1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ

様々な「顔」を持つトヨタ・豊田章男氏…ラリー・フィンランドで見せた「立場(顔)の切り替え」が凄かった

くるまのニュース / 2023年8月22日 20時40分

トヨタの会長になった豊田章男氏ですが、現在でもマスタードライバー、モリゾウ、自工会会長をはじめとする様々な“顔”はそのままです。では、どのようにして切り替えているのでしょうか。

■様々な顔を持つ豊田章男氏

 14年に渡る社長生活を終え、2023年4月1日付けでトヨタの会長になった豊田章男氏ですが、「少しは休めるようになると思っていましたが、今まで以上に忙しい」との事。
 
 それもそのはずで、会長になったと言っても、マスタードライバー、モリゾウ、自工会会長をはじめとする様々な“顔”はそのままです。

 ちなみに2023年8月3日から6日に開催されたWRC(世界ラリー選手権)2023年 第9戦「ラリー・フィンランド」では、TGR-WRT(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)のチーム代表であるヤリ-マティ・ラトバラ氏が出場(今回で210回目の参戦)。

 そのため、豊田氏がTGR-WRTチーム代表代行を勤めることになりました。

 筆者は長きに渡って豊田氏を取材していますが、本質は共通ですがその時の立場によって発言する内容は異なります。1番わかりやすいのはモリゾウとしての「僕はガソリン臭くて、音がするクルマが大好き」でしょう。

 筆者は「これはどの立場での発言」とすぐに判別できますが、新聞・経済誌をはじめとする多くのメディアはその発言を“豊田章男”と一括りにしてしまい、それが結果として様々な誤解や曲解を生む原因になっていると思っています。

 今回ラリー・フィンランドの取材を通じて、様々な立場の豊田章男を見ることが出来ました。

 2023年8月3日の午前、TGR-WRTとトヨタモビリティ基金(TMF)はフィンランド ユバスキュラ市とカーボンニュートラル達成と持続可能な社会の実現を目指し、人と自然が調和した街づくりを通じた幅広い取り組みを推進するパートナーシップ構築のための基本合意書を締結しました。

 具体的には、WRC活動の中心を担うと共に、ユバスキュラ地域内の様々な路面のテストコースを活用し、トヨタの欧州におけるもっといいクルマづくりの新たな拠点となる「TGR-WRT新開発センター」を中心に、カーボンニュートラルの達成と持続可能な社会の実現を目指し、人と自然が調和したまちづくりに向けた短期および中長期の施策を共同で検討を行なうと言います。

 新開発センターは東京ドーム133個分の敷地を持ち、そこにはファクトリーやテストコース(リアルな路面を活用)などが設けられる予定。

 ユバスキュラ市/TMFと共同で実施するカーボンニュートラルの取り組みを通じてWRC活動で排出されるCO2の削減のために木造建築の導入、生物多様性の向上や森林保全、水素による自家発電施設やモビリティの導入なども計画されています。

 ちなみに新開発センターの建設であれば、TGR-WRT単独でも全く問題ないはずですが、なぜユバスキュラ市とTMFと共になのでしょうか。

 この決断を行なったのは、トヨタの会長、TGR-WRTの会長、そしてTMF理事長の3つの顔を持った豊田氏です。

 豊田氏は常日頃から「ラリーは公道を使う競技、街や地域との共生は大事」と語っていますが、要するに今回のプロジェクトは「ラリーを起点としたもっといい街づくり」と言うわけです。

 新開発センターによりユバスキュラ市は大きな投資効果と雇用機会の増加も期待されます。事情は異なりますが、トヨタが持続的な震災復興支援のために東北に生産拠点を設けた事と被りました。

 豊田氏は次のように語ってくれました。

「想いは同じですね。

 2022年トヨタはロシアから撤退しましたが、そんな中で欧州に新しい拠点をつくる。

 こういう時期だからこそ、そんなメッセージがあるのも事実です。

 何と言ってもユバスキュラはWRCに復帰のために必要な時間とリソースをささげる決断をした『第2の故郷』ですし」

 それと同時に、筆者は今回の発表は、「トヨタがラリー活動をやめない!!」と言う宣言に聞こえました。

 豊田氏にそんな感想を伝えると、「やめると言うのは経済的/マーケティングでやっている場合です。

 我々がラリーに参戦する目的は『もっといいクルマづくり』と『人材育成』。

 その目的があるから、経済がどうであれ続けられる。逆にそれをやめたら、トヨタを否定することになります」

 調印式を終えた豊田氏は、サービスパークにTGRウェアではなくスーツのまま現れました。

 ここからはチーム代表代行としての顔になります。

 豊田代表代行はドライバー/コドライバー、そしてチームメンバーに声をかけますが、常に笑顔で和気あいあいとしたムードです。

 我々メディアに対しても「この場所でのスーツ姿はかなりレアですよ」と写真撮影にも喜んで応じてくれます。

 そこでチーム代表代行としての仕事のひとつ、インタビューをお願いしました。

――チーム代表代行としてのミッションは?

 豊田:みんなを元気づけること、なので「チアリーダー」と呼んでほしい(笑)。

――今回のフィンランドラリーは、チーム代表代行以外にも色々な役割があります。

 豊田:本音を言えば、あまり表に出てこない「ラリー好きの豊田さん」の時間をできるだけ取りたいと思っています。

 モリゾウの役目は週明けですが、ラリーの間にちょいちょい出てくると思います。

―― サービスパークに展示されているGRヤリスRally2コンセプトのサイドウィンドウには「MORIZO」と記されています。

 豊田:本当?スーツやヘルメットなどのギアはあるので、いつもでスタンバイですよ。

―― 今回、ラトバラ選手への期待は?

 豊田:走るほどに良くなっていますね。実は彼はHEVになってから選手として走っていません。

 今回ドライバーとして走ることで、今後の彼のチーム代表として他の選手との会話内容が変わってくると思います。

 元々ドライバーのいい所を引き出す代表ですが、今回の参戦でより説得力が上がると思いますよ。

―― ラリージャパンに向けての秘策は?

 豊田:9月がラリー北海道(全日本ラリー)、11月がラリージャパンですが、その間の10月にモビリティショーがあります。そこで「ドーンドーン」とやりますので、お楽しみに。

―― Rally1は現在3チームです。参戦するメーカーが増えてくれるといいのですが……。

 豊田:僕の想いとしては、「Rally1に来たくなる」ようなコメントを意識的にしていく予定です。

「エンジンが無い」とか言ってないで、「まずは出ましょうよ」と。

 フィンランドでは今でもスバル/三菱の名をよく聞きます、忘れられないうちに……。

※ ※ ※

 ちなみに筆者は2か月前にル・マン24時間耐久レースの取材に行き同じような状況を見ていますが、あの時とはちょっと雰囲気が違います。

 言葉で表現するのは難しいのですが、どちらもプロフェッショナルなのは間違いないのですが、WECチームは「ボスが来たぞ!!」と構える会社的な雰囲気。

 つまり個人の力では及ばない見えないバリアを感じたのに対し、WRCチームはチーム代表がラトバラ氏から豊田氏に変わっただけでいつもと変わらず「自然体」な雰囲気な事です。

 僅かな違いですが、豊田氏が「家庭的な」と語る要素だと思います。ただ、WECチームも確実に変わり始めているので、今後に期待です。

 ここで、豊田氏から「この1戦だけの特別仕様だよ」とTGR-WRTの会長兼代表代行の名刺をいただきました。

■トヨタ自動車 会長としての仕事とは?

 その後、豊田氏はTGR-WRTの拠点へと向かいます。

 ここでは現在開発中の「GRヤリスRally2」の生産準備が行なわれていますが、その視察のためです。

 ここにはチーム代表代行としてではなく、トヨタ自動車 会長としての立場として来ています。

 現場には友山茂樹エグゼクティブフェローの姿も。友山氏は社内では「TPSの伝道師」と呼ばれていますが、このTGR-WRTにもTPSを取り入れるべく、様々なカイゼンが行なわれています。

 なぜ、ラリーマシンにTPSが必要なのでしょうか。

 現在TGR-WRTが参戦するのはRally1と言う最上位クラスですが、WRCにはその下にもいくつかのクラスがあります。

 排気量や駆動方式、最低重量などに応じてRally2/3/4/5にカテゴライズされています。

 これらのマシンはワークススペックのRally1とは異なり、その多くは自動車メーカーが開発を行なった市販車をベースしたモータースポーツ専用車両、つまり「カスタマーレーシング用マシン」です。

 これらのマシンはプライベーターがしかるべき手順を踏めば普通に購入することが可能です。

 もちろん、台数は市販車とは比べ物にならないほど少量ですし、生産はほぼ手作業で行なわれますが、「量産モデルである以上は、TPSは不可欠」だと。つまり、ラリーカーの生産に関しても「ムリ・ムダ・ムラ」を無くす必要はあると考えています。

 実際に工場内の各セクションには、生産工程を分解し再効率化を図った表や部品の流れのフローなどが貼られています。

 また、カスタマーレーシング車両には重要となる部品供給に関しても在庫管理や納期を早める手法なども報告。

 豊田会長は各担当者から説明を受けると、「こうしたほうがいいのでは?」、「これは解りにくいね」と言ったような指摘を次々と。

 その内容は友山氏から「現場のメンバーより、会長のほうが中身を知ってるじゃないか!!」と言うほど的確。

 日本人スタッフはもちろん現地のスタッフも、熱心にその言葉を真剣に聞きメモを取っていました。

 そして豊田会長は全ての工程の視察を終えると、現地のメンバーにこう語りました。

「現在は人の実力に頼って、色々なやり方が混在しています。

 Rally1は5人のカスタマーが相手なのでいいでしょう。

 でも、Rally2のカスタマーは世界の色々な地域にたくさんいます。

 なので、上手くやらないと毎日皆さんが帰れなくなる。それは困るでしょ。

 だけどカスタマーが怒るのも困ります。

 だから『何が正常か、何が異常か』を決めるプロセスを皆さんが行なっています。異常な物をハッキリすることで、皆で助け合うことができます。

 それを理解したとしても、『今まで俺たちはこうやってきたから、うるさい事言うなよ』と言う気持ちがあるでしょう。でも、全ての苦情はチェアマンの私に来ます。

 今週はフィンランドにいますが、来週はいません。

 だから皆さんの力が必要なのです。日本のメンバーが色々言うでしょう。

 恐らく、日本語とフィンランド語、日本語と英語を超えて言うと思いますが、会話をしてあげてください。

 モリゾウもRally2の1人のカスタマーとして買う可能性があります。

 モリゾウは全てのカスタマーの中で最もクレーマーです。

 それとモリゾウは1番クルマを壊します。そのニーズにミートするためにも、是非レベルアップをしてください。お願いします」

友山茂樹エグゼクティブフェロー(真ん中)と豊田章男会長(右)友山茂樹エグゼクティブフェロー(真ん中)と豊田章男会長(右)

 その日の夜7時、豊田氏はSS1 Harjuに向かいます。

 スーツ姿からTGR-WRTウェアに着替えての登場です。

 SS1はサービスパークから数分の場所にあるユバスキュラ中心で行なわれるスーパーSSで、市街地のターマック(舗装路)と、公園内のグラベルの両路面がミックスされた3.48kmのショートステージとなります。

 ここには食事をしながらSSを観戦することができるホスピタリティゾーンあります。

 日本にも野球場やサーキットでも可能なスタイルですが、非常設型のラリーでもそれができるのは、さすがです。

 豊田氏は到着するやいなや、マシンの走行をチェック。ここは会長でも代表代行でもなく、「1人のラリー好きの豊田さん」としてです。

 ちなみに2022年のラリー・ベルギーではインカット評論家として各選手の走りをコメントしていましたが、今回も鋭いコメントがいくつか。

 興味深かったのはRally1のマシンではなくRally2のマシンで、「●●は高速コーナーの姿勢が綺麗だけど、タイトコーナーは苦手」、「▲▲はタイトコーナーは良く曲がるけど、高速コーナーはふらつく」など、車両の特性まで言及していました。

 これは推測ですが「GRヤリスRally2だったら、こういう走りをするのかな」と考えていたのかもしれません。

 とにかくラリーカーを見る目は超真剣で、まさに「仕事を忘れて」と言った印象でした。

1人のラリー好きの豊田さん1人のラリー好きの豊田さん

 この時、SS1に観戦に訪れていたトミ・マキネン氏(三菱時代に4連覇を達成したラリードライバー、2017年にトヨタがWRCに復帰した時のチーム代表)と再会、嬉しそうにラリーカー談義を行なっていました。

 8月4日、いよいよフィンランドラリーらしい森林地帯での本格的な戦いがスタートします。

 豊田氏は早朝に行なわれるチームのドライバーミーティングに豊田代表代行として参加します。

 サービスパークに到着すると、まずはメンバー1人1人と挨拶。これはヤリマティ代表と全く同じです。

 ミーティングでは口を挟むことなくメンバー/ドライバーの話に耳を傾けます。

 筆者はミーティングと言うと、チーフが今日のメニューや目標を語るようなイメージを持っていましたが、そんなコメントは一切なく、その日の注意すべき天候やポイントを確認する程度。

 はじめは「ミーティングにしてはドライだな」と感じましたが、ドライバーは「必要な情報が欲しければその責任者に聞く」と言うシステムだと聞いて、「なるほど」と思いました。

 当然、情報はすべて共有しされていますが、その判断は各領域の責任者に一任されているのです。

 つまり、会社のように上司の判断ではなく「現場の判断で動く」、ただし「責任は上司が取る」と言うスタイルです。

 豊田氏は常日頃から「情報が現場にある、現場が今どうなっているかを大切にしたい」と語っていますが、このチームがそれを実践できているようです。

 これも「プロフェッショナルだけど家庭的」と語る要因のひとつだと思っています。

 その後、豊田代表代行は午前中にSSの視察に向かい、昼はドライバーがサービスパークに戻ってくるのに合わせてコミュニケーションを取っていました。

 午後は筆者はSS観戦に行っていたので別行動でしたが、チームに訪れる多くの人たちと打ち合わせや体調を整えるための施術などを行なっていたようです。

 ちなみにロバンペラ/ハルットゥネン組がSS8で横転、クルマのダメージが大きくデイリタイヤとなってしまいました。

 夜になっても代表代行の仕事は続きます。

 デイ2のステージ全てが終わった21時20分、ヒョンデ、Mスポーツ(フォード)の代表と共にWRCステージインタビューに参加。集まったWRCファンたちに、このように語りました。

「ラリー・フィンランドを楽しんでいます。私はドライバーたちを応援するためにここにいますし、チームがハッピーであれば、チーム代表である私もハッピーです。

 カッレはホームラリーをとても楽しみにしていたので、あのようなこと(=デイリタイヤ)になってしまい本当に残念ですが、重要なのは彼とヨンネが無事だったということです。

 クルマが直り、明日彼らが再スタートできることを願っています。

 エルフィンは素晴らしい力を発揮してラリーをリードしていますので、明日も引き続きいいパフォーマンスを発揮してくれることを期待しています。

 また、貴元も非常に速かったですが、彼は長年ユバスキュラに住んでいるので、地元の人達が応援してくれることを願っています。

 ヤリ-マティにとっては今回が210回目のWRCスタート、笑顔で運転を楽しんでいましたが、それこそが私が見たかった姿です。

 ラリーはまだ2日残っていますが、全てが順調ですし、チームのみんながとてもいい仕事をしていると思います」。

 8月5日、豊田代表代行は早朝のチームのドライバーミーティングから参加。通常はホテルからは送迎車ですが、何とシェアリングの電動スクーターで颯爽と登場。S耐でも良く乗っているので扱いは非常に上手です。

 その後は別行動でしたが、豊田氏から「SS観戦はヘリコプターで行ってきてください」と言うサプライズ。

 ちなみにクルマだと約1時間半かかるSSでも、ヘリコプターだと約20分-30分で行くことが可能でした。

 ただ、豊田氏が我々に“あえて”ヘリコプターでのSS観戦を経験させたのには、ちゃんとした理由がありました。

―― ヘリを使うとSSが5つも観戦できました。クルマだと2つが限界でした。

 豊田:ヘリ=贅沢と言われますが、ここでは普通の人より“ちょっと”お金を出せば誰でもできます。まさに「時間を買う」と言うイメ―ジですね。

―― 富裕層向けではなく、移動が大変な人のためのツールとしても使えますよね。

 豊田:そうそう、SSに行きたくても行けない人もいます。

――降りる場所がたくさんある上に、離着陸するヘリの数の多さにも驚きました。

 豊田:10機以上の離着陸を一人でコントロールしていますからね。

 こちらではヘリはそれくらい身近な存在なんですよ。

 日本だと防災用かドクターヘリ、そして高須クリニックのイメージ。

 僕はヘリはもう少し大衆に近い所にあるべきだと思っています。

 日本でなぜできないか。それは規制があるから。日本は前例がない事に対して厳しい。

―― それは水素エンジンのタンクや給水素施設もそんな感じですよね?

 豊田:「責任取るからやれよ」と言えるリーダーが出ないとダメ。最後は全部現場の責任にしちゃうから。

―― ラリージャパンで山の中でのヘリの離発着ができると、今後のヘリの活用方法がもっと変わるような気がします。

 豊田:その通り。ラリーのためにヘリを飛ばすのではなく、ヘリをキッカケに「社会インフラ構築にも繋がる」と言うことを理解してほしいですね。

―― 更に驚いたのは、山奥のSSにホスピタリティエリアが存在する事です。ただ、同じ道を挟んでローカルな人が観戦できるエリアもあります。つまり、来る手段は違うけど、同じモノが楽しめる環境があるのがいい。

 豊田:大事な事ですね。

 日本だと「お金払わないと見せない」とやりがちですが、選択肢は色々あったほうがいいです。

 ラリージャパンはまずは多くの人に見てもらう事が大事。その結果、幅が広がると思います。

―― あるSSで40年くらい来ているファンの人と話をしたら、「ラリージャパンに行きたい」と言っていました。

 豊田:そういう人が来た時、「あれっ?」となるが嫌ですよね。

 海外の人が「来てよかった」と思えるようなラリージャパンにしたいです。

※ ※ ※

 デイ3終了後も豊田代表代行はヒョンデ、Mスポーツ(フォード)の代表と共にWRCステージインタビューに参加。ここではこのように語っていました。

「マシンの損傷が激しいため、カッレの出場が叶わなくて残念だが、エルフィンの快走で皆が晴れやかな気分になっています。

 貴元とスンニネンはフィンランド代表選手。フィンランドの戦いがこの二人で行なわれています。

 貴元のSSでのコメントにもありましたが、カッレのアドバイスが付いています。助け合い、分かち合ういいチームになっている。そこにプライドを感じます。

 そしてラトバラですが、自信みなぎっているようです。だけど、そうなると、私が代表をする回数が増えてしまいます。

 210回なのでやらせているので、皆さんがどう応援するかで決まるので期待ください」

 インタビュアーが「走ってほしい?」と声を掛けると、大きな歓声が。豊田代表は苦笑いでしたが、まんざらでもない表情でした。

■様々な顔で楽しんだフィンランドラリー

 8月6日、最終日となるデイ4です。結果は皆さんご存じの通り、エルフィン・エバンス/スコットマーティン組が2年ぶり2回目の優勝、そして勝田貴元/アーロン・ジョンストンが昨年のラリージャパン以来となる総合3位を獲得。そして、ヤリ-マティ・ラトバラ/ユホ・ハンニネン組は総合5位と言う結果。

 ポディウムには豊田代表代行も登壇し、フィンランドに“君が代”が。そして、シャンパンファイトでは、完全にドライバーたちの餌食に。

 ただ、その表情はいつも以上に晴れやかで嬉しそうでした。

 豊田代表代行は、その後FIAの記者会見を受けた後、我々にフィンランドラリーの総括をしてくれました。

―― ポディウムでのシャンパンファイトはどんな気持ちでしたか?

 豊田:これは勝たなければできない事ですから、このような事ができる環境を作ってくれたチームに感謝です。

 事前に「目に入らなきゃいいな」と思っていましたが、ダメでした(笑)。

 そこから何も見えずに掛けられるだけ……。長い間経験していなかったので、ちょっと“守り”でしたね。

―― エルフィン選手が1位、貴元選手が3位、ラリージャパンに向けてどんな意味を持つと思われますか?

 豊田:貴元はレギュラードライバーとしてポイントが加算されます。

 プレッシャーの中で結果を残すと言う1年、ここまではちょっとでしたがタイムは上がっています。つまり「挑戦している証拠だな」と。

 でもやはり結果が欲しいと思っていた時の3位、非常に嬉しいです。

 デイ2の午後くらいから、彼のインタビューの時の顔つき、肩の力の抜け方が変わりました。

 ラッピ、カッレがいなくなってから、スンニネンと共にフィンランドを盛り上げた2人だったと思う。

 そんな中、コンマ秒を争う中での3位、今後の彼の成長の中でターニングポイントとなったと思います。

―― パワーステージの後、貴元選手の所にスンニネン選手が来て、「いい勝負ができた」と称え合っていました。

 豊田:Rally1のトップドライバーは競技が終わるとお互いを称え合う、これは凄く美しいしいい事だと思っています。

 そこに貴元が入った事を多くのラリーファン、モータースポーツファンに知ってほしいですね。

ラリー・フィンランドで豊田章男会長(左)と勝田貴元選手(右)ラリー・フィンランドで豊田章男会長(左)と勝田貴元選手(右)

―― 今回は調印式と言う歴史に残るアナウンスメントからラリーウィークに入り、結果も残した。振り返って感じる事は?

 豊田:調印式は、世の中に対して「トヨタと言う会社がラリー界に対して、ロングタームコミットメントをした」と言う証明です。

 トヨタは何を目的にモータースポーツをやっているのか? それは人材育成ともっといいクルマづくりですが、そこに一歩進み拠点を設けることで、持続的かつ自立的にやる一歩が始まった……と言うわけです。

―― 代表代行としての仕事はどうでしたか?

 豊田:そもそも「プリンシパルって何するの?」、「何が仕事なの?」からでした。

 朝のチームミーティングに出て、始めは「皆の動きを見よう」と。

 とにかく僕がプリンシパルをすることで「誰かの邪魔をしたくない」と言うのが最優先項目でした。じっと見ながら、「何か役立つことはないか?」と応援団長のようになった。

 結果、上手くいき時を重ねるごとに笑顔とリラックス度が増え、相談具合も増えてきたので良かったなと。

―― 心配はありましたか?

 豊田:自分の中には「そもそも受け入れてもらえるか?」という緊張感がありました。

 いちお肩書があるので、忖度して受け入れくれるでしょうが、僕は解ってしまいます。そうじゃない気持ちになれたのは嬉しいし、そういうチームにしてくれたラトバラやメンバーに感謝しかないです。

 家庭的かつプロフェッショナルで全員が負け嫌い、皆で高め合う、皆で喜びあう、そして一人が何役でもこなす。

 そんないいチームなっていると実感しました。そういう意味では、彼らの仕事を間近で見れたのは本当に良かったです。

―― ラリージャパンに向けても楽しみです。

 豊田:ラトバラがHEVのマシンに初めて乗ったと言うことは、今後代表として的確なアドバイスができるでしょう。この後のシーズンをご注目いただきたいと思います。

※ ※ ※

 と言うわけで、ラリー・フィンランドで豊田章男氏が何を思い、何を感じ、行動してきたが解っていただけたと思いますが、全てに共通しているのは「自分以外の誰かのため」、つまり「Youの視点」で行なわれている事です。

 これはトヨタの経営理念でもある「幸せの量産」、そしてクルマを走らせる550万人に対する「ジャパンLOVE」にも繋がっています。

 豊田氏は会長になった今も様々な肩書・顔を持っていますが、それらを引き受ける根底は、ここにあると思っています。

 ただ、今回のフィンランドラリーには延長戦がありました。「モリゾウの役目は週明け」と言っていたように、ラリー翌日、ドライバーを交えて運転トレーニングが行なわれました。

 モリゾウ選手はGRヤリスRally1/Rally2はもちろん、何とラトバラ氏が所有するセリカGT-FOUR(ST165)にも試乗。

 クルマ大好き/運転大好きは、会長になっても全く変わらないようです。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください