何がスゴい? MT車に特化した「こだわりの制御」とは? 新「アイサイト」の特徴
くるまのニュース / 2023年7月5日 10時10分
スバルはMT車向けの運転支援システムを新たに開発しました。2023年秋に発売される「BRZ」のMT車に搭載する予定ですが、MT車ならではの制御を盛り込んだといいます。どのような特徴があるのでしょうか。
■ついにMT車用のアイサイトが登場!
スバルは、同社の運転支援システム「アイサイト」の新バージョンとして、マニュアルトランスミッション車(MT車)向けのシステムを開発。2023年秋に発売予定の「BRZ」改良モデルに初搭載します。
2021年にフルモデルチェンジして2代目となったBRZでは、オートマチックトランスミッション車(AT車)にアイサイトを搭載していたものの、MT車には非搭載となっていました。
そして、これまで対応が難しいとされていたMT用のアイサイトが新たに登場し、BRZの全車に運転支援システムが搭載されることになります。
一方で、MT車を好む人は、自らの操作で運転を楽しみたいと思う傾向が強く、運転支援システムは不要と考える人も少なくないでしょう。
スバルは、2030年に死亡交通をゼロにするという目標を掲げるとともに、長時間の操作に負担があるMTだからこそ、運転支援システムの必要性が高いといいます。
MT車向けのアイサイトは、BRZのAT車のアイサイト(Ver.3)をベースとしたうえで、一部機能をMT車に適用させました。
スバルは、MT車好きの人も納得できるようなアイサイトになっているというのですが、一体どのような特徴があるのでしょうか。
MT車向けのアイサイトに備わる機能は主にふたつ。「ぶつからない」を実現する「プラクラッシュブレーキ機能」と、「疲れない」を実現する「追従機能付きクルーズコントロール機能」です。
まず、プラクラッシュブレーキ機能ですが、アイサイトは、カラーのステレオカメラが対象物を立体的に捉えることで、先行車両のブレーキランプや歩行者、自転車も認識しており、システムが衝突する恐れありと判断するとドライバーに対して警告を発し、必要に応じてブレーキ制御をおこないます。
そして、MT車向けのプリクラッシュブレーキ機能は、衝突回避軽減機能としてはAT車と同じです。一方で、MT車ではクラッチの状態やシフトポジションにかかわらず作動し車両が停止するまでブレーキ制御が継続するのが特徴です。
プリクラッシュブレーキが作動した後は、ギアやクラッチの状態によってはブレーキ制御中にエンストする場合がありますが、そのようなときでも減速感に抜けがなく、安定してブレーキを作動させ車両を完全停止させます。
なお、プリクラッシュブレーキで緊急停止したあとはブレーキが徐々に解除されるため、エンジンが停止したあともそのまま車両を停止させる場合はブレーキ操作が必要。
プリクラッシュブレーキの作動速度は、通常時は1km/h以上、ギアがニュートラルのときやクラッチがつながっていないときは8km/hから全車速で対応します。
また、スポーツ走行などをする際に、ドライバーの意思でプリクラッシュブレーキをオフにすることも可能。ただし、再度エンジンを始動したときはプリクラッシュブレーキがオンになる設定となっています。
※ ※ ※
MT車向けアイサイトの場合、AT車に設定される後退時ブレーキアシストは非採用です。これは、後退しながら脱出するときなど、ブレーキアシストの機能をとっさに解除することが難しく、逆にドライバーが危険な状態になる可能性があるからといいます。
ただし、後退時ブレーキアシストに含まれるソナー警報は搭載しています。
一方で、MTは発進にクラッチ操作が必要になるため、誤後進抑制制御と誤発進抑制制御は搭載されません。
■追従機能付きクルーズコントロールの特徴は?
MT車向けアイサイトのもうひとつのポイントとなる追従機能付きクルーズコントロール(以下、ACC)は、先行車両との車間を維持しながら追従走行をおこなうことによって、運転の負荷を軽減させるものです。
従来のBRZのMT車には、追従機能がない「クルーズコントロール」は搭載されていたのですが、これは設定した速度に合わせて走行するもので、先行車両との車間を維持することはできませんでした。
先行車両に追従するBRZのMT車
ACCのセット方法はAT車と同じで、ハンドル右下のレバーで操作します。シフトが2速から6速のいずれかで、かつ車速が30km/h以上のときにセットすることができ、ACC作動中はクラッチやシフトは自由に操作することが可能です。
また、25km/h以下になると追従機能がキャンセルされ、ドライバー自らが操作をおこなうことになります。
ほかにも、クラッチを5秒踏み続けたり、ニュートラルで5秒以上走行し続けるなど、追従する意思がないとシステムが判断した場合に追従機能がキャンセルされます。
このACCには、MTならではの操作に配慮した制御も加えられました。
ACCで巡航中に車速が下がった場合でも、前述のように25km/hまでは制御を継続します。これは6速でもエンジンをストールさせない速度として設定されたものです。
加えて、クラッチを踏んでいる時間が5秒以内なら追従機能が継続するので、ドライバーが余裕を持って自由にシフトチェンジすることができます。
まだ、クラッチペダルを踏んでいるときは一時的に加速を止め、エンジン回転数の吹け上りを防止しますが、再度クラッチをつなぐと即座に加速を開始し、違和感なく走行を継続できるようにもしています。
2.4リッターの豊かなトルクの効果と合わせて、巡行中に変速をおこなっても、遅れなくしっかりと先行車両に追従できる制御としました。
一方MT車では、走行速度が低下してACCがキャンセルされたときはドライバーが操作を引き継ぐ必要があります。
このようなときに備えて、低速で走行中は、従来よりも長めに車間距離を設定することでドライバーが余裕を持って操作できるようにしました。
さらに、ACC作動中に変速すると、まるで人間が運転しているかのような丁寧な追従制御をおこなうといい、システムの介入によってドライバーの意図にそぐわない挙動とならないようMTならではのさまざまな調整を施し、ユーザーが違和感なく使える機能となっています。
※ ※ ※
2025年12月以降は、継続生産車(国産車)に衝突被害軽減ブレーキの搭載が義務化されることから、MT車向けのアイサイトの有無が、BRZの存続を決めるカギになるという状況でしたが、義務化を2年後に控えて実現が可能になりました。
なお、BRZと兄弟関係にあるトヨタ「GR86」については、米国トヨタが2024年モデルのMT車に衝突被害軽減ブレーキを搭載することを発表しており、国内仕様にも搭載されることになるでしょう。
そんななか気になるのは、BRZ以外のモデルへの搭載です。現時点で、国内で販売されるスバル車(OEM除く)にMTモデルは存在しませんが、海外で販売されている「WRX」にはMT車があります。
WRXのMT車は国内導入されないともいわれているなか、ネックのひとつであったMT車向けのアイサイトが開発されたことから、今後の導入に一歩近づいたともいえます。
スバルの開発陣は、「他車種への搭載は検討する」というに留めていますが、他車種へのアイサイト搭載を期待するMT車好きも多いのではないでしょうか。
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