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えっ、他の路線バスと違う!? 自動操舵すでに実現「バスと電車のいいとこ取り」の乗り物なぜ生まれた?

くるまのニュース / 2023年9月10日 12時10分

愛知県の「ゆとりーとライン」を走行する「ガイドウェイバス」。電車とバスの特徴を持ったこの不思議な車両について、運営会社を直撃しました。

■不思議な乗り物「ガイドウェイバス」

“クルマの街”として語られがちな愛知県のとりわけ名古屋市は、クルマによる公共交通が発達しています。その一つが「ゆとりーとライン」です。この路線は「ガイドウェイバス」という、バスと鉄道の長所をそれぞれ生かした非常に珍しい車両を採用しています。

 なぜ、このような交通機関が生まれたのでしょうか。運営する名古屋ガイドウェイバスに話を伺いました。

 ナゴヤドーム付近の道路を走っていると、高速道路のような姿をした高架橋が目に付きます。しかし高速道路にしては位置が低く、しかも時々通るのはバスのような車両ばかりです。

 このバスこそが、今回紹介するゆとりーとラインです。

 ゆとりーとラインは、名古屋市から、そのベッドタウンである尾張旭市や春日井市を結ぶ路線。ちなみにゆとりーとラインは愛称であり、正式な名称は「志段味線」です。

 ガイドウェイバスの外観は、通常の路線バスと同様な形状をしています。実際、タイヤもしっかり付いているのですが、大きく異なるのが車体側面の「案内装置」の存在です。

 これは高架の上を走るとき、両側に置かれた低い側壁をトレースしてくれるものです。そのため、車内から高架橋を走行しているのを見ると、まるで電車のようです。

 さらにこのバスが走るのは、高架軌道上だけではありません。実はこの「案内装置」を車体に収容すると一般道も走れます。そのためガイドウェイバスは、軌道法に基づく「鉄道」の扱いを受けつつ、平面道路区間においては「バス」の扱いを受ける交通機関になっています。

 このような交通システムはドイツやオーストラリアで実用化されているそうですが、日本ではこのゆとりーとラインに採用されたのが初めて。そんなガイドウェイバスの歴史と特徴などについて、運営を担当する名古屋ガイドウェイバスに話を伺いました。

■「自動操舵」20年前から存在!?

 このガイドウェイバスの導入が検討され始めたのは1986年頃。ちょうどこの頃は「志段味ヒューマン・サイエンス・タウン」の建設が検討されていた時期だそうです。

 この開発に伴い、増大する人口の移動手段として、すでに開発済みかつ既成市街地内の道路が渋滞している区間を「高架軌道区間」に、今後徐々に開発が進むだろう志段味地区内を道路や市街地の整備状況に合わせ段階的な整備が可能な「平面道路区間」として、デュアルモード走行が可能な「ガイドウェイバスシステム」を導入することとしました。

 この志段味地区を含む守山区は、名古屋市の中で唯一地下鉄路線のない行政区です。そのため、ガイドウェイバスは地下鉄の代わりともいえます。

 そんなガイドウェイバスにはおもしろい特徴があります。高架軌道上ではハンドル操作の必要がないこと。自動運転が注目される昨今ですが、ある意味、運転士の介在しない安全な自動操舵システムが20年以上前から存在していたことになります。

ゆとりーとラインゆとりーとライン

 また、ガイドウェイバスは、前輪のタイヤの中に「中子」と呼ばれる鉄輪が組み込まれています。このため、万一高架軌道上でパンクしても立ち往生することなく、運行を継続できるようになっています。

 さらに開発などの場面で苦労した点を聞くと、担当者から次の回答がありました。

「ガイドウェイバスは、名古屋市役所や名古屋ガイドウェイバスが開発したものではなく、当時の建設省土木研究所と鉄道系のメーカー4社が共同開発したもので、1989年に福岡市で開催されたアジア太平洋博覧会の会場内輸送手段として初めて運用されたものです。

 このガイドウェイバスを全国で初めて軌道法の認可を受けて実用化したのが、ガイドウェイバス志段味線です。

 ガイドウェイバス志段味線は、高架の軌道区間と平面の道路区間とを乗り換えなく、デュアルモードで走行するため、その切替部に「モードインターチェンジ」を設けておりますが、このモードインターチェンジで求められる機能、確認手順、それを実現するための具体的な機器等について、海外での先進事例(ドイツ・エッセン市、オーストラリア・アデレード市のO-Bahn)などを参考に、名古屋市役所として上記の開発メンバーと共同で検討を重ね、認可をいただくことができました。

 開発段階では、上記のデュアルモード走行のために、平面の道路区間では法律上案内装置がタイヤの外側に飛び出さないことが求められることから装置を折りたたむ必要があるため、特にその開発に苦労したと聞いております。

 また、通常の路線バスとしての道路運送法の規定だけでなく、軌道法の規定も満足させるための様々な車両改造や車両整備、運転免許等の調整・協議もずいぶん苦労したと聞いております」

■検討している「車両の今後」とは

 こうしてゆとりーとラインは2001年3月23日に無事開業。市民の反応について聞くと「高架軌道区間では、信号交差点や踏切がなく道路渋滞の影響がないため、従来の路線バスに比べて大幅に所要時間が短縮され、大きな遅れも発生しないことから大変喜んでいただいたと認識しております」と回答をいただきました。

 また、ガイドウェイバス導入に際して市バスが乗り入れることになり、名古屋市の敬老パス(市内在住で65歳以上の人が利用できる優遇パス)が使用可能となりました。この点も市民から好評を得ているようです。

 筆者(鈴木伊玖馬)自身も愛知県が地元なので、ゆとりーとラインに乗ったこともありますが、交通量の多い名古屋市内を走行しているにもかかわらず、高架軌道区間なら定刻通り移動できるため、便利だった記憶があります。

 また、名古屋市内を一望できる眺めの良さも魅力的な要素でした。見慣れた場所を通る時も、やはり高い所から見るとまた違った風情を楽しめます。

ゆとりーとラインの現在のガイドウェイバスゆとりーとラインの現在のガイドウェイバス

 そんなガイドウェイバスの今後について尋ねたところ、担当者は次のようにコメントをしてくれました。

「現在のガイドウェイバスは、上記のとおりデュアルモード走行を行うために案内輪を折りたたむ必要があり、そのため床下にスペースが必要です。このような事情から、ノンステップバスを改造して床をかさ上げして、出入口はツーステップ構造となっています。

 バリアフリーとしては、中扉にステップリフトを装備し、車いすをご利用のお客さまに対応しておりますが、足の不自由なお客さまやご高齢のお客さまにはご不便をおかけしております。

 そのため、次期の車両更新時には車両の低床化を図るため、これまでのガイドウェイバスの構造を見直し、自動運転技術を用いた車両を導入できるよう検討を進めているところです」

 名古屋市特有の交通機関であるガイドウェイバス。今後はより一層、地元に密着した乗り物になっていきそうです。

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