スバルが電動化を急加速!? 「新型BEV」28年末までに7車種投入へ! 思い切って方向転換する事情とは
くるまのニュース / 2023年8月4日 7時40分
スバルは「新体制による方針」を発表し、新たなBEV戦略を明らかにしました。2030年にBEV比率を50%とするほか、新型BEVが続々と投入される予定です。
■なぜ今BEV化を加速する?
スバルが思い切って、BEV(電気自動車)に舵を切りました。
2023年8月2日に同社の第1四半期決算説明会が開催され、そこで発表された「新体制による方針」のなかで、その詳細を明らかにしたのです。
それによると、2030年にBEVの販売比率をグローバルで50%とする新たな目標が掲げられました。全てのスバル車で同年販売台数を120万台程度と見込むため、BEVは60万台ということになります。
従来の目標では、2030年にBEVとハイブリッド車を合わせてグローバルで40%を目標としていたので、今回の方針転換はかなり思い切った決断だといえるでしょう。
また、2028年までのBEVモデルラインナップとして、これまでの発表で明らかにしていた2026年末に「ソルテラ」を含めたSUV4車種を導入することに加えて、2028年末に4車種を導入するといいます。
この4車種については、SUV以外のカテゴリーが含まれているとのことです。
さらに詳しく見てみると、日本市場ではガソリン車の販売を当面存続するほか、ハイブリッド車については、トヨタとの協業技術による「THS(トヨタハイブリッドシステム)」を使った次世代e-BOXERを2025年に投入します。
BEVについては2系統あり、ひとつは2025年頃の群馬県矢島工場での混流ラインでのBEV生産で、年間の生産能力は20万台、もうひとつが、2027年以降に大泉工場で新設するBEV専用ラインです。こちらも生産能力は20万台です。
さらに、アメリカでも日本とほぼ同じ時期にBEV専用ラインを立ち上げます。その場所や提携先については現在検討中とのことです。
こうした、スバルのBEVシフト前倒しの背景には何があるのでしょうか。
もっとも大きな理由は、スバルの主戦場である北米市場の変動です。
北米のBEVといえば、テスラの存在が大きく、販売台数ではすでにスバルを大きく引き離している状況で、その差は大きくなっていくばかり。それだけではなく、米連邦政府が掲げるIRA(インフレ抑制法)による縛りがスバルに対して大きく影響していることは間違いありません。
ユーザーへの補助金対象となるためには、アメリカ国内でのBEV生産やアメリカと通商関係のある国との部品調達など、海外自動車メーカーにとっては複雑な調達対応および財務処理が必要なのです。
アメリカ重視戦略をこれからも続けるスバルにとっては、このタイミングでアメリカを見据えたBEVシフトに一気に動いたものといえるでしょう。
今回の会見で、スバルの大崎篤社長は同社におけるIRAの重要性を強調しています。
IRAに限らず、今の自動車産業はグローバルで100年に一度の大変革期の真っ只中にあります。
大崎社長は「非連続な変化があり、従来にないスピード感で世界市場が動いており、市場の先行きは不透明」と自動車産業界の現状とこれからを表現しました。
だからこそ、スバルは今、大きな変革をしなければならないというのです。
そのため、スバルのBEVシフトの大事な分岐点となる「2028年に向けた決意」を示しました。
たとえば、「モノづくり革新」と「価値づくり」で世界最先端を狙うこと。そのためには、BEVへ一気に舵を切り、資源の集中先をBEVとすることで変革を早期に実現するとしています。
その達成に向けて、組織体系を製造、開発、サプライチェーンがより高密度化させる形に刷新します。
具体的には、商品企画、設計、生産という3つのプロセスをリレー式で進めてきた従来のクルマづくりの方式を刷新。これら3つのプロセスほぼ同時に行い、さらに製造工程も大幅に見直すことで、「開発手番半減」、「部品点数半減」、そして「生産工程半減」を目指します。
これを、スバルは「ひとつのスバル化」と呼びます。
「生産工程半減」は、トヨタが準備を進めている次世代BEVでも同じような話を聞きました。
そのなかで重要なのが、「ギガキャスト」と呼ばれる車体の一部を大型の鋳物で成型する手法です。
スバルもギガキャスト採用をひとつの選択肢として、次世代BEV開発を進めていることが分かりました。
■「スバルらしさ」BEVでどう実現する?
このように、スバルのBEVシフトがこれから一気に進むことが確実になったわけですが、果たして「スバルらしいBEV」とはどのようなクルマになるのでしょうか。
スバル車の特徴であり魅力といえば、低重心の水平対向エンジンやシンメトリカルAWD、先進安全機能のアイサイトなどがあります。
2026年末までに投入予定の「謎SUV」(画像:スバル「2023年3月期 通期連結業績」発表資料)
一方のBEVは電池を床下に置くレイアウトが主流のため、そもそも低重心なクルマです。また、モーターの配置によって四駆を設定することはガソリン車などに比べると、比較的容易です。
つまり、水平対向エンジンを特徴とするスバルの優位性は相対的に低くなるかもしれません。
その上で、大崎社長は「モーター制御技術にはスバルの知見が大きく役立つ」として「スバルらしいBEVを作っていく」と断言しました。
そうした力強い言葉を聞いても、今回の記者会見に参加した筆者(桃田健史)としては「スバルらしいBEV」の姿と形、そして走り味がまだはっきりと想像できませんでした。
現在スバルのBEVとして販売されている「ソルテラ」はトヨタ主導での製品企画で生まれた「bZ4X」の兄弟車であり、その縛りのなかで開発陣は「スバルらしさ」を模索してきました。
しかし、それは誰が乗っても素直に「スバルらしいBEV」と言い切れるレベルにはまだ達していないと思うからです。
スバル側にも、ソルテラを出発点として「スバルらしいBEV」を目指す険しい旅路が始まったという認識があります。その上で、スバルとしては先行き不透明なBEV市場において、柔軟かつ勝負どころでは一気に動けるBEVづくり体制の構築を急いでいるところです。
例えば、トヨタとのBEVにおける協調領域と競争領域を今後、さらに明確化されるでしょう。
また、トヨタとの協業とは別枠で、先に発表があったパナソニックエナジーからの円筒型リチウムイオン電池の採用など、スバル独自のBEVに向けた動きも加速します。
スバルは今、同社史上最大の分岐点に立っていることは間違いありません。日本のみならず、グローバルでスバル車を愛する人たちが心から歓迎できる「スバルらしいBEV」の登場を大いに期待したいところです。
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