なぜ「ミニバン人気」地域で異なる? 「アルファード」はアジアから拡大!? 北米&欧州でミニバンほぼ見ないワケ
くるまのニュース / 2023年6月7日 7時10分
日本では定番ジャンルとなる「ミニバン」。アジアでも「MPV」として定着していますが、欧州や北米ではほぼラインナップされていません。なぜなのでしょうか。
■ミニバンの起源は日本ではなかった?
「ミニバン大国」と呼ばれることのある日本では、新車販売台数ランキングの上位に多くのミニバンが名を連ねています。
一方、北米や米国では、日本ほど多くのミニバンを見ることができません。その背景には、どんな事情があるのでしょうか。
日本はしばしば「ミニバン大国」と呼ばれます。
実際、2022年の新車販売台数ランキングを見ると、トヨタ「ノア/ヴォクシー」、ホンダ「ステップワゴン」、日産「セレナ」といったミドルクラスのミニバンや、トヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」といったコンパクトミニバン、そして、「キング・オブ・ミニバン」と称されるトヨタ「アルファード」の名前を見ることができます。
一方のアジアでも、以前からミニバン(MPV)文化は浸透しており、ノア/ヴォクシー、シエンタ、オデッセイなど日本でも馴染みのあるラインナップが見られます。
その他、トヨタ「アバンザ/ヴェロズ」、「イノーバ」やダイハツ「セニア」、ホンダ「モビリオ」、日産「リヴィナ」、三菱「エクスパンダー」などアジア諸国向けのヒンジ式ミニバンを多く展開してきました。
また近年では、いわゆる高級ミニバン市場が盛り上がりを見せています。
その立役者となっているのがアルファード/ヴェルファイアです。2015年に登場した3代目アルファードは、輸出業者によって東南アジアや中東、欧州などへと流れるケースも見られ、国内相場の上昇の一員となっています。
また、中国を始めとするアジアではアルファードをベースとしたレクサス「LM」が2020年より販売されており、2023年4月には2代目へと生まれ変わっています。
このアルファード/ヴェルファイア人気により、現地の中国メーカーをはじめ欧州・北米など様々なメーカーが中国向けに新たなミニバンを投入するなど、これからのミニバンは「快適に移動する」手段のひとつとして発展を遂げそうです。
しかしながら、北米や欧州の道路を見ると、日本ほど多くのミニバンは走っていません。それどころか、ラインナップのなかにミニバンがほとんどないことがわかります。
一例として、アメリカとヨーロッパ(ドイツ)におけるトヨタのラインナップを見ると、スライドドアと3列シートを兼ね備えた乗用車としてのミニバンは、アメリカでは「シエナ」がありますが、ドイツでは商用車ベースの乗用仕様となる「プロエースヴァーソ」や「プロエースシティヴァーソ」が存在するのみです。
なぜ、欧州や北米などではミニバンが人気とならなかったのでしょうか。
ミニバンの歴史をひもとくと、意外にもその起源は1980年代の米国にあったことがわかります。
当時、米国の自動車メーカーであるクライスラーでは、FFプラットフォームの開発を進めており、それが採用されたはじめてのバンが、1983年に発売されたダッジ「キャラバン」でした。
キャラバンは、FFプラットフォームを採用したことで当時のバンとしては比較的コンパクトなボディを実現し、それでいた従来のバンと同等の7名乗車を可能としていました。
キャラバンの成功をうけて、シボレー「アストロ」をはじめとするFFプラットフォームのバンが多く登場することになりますが、これらは「フルサイズバン」と呼ばれる従来のバンよりもひと回り小さかったために、「ミニバン」と呼ばれるようになったという背景があります。
日本では1990年に登場したトヨタ「エスティマ」が、現代的なミニバンの元祖と言われます。
それまでにも多人数乗車が可能なバンは存在していましたが、商用車のプラットフォームを転用したものがほとんどでした。
一方、エスティマはほとんどを専用開発するなど、当時としては異例のモデルでした。
その後、日産「エルグランド」によって高級ミニバンというカテゴリーがうまれたほか、ホンダ「オデッセイ」のようなスポーティなミニバンも登場し、ミニバンは百花繚乱の時代を迎えることになります。
ただ、これらの多種多様なミニバンのほとんどは、アメリカやヨーロッパでは販売されることはありませんでした。
そこには、クルマに対する考え方の違いなどが深く関係しているようです。
■いったいなぜ?北米や欧州でミニバンが浸透しなかった理由
まず、北米(米国)について見てみましょう。
広大な国土を持つ米国では、国民のほとんどが日常の移動を自動車に頼っています。
また、クルマを保有するコストも比較的安価であることから、文字どおり「1人1台」と呼べるほど、モータリゼーションが発達しています。
そのような状況のなかでは、そもそも多人数乗車を必要とするシチュエーションがそれほど多くはありません。
その結果、ミニバンを求めるユーザーは、多くの子どもたちを乗せて移動する機会の多い「サッカーマム」などに限られます。
もともとは、「サッカーチームに所属する子どもたちを乗せる母親」を意味する「サッカーマム」という言葉ですが、クルマに対して用いる場合、「クルマを運転できないような人を乗せるためのクルマ」という侮蔑的なニュアンスを含む場合があるようです。
実際、米国において「クルマを運転できない人」というのは少数派です。
公共交通機関が発達していない場所では、移動するためには誰かの手を借りる必要があることから「1人前の大人ではない」ととらえる人も一部にはいるようです。
また、近年では多人数乗車が可能なSUVも多く登場しているため、ミニバンに対するそうした風潮はますます進んでいるという指摘もあります。
トヨタ「シエナ」は北米などで「サッカーマム」が利用するクルマと言われる
一方、欧州ではまた異なる理由があるようです。
多くの国が地続きとなっている欧州では、歴史的背景から、ひとつひとつの都市が独立しており、それらを幹線道路が結ぶという都市構造を基本としています。
都市間を移動する際は、アウトバーンに代表される高速道路を走行することが多く、その平均巡航速度は日本をはるかに上回るとされています。
そうした背景もあり、欧州のユーザーは高速域での走行安定性をより重視する傾向があると言います。
ただ、スクエアのボディが特徴のミニバンは空力性能で不利になりやすく、なおかつ重心も高くなりやすいため、セダンやハッチバック、ステーションワゴンなどに比べて、高速域での走行安定性が劣る傾向があります。
そうした事情から、欧州のユーザーにミニバンはマッチしなかったと言われています。
ただ、商用車に関しては積載性がより重視されるため、ミニバンのようなボディタイプのクルマが欧州でも重宝されており、前述のプロエースシリーズが展開されていたりします。
その結果、「ミニバン=商用車」というイメージが強くなってしまったことも、欧州でミニバンが浸透しなかった遠因と言えそうです。
※ ※ ※
クルマは国や地域によってその使用用途は大きく異なり、それにより販売されるジャンルも変化しています。
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