日産が「温度上昇」防ぐ“特殊な塗装”を発表！ 最大「12度」冷やす「画期的塗装」の効果は？ 今後は「量産化」も視野

日産は人工物質「メタマテリアル」を採用した自動車用の自己放射冷却塗装の実証実験を公開しました。一体どのような塗装技術なのでしょうか。

■冬の夜から朝にかけて起こる「放射冷却」を引き起こす技術

　日産は2024年8月6日、自動車用の自己放射冷却塗装の実証実験を公開しました。
　
　人工物質「メタマテリアル」を採用した塗装で、夏場も直射日光による車室内温度の上昇を防ぐことができるといいます。

　メタマテリアルは放射冷却製品を開発するラディクール社と共同開発した物質で、電磁波、振動、音などの性質に対し自然界では存在しない特性をもつ材料だといいます。

　車両以外では、すでに建築用途として国内の各空港においてターミナル内ロビーや搭乗橋などで採用され、温度上昇を抑制する効果が確認されています。

　今回、日産はラディクールと共同し、メタマテリアルを用いて放射冷却の現象を人工的に引き起こすことで温度を低減する自己放射冷却塗装を開発しました。

　開発にあたり車両を用いた実験を行ったところ、通常塗装の車両と比較して自己放射冷却塗装を施した車両では、ルーフパネルで12度、車内の運転席頭部空間では最大5度の温度低下を確認したとしています。

　これにより、炎天下に長時間駐車していた車両への乗り込み時の不快感を低減し、エアコンの設定温度や風量の最適化により、燃費や電費の向上を図れると説明します。

　現在は商品化を目指して開発中であり、エアスプレーでの塗布や表面のクリアトップコートとの親和性など、車両採用に向け研究を実施。

　2023年11月からは、羽田空港を管理する日本空港ビルデングの強力のもと、ANAエアポートサービスの使用する軽商用バン「NV100クリッパーバン」で実証実験を実施しています。

　常時太陽光に晒され、かつタイヤカスなどが飛散する空港という厳しい環境下で、通常用途として使用することによって評価していくとしており、8月時点で通常の塗装と比較し劣化などの差はないといいます。

　今後はトラックや救急車など、炎天下で走行することが多い商用車への架装としての採用が予定されています。

　また今回の発表とともに、日産は報道関係者向けにメタマテリアルの自己放射冷却塗装を施した車両を公開しました。

　8月の炎天下に白いボディカラーのNV100クリッパーバンと軽EV「サクラ」を2台ずつ用意。いっぽうは純正塗装、もういっぽうは自己放射冷却塗装とし、それぞれ比較を行いました。

　塗装表面を触れてみると、純正塗装では数秒と触れられないほどの熱さでしたが、自己放射冷却塗装では暖かいと感じる程度で、熱を帯びていないことがわかります。

　実際に表面温度を測定する温度計を当てると、サクラでは純正塗装車の温度が45.3度であったのに対し、自己放射冷却塗装車では38.3度と7度低くなっていました。

　車内も同様に、純正塗装では乗り込むのにためらうほど暑く感じますが、自己放射冷却塗装では暑いものの問題なく乗り込める程度です。

　自己放射冷却塗装の開発に携わった日産自動車 総合研究所 先端材料・プロセス研究所 主任研究員 物理機能材料（メタマテリアル） エキスパートの三浦 進氏は以下のように話します。

「日産の塗料として品質基準を考慮して、自動車用の塗装にするための開発を継続しています。

　今後、実用化にあたっての課題は塗装の膜厚を薄膜化することです。量産車への採用は現状で難しいのですが、特装車として採用した後に、量産車、カラーバリエーションの展開も取り組んでいます」