車のブレーキ「フェード現象」なぜ起こる!? 「踏めば止まる」は当たり前か 命を守る「重要保安部品」について考える
くるまのニュース / 2023年8月2日 20時10分
クルマのブレーキは、安全運転のための非常に重要な保安部品ですが、その構造や仕組みについてはあまり知られていないようです。なかでも「フェード」が発生してしまうと、性能を損なうばかりか命の危険にもつながりかねません。
■使いすぎ厳禁! 「ベーパーロック」や「エア圧低下」が起きるメカニズムとは
改めて言うまでもなく、クルマのブレーキはとても重要な装置です。アクセルペダルが壊れてもクルマが動かなくなるだけですが、万が一ブレーキが効かなくなったら、命の危険をともないます。
今回は、ブレーキで発生する可能性がある「フェード」の仕組みとともに、ブレーキの危険なトラブルについて紹介します。
ブレーキは、摩擦によってクルマの速度を下げる装置です。
ホイールの内側にある円盤状の部品「ブレーキディスク」や、円筒形の部品「ブレーキドラム」に、ディスクの場合は「ブレーキパッド」、ドラムの場合は「ブレーキシュー」という摩擦材を押し付けることで機能します。
この時、クルマを動かしている運動エネルギーが熱エネルギーに変換されます。
寒い時に手をこすると手が温まるのと同様の原理で、ブレーキディスクやブレーキドラムも温度が上がります。
平常時はこの熱は空気によって冷やされますが、ブレーキを酷使すると温度が非常に高くなり、時には数百度もの高温になることもあります。
夜間の自動車レースでは、熱せられたブレーキディスクがほんのり赤く光って見えることすらあるのです。
そんな高温になると、柔らかい金属や樹脂を固めたブレーキパッドやブレーキシューは、ひとたまりもありません。
ときにはブレーキパッドやシューが煙を出しながら、燃えてしまうことがあります。
その際、ブレーキパッドとブレーキディスク、あるいはブレーキシューとブレーキドラムの間に、燃えて発生したガスが入り込み、十分な摩擦力が得られなくなってしまうことがあります。これを「フェード現象」といいます。
ブレーキディスクやドラムが冷えれば収まる現象ですが、減速しようとブレーキを踏み続けていると、いつまでたっても同じ状況が続いてしまいます。
※ ※ ※
乗用車や小型トラックの場合、ブレーキペダルとブレーキ装置の間を結ぶパイプには「ブレーキフルード」という液体が入っています。
ブレーキペダルを踏み込むとブレーキフルードが押し出されて、ブレーキフルードはパイプを通じて各車輪にあるブレーキへ送られます。
各車輪のブレーキには、そのブレーキフルードの圧力が伝わって、ブレーキパッドやブレーキシューを押し出しているのです。
ところが、ブレーキの使い過ぎでブレーキパッドやシューが過熱すると、その熱がブレーキフルードにも徐々に伝わってきます。
するとブレーキフルードが沸騰、パイプの中に泡が発生します。
その泡はつぶれるだけで力を伝えないため、いくらブレーキペダルを踏んでもブレーキパッドやシューを押し付けられなくなってしまうのです。
こうなってしまうと、ブレーキペダルをいくら踏んでもブレーキが効かなくなる現象が起こります。
この現象を「ベーパーロック」(ベーパーロック現象)と呼びます。
また大型トラック・バスなどの場合には、ブレーキフルードの代わりに加圧した空気を使用するものがあります。
加圧空気はポンプで作られ、専用タンクの中に蓄えられています。
ブレーキペダルを踏むと加圧空気がブレーキ装置に送られて、ブレーキが作動する仕組みです。
加圧空気をつくるポンプやタンクは、加圧空気を十分に作り出せるように設計されています。
しかし、ドライバーがブレーキペダルを何度も踏んだり、ポンプの機能が低下するといった故障が発生していると、ポンプによる空気の供給が間に合わなくなる「エア圧の低下」が発生することがあります。
空気圧が不足すると、ブレーキペダルを踏んでもブレーキが十分に作動しなくなってしまうのです。
ブレーキフルード、加圧空気のいずれの場合でも、ブレーキペダルの操作のしすぎは禁物です。
■ブレーキにまつわるトラブルあれこれ
現在販売されているクルマのほとんどには、「ABS」という装置が備わります。
ABSとはアンチロックブレーキシステム(Antilock brake System)の頭文字を取ったもので、クルマがまだ走っているのに、ブレーキによって車輪だけが止まってしまう(車輪がロックしてしまう)ことを防ぐ装置です。
現在販売されているほとんどすべてのクルマにはABSが標準装備されています[画像はイメージです]
車輪がロックした状態でクルマが止まりきれない場合、タイヤは路面に食いつく摩擦力を失うとともに、スキーのように路面を滑っていく場合があります。
そのときクルマの進行方向はハンドル操作とは無関係となり、非常に危険な状態に陥ります。
ドライバーがブレーキを踏み続けた状態でも、ABSはスリップしている車輪のブレーキの圧力を瞬間的に緩めたりすることでブレーキ力を最適化し、車輪の回転を元通りにする役目を果たします。
この時、ABS装置の構造上、ブレーキペダルに断続的な振動が伝わってきます。
ドライバーがこの振動に驚いてブレーキペダルを緩めてしまい、クルマが止まらなくなる人為的トラブルが起こることがあります。
振動はABSが正常に作動している証しで、故障ではないので、緊急停止の際などドライバーはブレーキペダルを強く踏み続けましょう。
また、比較的年式の新しいクルマでは滅多に起こることではありませんが、このABSでもトラブルが発生することがあります。
ABS装着車の各車輪には、回転状態を調べるセンサーが装着されていますが、このセンサーが故障することがあります。
車輪の回転数を正確に伝えられなくなるため、ABS装置も誤って作動します。
車輪がスリップしていないのにブレーキ力が緩められてしまい、低速時にクルマを停めづらくなることがあります。
もしこのような異常を感知したり、ABSの異常を知らせる警告灯がメーター内に点灯した場合には、速やかに販売店や整備工場へ連絡し、修理を依頼したほうが良いでしょう。
■ブレーキは最後の砦! ブレーキトラブルを防ぐには
緊急時には、躊躇することなくブレーキペダルを強く操作しなければなりませんが、通常の走行でやみくもにブレーキペダルを踏みすぎるのも良くありません。
まず、緊急時以外は「エンジンブレーキ」を併用するよう心がけましょう。
ブレーキはクルマを停めるための最後の砦(とりで)! 日ごろの点検を欠かさずおこなうように心がけましょう[画像はイメージです]
エンジンブレーキは、走行中にアクセルペダルを離したり、シフトダウンをして低いギアを選択すると作動します。
これまで説明したブレーキとは作動原理が異なり、ブレーキの過熱などのトラブルは起きません。
特に下り坂では、「登ってくるときに使ったギアで走り、十分にエンジンブレーキを効かせながら走る」と安全に走行できるとされています。
ATやCVTなので今のギア段数がわからない! という人も、まずシフトパターンの「D」の下にある「2」や「B」などと示されている位置にレバーを動かしてください。
不明な場合は、必ず自身のクルマの取扱説明書を確認しましょう。
なおハイブリッド車や電気自動車の場合には「回生ブレーキ」がこのエンジンブレーキに相当しますが、操作の方法は同様です。
また、ブレーキペダルを操作して本格的に減速する直前に、少しブレーキペダルを踏んでブレーキの効き具合を確かめることも有効です。
特にベーパーロックが発生している場合は、この操作でブレーキの効き具合が回復する場合があります。
故障は、突然発生することがありますが、予兆が感じられることもあります。
いずれにしても運転中は、ブレーキペダルの踏み応えや減速する様子に常に注意を払い、少しでも違和感を感じたらいったんクルマを停めて様子を見ましょう。
もちろん、ブレーキの異常事態を警告するメーターの中の赤いランプが点灯したら、運転は中止です。
一方で、日常のメンテナンスも重要です。
ブレーキフルードは、最長でも車検整備の時ごとに交換してもらいましょう。
見えている部分のブレーキフルードのみを交換し、全量は交換しない粗悪なお店もあるようですから、信頼できるお店選びも大切です。
※ ※ ※
ブレーキは、クルマを停めるための最後の砦(とりで)です。
30年以上前は、教習所でもブレーキの重要性を教えたものですが、その後にクルマの構造に関する教育が省略され、現在に至っています。
そのため、クルマの速度を下げたいときには「ブレーキペダルを踏みさえすれば止まるものだ」と考えられてしまっている傾向があるかもしれません。
仕事や通勤通学で頻繁にクルマを使う人はもちろんのこと、たまの週末ドライブにしか使わない人も、ブレーキペダルの先にある構造や、点検の重要性についても改めて気にしてみてはどうでしょうか。
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