「2ドアセダン」なぜ減った? かつては「主力」も今ではほぼ消滅! 昭和の“謎”ボディタイプとは何だったのか
くるまのニュース / 2023年8月10日 11時10分
かつて昭和から平成初期に「2ドアセダン」という謎のボディタイプが存在していました。今では2ドア=スポーツカーというイメージですが、どのようなものだったのでしょうか。
■ベーシックな大衆車では「2ドアセダン」が普通だった!?
2ドア車は、現在ではめっきり姿を減らしたため、「2ドア車=スポーツカー」の図式がありますが、昭和から平成初期にかけては、スポーツカーではない2ドア車がたくさん路上を走っていました。
ではなぜ、それほどに2ドア車が存在したのでしょうか。
SUVやミニバンなど、実用性重視のクルマがメインとなった現代。しかし昭和から平成初期にかけては、4ドアセダンがクルマの基本形として主流であり、さらにその合間をぬって、多種多様な2ドア車が走っていました。
ズバリ、2ドア車は不便です。後席への乗り降りも手間がかかり、ハッチバックやステーションワゴン、SUVほどには、大きな荷物を飲み込むことができません。
そうしたことから2ドア車は姿を消し、現在では2ドア車=スポーツカーという図式が成り立つほどに少なくなりました。
しかしかつては、4ドアセダン車にもごくあたりまえに2ドア車がラインナップされ、ユーザーもそれに大きな疑問を抱くこともなく、2ドア車を選択していました。
例えば1970年代前半の日産では、セダンをベースにした2ドア車として「チェリー」「サニー」「バイオレット」「オースター」「ブルーバード」「スカイライン」「ローレル」「セドリック/グロリア」に設定しています。
こうしてみると、ほぼすべての車種に2ドア車があったことに驚かされます。
なお、ひとえに2ドア車といっても、純粋に2ドアで独立したトランクを持つ「2ドアセダン」や、流麗なルーフラインを持つ「2ドアクーペ」に分かれます。
そしてリアにハッチを持つのに「2ドアクーペ」と呼ぶケースや、ドアにサッシュがなく厳密には「2ドアハードトップ」となるモデルなど、その形態は実にさまざまでした。
そこで、これらを広義の「2ドア車」としてまとめ、さらに元来ハッチバック車として登場したクルマ、および2ドアのみが設定されたスポーティカーやスペシャリティカー、スポーツカーは今回除いて紹介することとします。
ではなぜ以前は、2ドア車がたくさん走っていたのでしょうか。
その理由のひとつは、前述の「2ドアセダン」です。
セダンは4ドア、というイメージがありますが、1960年代に生まれたトヨタ「パブリカ」「カローラ」、日産(ダットサン)「サニー」など大衆セダンの多くは、まず2ドアセダンで登場し、追って4ドアセダンを追加していたのです。
その後も2ドアと4ドアを併売する、というパターンが珍しくありませんでした。
また、初代マツダ「ファミリア」のように、最初は4ドアのみで、価格を下げるため(もしくはスポーティイメージを出すため)に2ドア化された場合もありました。
事実、ドアが少ない2ドア車は、4ドア車と同等の装備を持っていても価格が安くなることがあり、多少の利便性を損なっても、2ドアセダンを買うユーザーは一定数存在しました。
参考までに、1971年の2代目「サニー 1200スタンダード」を見てみると、4ドア車は48.5万円、2ドア車は44万円でした。
しかし2ドアセダンは、日本市場では1970年代後半から急速に姿を消しています。
■えっ! 1つの車種で4つの「2ドア」があったケースも!?
しかもややこしいことに、「カローラ」「サニー」「ダットサン ブルーバード」「ファミリア」、いすゞ「ベレット」などには、2ドアセダンのほかに、スタイリッシュでパーソナル感を高めた「2ドアクーペ」が同時に設定されていた時期もありました。
日産「サニー」では「4ドアセダン」のほか「2ドアクーペ」「2ドアセダン」「ワゴン(カルフォルニア)」「バン」と複数のバリエーションがありました[写真は4代目(B310型)「サニー」:上は「サニー クーペ 1400SGX」/下は「サニー 2ドアセダン 1200GL」]
極端な例を見ると、1974年にデビューした3代目「カローラ」では、2ドアセダン、4ドアセダン、2ドアハードトップ、2ドアリフトバック、2ドアクーペという、5種ものボディバリエーションが用意されていたほど。
実に5分の4が2ドア車となっていたのです。
バリエーションの多さで商品力を高めた時代だとしても、もはや、なんのためにそこまで作り分けていたのだろう、とさえ思います。
2ドア車が絶滅種となった現在では考えられないことです。
しかし当時の街中には、たしかに数え切れないほど、スポーツカーではない「ふつうの2ドア車」があふれていました。
しかも、「カローラ」「スプリンター」の2ドア車(もしくは3ドア車)といえば「レビン/トレノ」ですが、この頃はまだ2ドア車の一部に与えられていたスポーツグレードの扱いでした。
それ以外の2ドア車は、多少のスポーティイメージや、パーソナル感は付与されていたにせよ、ごくふつうのグレード扱いだったのです。
その流れは、かの「ハチロク」ことAE86を擁する5代目「カローラ/スプリンター」まで続きました。
この代では、2ドア車(3ドア車)すべてが「レビン/トレノ」と名乗っています。
現在では、最高出力130psを発生する「4A-G」型エンジンを積むAE86といえば、小型スポーツカーの代名詞ですが、一方で最高出力約85psの実用エンジン「3A-U」型を積む廉価版(いわゆる「AE85」)も販売されていました。
グレード名も「SE」「GL」「XL」など、セダン系と同じ。しかも女性向けの「ライム/リセ」というグレードまで存在したほどです。
それを、ご婦人がふつうに街中を運転していたのです。現在の軽自動車のように!
いかに当時は、2ドア車がごく当たり前のようにカタログに載り、購入されていたのかがわかります。
むしろ、当時2ドア車に乗っていた人の中には、2ドアが不便なのは当然なので、「あまり不便と思わなかった」という人も多かったかもしれません。
■アメリカではセクレタリーカーと呼ばれる「ちょっとおしゃれで気軽な2ドア車」
1970年代後半から1980年代前半になると、高級パーソナルクーペとして君臨していた「クラウン」や「セドリック」の2ドア車は姿を消し、その役目を4ドアハードトップに譲るようになりました。
その流れにたくさんのクルマが従いましたが、多くの車種にはまだ、2ドア車が残っていました。
日産「サニークーペ ルキノ」はスポーティな“クーペ”を名乗りながらも、往年の2ドアセダンを思わせる雰囲気とともに十分な後席の広さも備えていました
そして1980年代後半から1990年代には、次第に2ドア車が減っていく一方で、トヨタ「サイノス」、日産「(パルサー)EXA」「サニーRZ-1」「NXクーペ」、ホンダ「シビッククーペ」など、スポーティなスタイルを持つ2ドア専用モデルが数多く登場。
その中には、日産「ルキノクーペ」、三菱「ミラージュアスティ」など、「往年の2ドアセダン」を彷彿とさせる実用的な2ドア車も生まれています。
これらの2ドア車は、アメリカで「セクレタリーカー」として販売されていたクルマを、日本仕様に仕立てたもの。
セクレタリー(秘書)カーとは、アメリカ市場で女性や若者が通勤に使うようなクルマのことを指します。
スポーツカーほどの走りは必要なく、ほどよくスタイリッシュ、それでいて価格が安い「ちょうどよい少しオシャレなクーペ」として、人気を集めました。
基本的にクルマが大きなアメリカでは、1.5リッターから2リッタークラスのセクレタリーカーが、日本の軽自動車のように気軽な「アシ」として選ばれていました。
ところが現在では、その区分ももはや曖昧に。世界中の各メーカーがSUVを販売する「SUV戦国時代」に突入し、2ドア車はスポーツカーや、高級パーソナルカーとして存在するのみとなったのです。
気軽に乗れる2ドア車や小粋な小型クーペ、例えば1990年代にアメリカで売られていた「ターセルクーペ」などは、現代となっては逆に魅力的です。
ちなみにターセルクーペの日本での発売はありませんでした。
今後は「ふつうの2ドア車」が出現する可能性は極めて低いため、「時代の記憶」として乗りこなすのも良いかもしれません。
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