年1月に発売した、旧車「ルノー4(キャトル)」用のBEVコンバージョンキットです。
「AE86 BEV コンセプト」のリアエンブレム部には、LEVIN(レビン)の「EV」だけエコなグリーンに変更されてあったり、左のグレード表記に本来ある「TWINCAM16V」が「NON CAM 0」になっていたりと、あちこちに遊び心がちりばめられていました[撮影:桃田健史]
EVコンバージョン専業のR-FITと提携して行うもので、モーターの最大出力は48kW、搭載するバッテリー容量は10.7kWhで、費用は1万1900ユーロ(1ユーロ=143円換算で約170万円)となります。
このBEVコンバージョンキットは今後「ルノー5(サンク)」など、往年の人気車向けにラインアップされる予定です。
ルノーでは2024年に新型「サンク」の名でBEVのニューモデルを登場させる予定があるほか、ルノー日産三菱アライアンスに基づき、ルノーが主導するEV開発メーカー「アンペア」が近く稼働することになっており、旧車のEVコンバージョンも含めたルノーとしての総括的なブランド戦略が進む段階であるといえるでしょう。
他にも、2000年代後半から2010年代にかけて、アメリカでは当時のクライスラー・ダッジがEVコンバージョンを手がた事業があります。
こちらは、60年代から70年代の「チャレンジャー」や「チャージャー」を対象としたもので、クライスラー・ダッジとしてBEV専用車がなく、またハイブリッド車のラインアップも少なかったことから、自社としての部品共用性は期待できず、BEV専用事業者とのコラボ事業であったため、コストはかなり割高の印象がありました。
当時、クライスラー・ダッジは、スポーティブランド「SRT」の訴求に力を入れており、BEVコンバージョンもハイパフォーマンスな内容を盛り込もうとしていました。
こうした自動車メーカー各社のBEVコンバージョン事業を踏まえると、トヨタとしては直近のルノー型のビジネスモデルを参考にしながら、日本市場向け、また日系の旧車人気が高い北米市場向けに、AE86 BEV用キットの正規販売が考えられるのではないでしょうか。
※ ※ ※
今後トヨタの看板でこうした事業を実際に立ち上げる場合、クルマ全体の保証なども考慮すれば、トヨタディーラーの中でBEVコンバージョンを担う専門事業を立ち上げる、といった流れが予想されます。
繰り返しになりますが、トヨタ本社によるBEVコンバージョン事業化はあくまで「社内検討中」の段階だといい、2023年3月現在、トヨタが最終的な判断を下したり、正式に事業内容を発表したりしているものではありません。
しかしAE86を起点として、トヨタの様々な旧車が正規のBEVとして再生されることが、大いに期待されるところです。
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