トヨタは姉妹車廃止するんじゃなかったの? 「ノアヴォク」「アルヴェル」なぜどっちも売る? “似たような車種”残した事情とは
くるまのニュース / 2023年8月9日 17時10分
2020年に全店舗が全車種を販売する体制に移行したトヨタですが、「ノア/ヴォクシー」「アルファード/ヴェルファイア」は統廃合せずに残しています。どのような事情があったのでしょうか。
■姉妹車廃止を進めるなか統廃合されなかった車種がある
トヨタは2020年5月に、国内で4つあった販売網を再編して、全店が全車を扱う体制に変わりました。全店が全車を扱うと、もはや販売系列のために基本部分を共通化した姉妹車を用意する必要はありません。例えばトールワゴンの「ルーミー/タンク」は、今ではタンクを廃止してルーミーのみになっています。
ところが2022年1月に発売されたミドルサイズミニバン「ノア/ヴォクシー」と、2023年6月に発売されたラージサイズミニバンの新型「アルファード/ヴェルファイア」は、両方ともに姉妹車を残しました。同じ店舗で基本設計が共通の姉妹車を扱うのです。なぜ姉妹車を残したのでしょうか。
ノア/ヴォクシーの開発者は、以下のように説明しています。
「従来型はノア、ヴォクシーともに人気が高く、お客さまに認知されているために、新型では両車とも残しました。
ただし今は、すべての店舗で両車を販売するため、標準的な車種はノアで、それでは満足できないお客さまに向けて、より個性を強めたヴォクシーが設定されています。
そのためにノアには標準ボディとエアロ仕様がありますが、ヴォクシーはエアロのみです」
トヨタの販売店ではどのように受け止めているでしょうか。
「新型のノアとヴォクシーを発売した直後は、ヴォクシーはアクが強いと敬遠され、若いお客さまでもノアを購入することがありました。
しかし時間が経過すると、外観が見慣れたためか、ヴォクシーの人気が再び高まっています」
1か月あたりの販売台数を見てみると、トヨタが販売網を再編する前の2019年には、ノアが4390台、ヴォクシーは7334台でした。その後、全店が全車を販売する体制に変わった後の2021年はノアが3684台、ヴォクシーが5840台と、ノアが4割弱、ヴォクシーが6割強となっています。
そして、直近2023年1月から6月の台数を見ると、ノアが8415台、ヴォクシーは8112台と両車でほぼ同じです。
その点、新型アルファードとヴェルファイアは事情が少し違います。
ヴェルファイアは2代目アルファードの姉妹車として、2008年に誕生しました。販売店はアルファードがトヨペット店、ヴェルファイアはネッツ店です。ヴェルファイアはアルファードに比べるとフロントマスクが派手で、販売店舗数もネッツ店が多く、売れ行きを増やしました。
2015年にフルモデルチェンジした後もしばらくはヴェルファイアの登録台数が多かったのですが、2018年1月のマイナーチェンジで逆転。アルファードが仮面のようなフロントマスクにメッキを散りばめてデザインを際立たせ、これが売れ行きにも良い影響を与えたのです。
その後2020年5月にトヨタの全店が全車を扱う販売体制へ移行。2020年下半期(7月から12月)の1か月平均登録台数は、アルファードはコロナ禍の影響を受けながらも9025台に達した一方で、ヴェルファイアは1218台ですから、アルファードの13%です。
ここまで差が付いたため、2021年にはヴェルファイアは特別仕様車のみの設定になりました。
そして売れ行きがさらに下がり、2022年の1か月平均登録台数は、アルファードが約5000台でしたが、ヴェルファイアは約190台と、アルファードの4%まで減りました。
■販売不振だったヴェルファイアはなぜ廃止されなかった?
それでも2023年6月に発売された新型で、ヴェルファイアは廃止されずに残されました。
理由を開発者に尋ねると「新車の販売台数は下がりましたが、ヴェルファイアを使われるお客さまの愛着は強く、残すべきだと考えました」と述べています。
そもそもアルファードとヴェルファイアの販売格差が拡大した背景には、先に述べた全店で全車を売る販売体制への変更がありました。全店で全車を売ると、売れ行きが伸びる車種はさらに多く売られ、人気が下がった車種はますます落ち込むのです。
新型「アルファード」(左)と新型「ヴェルファイア」(右)
このことはホンダと日産が証明しています。この2社は、以前は国内でも複数の販売網を設け、さまざまな車種ラインナップをバランス良く販売していましたが、2000年代に両社とも全店が全車を売る体制に移行しました。そうすると車種ごとの販売格差が急速に広がりました。
2023年1月から6月の販売状況を見ると、ホンダでは、国内で売られた新車の40%を軽自動車の「N-BOX」が占めます。ほかの軽自動車と登録車でもっとも売れている「フリード」を加えると70%を超え、軽とフリードが多くを占めていることがわかります。
日産も同様で、「ルークス」などの軽自動車と「ノート/ノートオーラ」「セレナ」を合計すると、国内で新車として売られる日産車の80%近くに達します。
このように全店が全車を売ると、販売格差が広がり、残すべき車種と廃止すべき車種が明らかになります。トヨタもそこを視野に入れ、車種や販売店のリストラも狙って全店が全車を売る体制に移行しましたが、残すべき車種を切り捨ててしまう危うさもあります。
その典型がヴェルファイアだといえるでしょう。新型ではそういったことも踏まえ、新型アルファードとは異なる精悍なフロントマスクや19インチタイヤの装着、ステアリングシステムの支持剛性などを高めるフロントパフォーマンスブレースの採用などにより、デザインと走りをスポーティに仕上げました。
開発者は「仮にヴェルファイアを廃止しても、新型アルファードにエアロパーツや19インチタイヤを装着するスポーティなグレードを用意したでしょう。ただしフロントパフォーマンスブレースを採用するような個性化は行わなかったと思います」と語っています。
ノア/ヴォクシーやアルファード/ヴェルファイアは、もともとは販売系列によって売り分けて、販売総数を増やすための姉妹車でした。
しかし市場に定着すると、ヴォクシーとヴェルファイアは、スペシャルティカーの価値を身に付けました。昭和の時代でいえば、基本部分を共通化した「マークII/チェイサー/クレスタ」にも、それぞれ「ファミリー向け/走りの良さ/プレミアム」という違いがありました。
これこそが、姉妹車の本当のあり方でしょう。エンブレムを変えるといった小手先の違いではなく、世界観まで踏み込んだ個性化です。
ノア/ヴォクシー、アルファード/ヴェルファイアは、今まで多くの姉妹車を開発してきたトヨタだから可能になったクルマ造りだと筆者(渡辺陽一郎)は考えます。
これからも全店が全車を売る体制のなかで、魅力的な姉妹車を開発して欲しいものです。
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