トヨタ「ハイエース」に「セルシオエンジン」搭載!? 専用「豪華装備」満載の“救急車”がスゴかった! 大活躍の「ハイメディック」はもはや“伝説”か
くるまのニュース / 2024年6月26日 18時10分
けが人や病人を運ぶ救急車に「V8エンジン」を搭載したハイパワーなモデルがありました。一体どのような救急車だったのでしょうか。
■「高出力V8」搭載! 大活躍した救急車とは
「救急車にV8エンジン搭載」――。
まるでアメリカの話のようですが、かつてトヨタが発売していた救急車「ハイメディック」は、最高級セダン「セルシオ」用のV型8気筒エンジンを積んでいたことで知られています。なぜV8エンジンが選ばれたのでしょうか。
急な病気やけがをした人の元に駆けつけ、医療機関に緊急搬送を行う救急車は、社会生活にとって欠かせない存在です。
1991年には、「救急救命士法」の制定を受け、「高規格救急車(高規格準拠救急車)」が登場しています。
高規格救急車とは、搬送中の車内でも、救急救命士が少しでも命を繋ぐための応急措置(プレ・ホスピタルケア)が行える機材も搭載し、処置のための空間も確保した救急車で、その第1号はメルセデス・ベンツ「310D」型でした。
それに続いて、さまざまな架装メーカーや輸入車ディーラーが、日野「クルージングレンジャー(京成自動車工業)」やフォード「Eシリーズ(近鉄モータース)」などをベースにした高規格救急車を用意。
日本初となる4輪駆動の高規格救急車で、現在も3代目が販売されている「トライハート(札幌ボデー工業)」も登場しました。
現在ではトヨタ、日産、札幌ボデーの3社のみが高規格救急車の販売を行なっていますが、そのひとつがトヨタの「ハイメディック」です。自動車メーカーとしては初の高規格救急車で、1992年に発売されました。
1989年デビューの4代目「ハイエース(スーパーロング)」を元に作られていますが、全幅を115mm広くして室内空間を拡大。
ルーフには、救急救命士が立ったままで処置を行えるよう、ハイエースのハイルーフモデルよりも高いFRP製ルーフパネルを載せています。
一見すると4代目ハイエースなのですが、車体寸法は全長5545mm、全幅1810mm、全高2490mmと、ハイエースよりもひとまわり大きくなっていたのです。
ルーフ上部に装着される前後の赤色灯(散光式警光燈)が巨大になり、デザインもルーフと一体化。
スライド式のリアドアを持たない右サイドの窓部分には、バールやシートベルトカッターなどのレスキューセットを格納する「サイド収納ボックス」を備えることも可能です。
車内のレイアウトは現場の声を反映して合理的に設計されており、防振ベッド、日本光電製のハイメディック専用車載専用型モニター付デフィブリレータ(除細動器)、輸液ポンプ、自動式心臓マッサージ器、救急伝送装置、酸素ボンベ、人工呼吸器などの医療装備を効率的に配することができました。
運転席と助手席(隊長席)から患者室へはウォークスルーができる構造として、スムーズな救急活動をサポートしました。
■ハイエースに「V8」 なぜこうなった?
初代ハイメディックを特徴づけていたのは、外観だけではありません。
各種装備・機器を積んで重くなった対策に、初代「セルシオ」にも搭載された「1UZ-FE」型4リッターV型8気筒DOHCエンジンを搭載していたのです。
救急車の使用環境に合わせ、最高出力・最大トルクの発生回転数を下げて実用性をアップ。
最高出力はセルシオの260psから220psへ、最大トルクは36.5kg-mから36.0kg-mにデチューンされていましたが、4代目ハイエースバンのラインナップ中最強のガソリンエンジン「1RZ-E型」がそれぞれ110ps/17.0kg-mだったことを考えると、ダブルスコアの圧倒的な性能アップを実現。
V8エンジンを搭載した「ハイメディック」(画像提供:さんまる氏)
総重量3tにも及ぶハイメディックの重い車体には、過剰ではなくむしろ必要なパワーだったといえます。
フロントグリルに「V8」エンブレムがさりげなく輝いているのもポイントです。なおトランスミッションは4速オートマチックでした。
当初は2輪駆動版のみでしたが、1994年にフルタイム4輪駆動モデルも追加。全高は2540mmに達しました。
足回りには電子制御サスペンション「TEMS」も採用。ブレーキング時に発生する車体の沈み込みや旋回時のロールを抑え、車内での円滑な医療処置に役立ちました。
このように高機能・高性能な高規格救急車として生まれた初代ハイメディックですが、それゆえコストも高い車両となってしまったのも事実です。
そのため1997年に後を継いだ2代目ハイメディックでは、ベースを「グランビア」(正しくは欧州仕様ハイエースのロングボディ)に変更するとともに、コストダウンが実施されました。
とはいえエンジンは180psを発生する3.4リッターV型6気筒「5VZ-FE」型が選ばれており、依然としてパワフルな救急車でした。ミニバン型になって最小回転半径が大きくなったため、4WSも搭載していました。
2006年には現行型となる3代目ハイメディックの発売を開始。ハイエース(現行型・200系)のスーパーロング版がベースとなりました。
150psの最高出力を誇る2.7リッター直4の「2TR-FE」型ガソリンエンジンを載せていますが、こちらはハイメディック専用ではなく、一般のハイエースにも積まれているユニットです。
※ ※ ※
初代ハイメディックは老朽化などによって引退が進み、現役で使用されている個体は数少なくなりました。
ハイエースの名前は使っていませんが、実質的には「V8を積んだ最強のハイエース」とも呼べる初代ハイメディック。
今後も「伝説の救急車」として語り継がれていくに違いありません。
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