なぜ“今の若者”は「セダン」「旧車」を好む? 幼少期は「ミニバン育ち」も“車選び”が変化した背景とは
くるまのニュース / 2023年6月20日 8時10分
今の若者はミニバンで育った世代といえますが、そんな世代のクルマ選びが変化しているようです。若い人たちは、実際にどのようなクルマを好む傾向があるのでしょうか。
■「若者のクルマ離れ」が起こった背景は?
2000年頃から「若者のクルマ離れ」という言葉が聞かれるようになりました。この背景にはクルマの普及があります。
過去を振り返ると、1980年代の前半まで、クルマは若い人達にとって憧れの対象でしたが、1980年代の後半から販売台数と保有台数が急速に増えて、クルマに対して憧れを持ちにくくなりました。
国産メーカーの多くがミニバンを本格投入しはじめた1980年代後半から2000年代、ちょうどその頃に生まれた若年層の人は、幼い頃自宅にミニバンがあった家庭が多いでしょう。普段からミニバンのようなファミリーカーに乗っていれば、クルマが憧れの対象になりにくいといえます。
また、1990年代の後半からは、携帯電話やパソコンが若い人達に普及して、現在はスマートフォンに発展しています。
インターネットやSNSの拡大も含めて、これらはコミュニケーションのツールですから、自宅にいながらさまざまな情報に触れることができるようになり、その結果、外出する必要性が薄れてクルマのニーズも下がるというわけです。
さらには、クルマの価格や維持費の高さも挙げられます。今の若い人達は、昔と違ってさまざまなモノへの出費も多くなったうえに、本体価格も上昇し、ガソリン価格や各種税金も高騰したクルマは所有しにくいという事情もあります。
これらの理由によって若年層のクルマ離れが進んだといわれ、2000年代の前半から2020年頃まで、メーカーの開発者からは「今の若い人達はクルマに興味がなく、購買にも結び付かない」という話が聞かれたものです。
例えば日産は、2010年にコンパクトSUVの「ジューク」を発売。フロントマスクなどの外観が個性的で、従来の感覚では“若者向けのモデル”と思われましたが、販売直後のデータでは50代以上の購入者が45%を占めていました。
若者向けとされたコンパクトSUVですが、実際に購入したのは中高年齢層が中心だったのです。
※ ※ ※
その一方で軽自動車の開発者からは「今の若年層が購入するカテゴリーは、軽自動車のスーパーハイトワゴン」という話を聞くようになりました。
前述の通り、今の若いユーザーは幼い頃からミニバンに親しんで育ったことから「スライドドアを装着した背の高いボディ」がクルマ選びの基本になり、軽自動車でも全高が1700mmを超えるモデルを中心に若年層からの支持を集めています。
■若者がセダンなど背の低い車種に魅力を感じる理由
幼少期からミニバンで育った若者が背の高い軽自動車を好んで乗る一方で、最近は別の話も聞かれます。例えばホンダの開発者は以下のように述べています。
「『シビック』では、『タイプR』でない通常モデルでも、6速MTの販売比率が30%以上に達します。そして6速MTを選ぶお客さまは20代が際立って多く、50代を上まわるほどです」
スカイライン史上最強の「400R」
日産の販売店からは「最近は20代や30代の若いお客さまが『スカイライン』に注目しています。これは従来とは違う新しい傾向です」という話が聞かれます。
さらに、トヨタの販売店からは「天井を低く抑えた新型『プリウス』には、比較的若いお客さまが興味を示されています」という話もあるなど、若者のクルマ選びが変化しているようです。
若い人達がセダンや天井の低いハッチバックに興味を示す背景には、ふたつの理由があります。ひとつは運転感覚です。
若いユーザーに話を聞いたところ以下のような話が聞かれました。
「背の高いクルマで高速道路を走ると、横風にあおられて怖かったです。街中でも思い通りに走りにくい気がします。その点で背の低いクルマなら不安を感じにくいです」
街中で思い通りに走りにくいというのは、ステアリング操作した時の車両の動きが曖昧で、操作しにくいことを意味しています
もうひとつの理由はデザインです。ヘリテージカーを扱う中古車販売店スタッフは、次のように説明します。
「最近は20代の人達が、生まれる前に売られていた日産スカイラインや『シルビア』、トヨタ『スープラ』などに興味を示しています。中高年齢層と違って懐かしさではなく、デザインに新鮮さを感じているのです。
今のクルマの外観は、ミニバンや背の高い軽自動車を中心にパターン化されていますが、古いクルマはどれも個性的です。そこに魅力があるといいます」
背が低いセダンやハッチバックは、今の売れ筋車種とされる背の高いミニバンや軽自動車の欠点を突いています。
天井と重心が高いために横風を含めて走行安定性が悪化しやすく、外観も画一化されて個性が乏しいクルマではなく、走行性能が良く、個性的なデザインが若い世代に求められているというのです。
改めて昔の記憶を辿ると、クルマが若年層にとって憧れだった時代には、デザインや走りの個性も豊かでした。
乗用車は全般的に背が低く、横風はあまり気になりませんでした。ボディ剛性は低かったですが、車両重量が軽く、視界も良いために運転しやすかったです。
それに対して、今のクルマは小さなボディで車内は広く、空間効率も高まりましたが、デザインの選択肢が減って運転しにくい傾向にあります。
そして、SUVを含めて、ファミリーや子育て世代には便利なクルマが増えた一方で、若い人達が手軽に使える個性的な車種は大幅に減ってしまいました。
セダンは世界的に需要が下がり、車種数を増やすのは困難かも知れませんが、全高を1500mm前後に抑えた低重心で、コンパクトかつ個性的な外観のクルマを開発する余地はあるでしょう。
昔はそのようなクルマがたくさんあって、若い人達もクルマに憧れたのです。
つまり若年層のクルマ離れは、クルマのほうが若い人達から離れたことで、広がったように思います。
失われたクルマの魅力を復活させることが、販売低迷の突破口になるかも知れません。
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