なぜ 「空飛ぶクルマ」と呼ぶの? 見た目はドローンに近く「車」とは程遠い! 想いや歴史が関係していた命名背景とは
くるまのニュース / 2023年6月16日 9時10分
次世代モビリティのひとつとして注目される「空飛ぶクルマ」ですが、その形状はドローンやヘリコプターのような形状となり、一般的なクルマとは程遠いです。それでもなぜ「空飛ぶクルマ」と定義され、呼ばれているのでしょうか。
■「空飛ぶクルマ」の時代がやってきた!でもそのかたちはクルマじゃない…?
近年注目を集めている「空飛ぶクルマ」ですが、その形状は多くの人が思い描いたものとは少々異なっているようです。
見た目としては、ドローンやヘリコプターのような形状のものが主流となっているにもかかわらず、なぜ「クルマ」と呼ばれているのでしょうか。
2023年6月13日、エアモビリティ事業を展開するAirXは、「空飛ぶクルマ」の試験飛行に成功したことを発表しました。
同社によると、離島間の移動を目的とした実証は国内初、海上を移動する2地点間の飛行についてはアジア初とのことです。
近未来の象徴として創作物の世界で描かれ続けてきた「空飛ぶクルマ」ですが、近年ではアメリカのベンチャー企業などを中心に開発が進められ、官民一体となって実証実験が行われるケースも増えつつあります。
日本でも、経済産業省と国土交通省、そして関連する民間企業による「空の移動革命に向けた官民協議会」が2018年8月に発足し、「空飛ぶクルマ」の今後についての議論が行われています。
安全性の担保や法整備など、実用化に向けて乗り越えるべきハードルは決して低くはありませんが、次世代の交通システムを担う存在として「空飛ぶクルマ」に対して大きな注目が集まっているようです
次世代の交通システムである「空飛ぶクルマ」は今後さらに注目されていく?(画像:AirX)
一方、今回の実証実験で用いられた「EHang216」を見ると、多くの人がイメージする「空飛ぶクルマ」の姿とは少々異なることがわかります。
EHang216は、2人乗りのキャビンから放射状に8本のアームが伸び、その先端に上下2枚計16枚のプロペラが備わっているなど、クルマというよりもドローンに近いルックスです。
一般的に「クルマ」とは「自動車」の「車」を訓読みしたものであり、「車」という漢字は車輪を表しています。
そのため、創作物のなかで描かれてきた「空飛ぶクルマ」は、地上を走るクルマに大きなプロペラが搭載されたようなものが中心でした。
ただ、EHang216をはじめ、実際に実証実験に用いられている機体は、ドローンやヘリコプターのような形状のものがほとんどです。
にもかかわらず、「空飛ぶクルマ」という表現は、前述の「空の移動革命に向けた官民協議会」などの場でも使用されている公的なものとなっており、専門家たちの間でも一般に用いられています。
英語圏では、「e-VTOL(殿堂垂直離着陸機)」や「Advanced Air Mobility(AAM:先進的エアモビリティ」といった表現が主流となっているなかで、なぜ日本では「空飛ぶクルマ」という表現が用いられているのです。
■なぜ「クルマ」なのか? 「利用しやすいこと」が「空飛ぶクルマ」の最重要項目に?
経済産業省では、「空飛ぶクルマ」を「電動化、自動化といった航空技術や垂直離着陸などの運航形態によって実現される、利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」と定義しています。
これを見る限り、少なくとも車輪が備わっているかどうかはあまり関係がないようです。
さらに言えば、どのような形状であるべきかという点にも触れられておらず、やや曖昧ともとれる定義です。
一方、後半部の「利用しやすく持続可能な次世代の空の移動手段」という文章からは、政府としては「利用しやすく持続可能」な空の乗り物であるというソフト面に重きを置いており、ボディの形状などのハード面については、現時点ではそれほど重要視していないということがうかがえます。
思えば、かつてはごく限られた人のためのものであったクルマも、1960年代に本格的なモータリゼーションの到来が訪れて以降、日本の人々の生活になくてはならないものとなっています。
トラックやバスなどの商用車も含めて、少なくとも現時点までは、クルマは「利用しやすく持続可能」な乗り物であり続けてきました。
このように考えると、政府のいう「空飛ぶクルマ」とは、「クルマのような形状で空を飛ぶ乗り物」という意味ではなく、「クルマのように人々の生活になくてはならない存在となる空飛ぶ乗り物」であるととらえることができます。
そのうえで、あらためて経済産業省による定義を見返すと、多くの人が利用する乗り物となるためには「電動化、自動化といった航空技術」が搭載され、環境面や安全面へ配慮されている必要がなければなりません。
また、クルマのように利用しやすい乗り物であるためには、市街地など限られたスペースで離着陸できる垂直離着陸機であるほうが好ましいのもうなずけます。
つまり、クルマのような利用しやすさを追求すると、「空飛ぶクルマ」の形状は、必然的に「陸を走るクルマ」の形状からはかけ離れていくということになります。
開発が進められている「空飛ぶクルマ」(出典:経済産業省)
ただ、これは決して不思議なことではありません。クルマの世界においても、市街地走行をメインとしたものと悪路走行をメインとしたものでは、その形状や構造はまったくといって良いほど異なります。
しかし、その形状や構造は違えど、快適かつ安全に移動するといった基本的概念はどのクルマでも不変です。
そう考えると、経済産業省の定義のなかにある乗り物は、やはり「クルマ」の一種と呼んでも差し支えないのかもしれません。
※ ※ ※
前述のAirXによれば、今後「空飛ぶクルマ」を2025年の大阪万博で本格導入し、2030年には商用運行の普及を計画しているといいます。
クルマのように普及するまでにはさらに長い年月がかかることが想定されますが、もし実現すれば交通システムにとって大きな革命が起きるかもしれません。
そうなったとき、現在の「クルマ」は「陸を走るクルマ」と呼ばれるようになる未来が訪れることも考えられます。
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