全長3.5m! トヨタが「ヤリス」より小さい「MRスポーツカー」を開発! “5速MT×1.8Lターボ”搭載した過激すぎる「お買い物クルマ」とは
くるまのニュース / 2024年5月26日 17時40分
トヨタは現在、多種多様なスポーツカーをラインナップしてスポーツカー好きを楽しませていますが、過去にはそれらに全く引けを取らない“過激すぎるモデル”も開発していました。記事では、お手頃コンパクトカーを「ターボMR化」した「アイゴ クレイジー」について解説します。
■トヨタが「お手頃コンパクトカー」をターボMR化!
トヨタは現在の車種ラインナップにおいて、「GRヤリス」や「GR 86」「GRスープラ」そして「GRコペン」など多種多様なスポーツカーを展開しており、日本のみならず世界のモータースポーツ文化の育成に大きく貢献するとともに、スポーツカーファンを楽しませてくれています。
しかし、そんな現在のスポーツカー群にも全く引けを取らない“過激すぎるモデル”を開発したことが過去にもありました。
それが、コンパクトカーのキャビン内部にターボエンジンを搭載した「アイゴ クレイジー」です。
アイゴ クレイジーのベースとなった初代「アイゴ」とは、トヨタが2000年代初頭に欧州に向けて展開していた手頃な価格のコンパクトカー。
初代アイゴの元々のパワーユニットは、最大出力68馬力・最大トルク9.8kgf・mを発揮する1リッター直列3気筒ガソリンエンジンおよび最大出力55馬力・最大トルク13.3kg・mを発揮する1.5リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンで、これをフロントに搭載し前輪を駆動し走行するFF車となっていました。
そんな実用性や日常使いを重視した初代アイゴに、英国トヨタ(以下、トヨタ)は“魔改造”とも言える過激なカスタムを実施。
運転の楽しい「ショッピング スーパーカー」をコンセプトとして、アイゴの秘めた特性を極限まで追求しました。
まず穏やかで優しげなボディにグループBラリーの精神を叩き込むため、電子制御ハンドリングアシストやパワーステアリング、ABSなどの多くの快適装備を完全に排除。
“武士の情け”のように屋根とドアだけは辛うじて残されますが、これで公道走行可能なゴーカートへと生まれ変わる準備が整いました。
また、物事を捨てることに夢中になったトヨタは、アイゴに搭載されていた既存のエンジンを放り出し、より大きな出力を発揮する「MR-S」「セリカ」用の高性能な1.8リッターVVT-iユニットに載せ替えることを決意。
さらにエンジンがノーマル状態では物足りなさが拭えないことから、トヨタ純正モータースポーツターボ変換キットを組み合わせ、ついに最大出力200馬力・最大トルク240Nmを発揮することに成功します。
しかし、ここで小さな問題が発生しました。
このような大型エンジンを搭載する際のごくありふれた欠点として、アイゴのコンパクトなボンネット下にエンジンを収めることができなってしまったのです。
そんな日常的に発生する些細な問題について、トヨタはエンジンを運転席と助手席の後ろに配置することで見事に解決。
ボディ後部に搭載されたエンジンは、そのパワーを5速MTのトランスミッションを介して後輪に直接送り込み、加えてドライバーの意のままに操れるゴーカートのような感覚を実現することに成功しました。
■完成した「クレイジー」は実際に速かった?
また、アイゴ クレイジーのその他の改造箇所として、特注の冷却システム、巨大なフロントマウントのアルミ製ラジエーター、サスペンションの変更に加えて、調整可能なTEIN製ダンパーを装着。
よりシャープなコーナリング性能や、わずか5.7秒で時速100キロに到達する加速性能、時速204キロの最高速度など優れたパフォーマンスを獲得したといいます。
見るからに運転の楽しそうな「アイゴ クレイジー」のインテリア
ただしトヨタはこのアイゴ クレイジーについて、「絶対的なスピードとパフォーマンスのために開発されたモデルではなく、あくまでもドライバーの意思に素直に反応し、車内外の人々の顔に笑顔をもたらす愛すべきモデルとして設計した」と説明。
そんなアイゴ クレイジーは外観も個性の塊そのもので、ベースのアイゴの顔は残したまま、強烈なパワートレインに耐えられるように特注のワイドボディキットを装着。
車体サイズは全長3500mm×全幅1800mm×全高1500mmと、ベースのアイゴより95mm長く、185mm幅広いボディになりました。
この力強い外観に取り付けられた17インチの大径アルミホイールと頑丈なグッドイヤー製タイヤにより、絞り出した全てのパワーが余すこと無く路面に伝わります。
また、リアビューで目を引くカーボンファイバー製の巨大なリアウィングは、アメリカンチャンプカーシリーズのレースカーから“そのまま”移植されたもの。トヨタのスポーツカーとしての伝統を高らかに象徴しました。
さらに内装もコーチトリマーの専門会社が手掛けた特注品で、4点式安全ハーネスとフルロールケージを備えた専用スポーツシートを採用。
最後にナンバープレートには「T2 4YGO」(ターボチャージャー付きの2人乗りAYGO)の番号を装着し、コンセプトが視覚的にも伝わるユニークな要素として同車を完成させました。
このアイゴ クレイジーは、2008年7月に開催された「英国国際モーターショー」で世界初公開されたほか、「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」にもサプライズ登場し、日本の元スーパーGTレーサーであるピーター・ダンブレック氏がヒルクライムを運転して会場を大いに沸かせました。
※ ※ ※
アイゴ クレイジーについて最もよく聞かれる質問として「これは市販化されていますか?」という言葉が聞かれるそうですが、残念ながら同車は販売されることなく、また本格的に生産する予定は一度もありませんでした。
多くのファンはこの回答に悲しみましたが、アイゴ クレイジーはトヨタの将来のスポーツモデル実現のための技術的実験のひとつだったのです。
しかし、同車をはじめとした画期的な実験的モデルが多く生み出されたからこそ、現在のトヨタの豊富で強力なスポーツカーのラインナップが完成したとも言えるでしょう。
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