ボンネットに付いている「謎のミラー」どんな機能? 無いコトも多いけど… 限られたクルマに備わる訳
くるまのニュース / 2023年7月5日 11時10分
もはや「懐かしい」と感じられるクルマの装備の1つが「フェンダーミラー」です。現在ではタクシー車両か旧車でしか見ることができませんが、メリットは少なくないといいます。
■実はメリットだらけ!? 「フェンダーミラー」とは一体何者なのか
昭和の終わりころまでは一般的だったものの、現在ではほとんど見られないフェンダーミラーですが、なぜ今もタクシーにだけは残っているのでしょうか。
フェンダーミラーのメリット・デメリットと、廃れてしまった理由について紹介します。
筆者(遠藤イヅル)は最近、1985年式の日産「サニーカリフォルニア」(B11型)を手に入れました。
このクルマで多くの人に「懐かしい!」と言われるのが、ボンネットにちょこんと生えたツノのような「フェンダーミラー」です。
筆者は1971年生まれの52歳なので、フェンダーミラーのクルマは何度も運転したことがあります。
とはいえ、自分で所有するクルマでは初でした。
正直に言うと、久しぶりに乗るフェンダーミラーのクルマは、ドアミラーに対してどのくらい運転感覚が違うのか、わずかながら不安があったのも確かです。
しかし実際に乗ると、とても運転しやすくて驚きました。
そこでまずは、フェンダーミラーのメリットから列挙してみます。
1つ目は、運転中の視線移動が少ないという点です。
ドアミラーはAピラー(フロントウインドウを支える左右の柱部分)の付け根周辺に設けられているため、ミラーを確認するため視線を大きめに動かす必要があります。
近年ではドアミラーの設置位置が後ろ寄りの車種も多いようです。
Aピラー付近の死角減少という目的があるにせよ、その場合助手席側ミラーを見るためには、顔を大きく左に振る必要があるほどです。
ところがフェンダーミラーでは、前方の視野内にミラーが入るため、目の移動だけで自分が道路上で置かれている状況を確認できます。
もちろんフェンダーミラーのクルマでも、目視による斜め後側方確認は必要ですが、そもそもの視線移動が少ないことは疲労の軽減につながります。
2つ目のメリットは、狭い道を走る際に重宝することです。
フェンダーミラー自体が車体幅の目安になるだけでなく、ドアミラーに比べクルマ全体の幅が狭くなるため、狭い道も少ないストレスで運転できます。
3つ目は、ミラーが前方についており後側方の死角が少ないこと。
そして4つめは、雨天時の視界確保です。
ドアミラーでは運転席・助手席窓に水滴がついていると、ミラーの確認が難しい場合がありますが、フェンダーミラーでは、ワイパーが拭ったクリアなフロントウインドウの向こうにミラーを見ることが可能です。
■一方でフェンダーミラーのデメリットもある
一方で、ミラーの位置が遠いため、ドアミラーよりもミラー自体が小さい場合があることや、映る鏡像が小さくなってしまうこと、歩行者との接触事故時に怪我の要因となる可能性があること、車庫入れの際、目安になる白線がドアミラーよりも見づらいなど、デメリットもいくつかあります。
また、運転上でのデメリットではなく、「見た目がカタツムリみたいでカッコ悪い」「現代のクルマのデザインに合わない」など、嗜好面・視覚面・スタイリング面でのマイナス要素を感じる人も多いことでしょう。
トヨタのタクシー専用車両「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」に今も備わるフェンダーミラーは、写真のように左右共にドライバーの視線の先に位置しています
こうしたデメリットもあるなかで、メリットも少なくないフェンダーミラーですが、現在ではタクシー専用車以外では採用されていません。なぜでしょうか。
日本車にミラーが装着されるようになった1950年代から、日本では「安全である」という理由で、ボンネットのついた乗用車・商用車では、フェンダーミラー以外の装着は許されませんでした。
そのため、元来ドアにミラーを装着していた海外のクルマも、輸入時にはフェンダーミラー化されていたほどです。
しかしこれが、輸入車の「非関税障壁」(国産品が優遇を受けるよう、税金を課す以外の用法で外国品を差別すること)になっていると海外メーカーから非難を浴びることに。
そして1970年代後半から輸入車のドアミラー解禁が始まり、1983年からは日本車でもドアミラーが認可されるようになりました。
なお日本初のドアミラー装着車は、初代の日産「パルサー EXA(エクサ)」でした。
その後、デザイン的な洗練さも手伝い、ドアミラーは一気に普及。現在では、新車でフェンダーミラーを標準装着するのはトヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」のみとなり、その他の車種もオプションでフェンダーミラーを選ぶことも難しくなっています。
JPN TAXIが頑なにフェンダーミラーを残しているのは、「タクシー専用車」という設計ゆえ。
タクシーでは、ドライバーが首を頻繁に振って安全確認をすると、乗客から「自分を見ている」など、不快な気持ちを抱かれる場合があるといいます。
また、助手席の乗客が大きな荷物を持っていても、フェンダーミラーでは後側方視界が確保できます。
それ以外にも、前述の「視線移動が少ない」「車幅が掴みやすい」「狭道でも運転が容易」などのメリットも大きいでしょう。
こうした細やかな配慮がフェンダーミラーの継続の理由、というのが実に日本的です。
■普及当初はメーカーも「ドアミラー」に対し慎重な姿勢も
筆者が購入したB11型サニーは、まさにドアミラー解禁前後の1981年から1985年に販売されていたモデルでした。
当時のカタログや取扱い説明書などを見ると、日産の慎重な姿勢を垣間見ることができます。
筆者(遠藤イヅル)が購入した初のフェンダーミラー車、日産「サニーカリフォルニア」(1985年式)
実は1983年にドアミラーがOKになった後も、B11型サニーは基本的にフェンダーミラーを標準装備としていました。
ドアミラーは一部のグレードや、若者向けとされたハッチバックなどに装着されるに留めていたのです。
興味深いのは、当時のカタログや取扱説明書には、「ドアミラー車はフェンダーミラー車にくらべ両側で約18mmミラーが突出します(原文ママ)」と記載がある点です。
日産の基幹車種らしく、フェンダーミラーからドアミラーへの移行にはメーカーも慎重であり、ユーザーにも注意喚起が必要だったことをうかがわせます。
現在のようにドアミラーが常識の時代には、信じられない話かもしれません。
なお1985年登場の後継モデルB12型(いわゆる「トラッドサニー」)では、ドアミラーが標準装備となっています。
たった数年間で、急激な時代の移り変わりを感じされるエピソードといえます。
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