スバルが「本格ハイブリッド」に本気! 他メーカーには真似できない“独自システム”新開発! 最新「S:HEV」一体何がスゴいのか?
くるまのニュース / 2025年1月7日 21時10分
スバル初のストロングハイブリッドシステムが「クロストレック」に搭載されます。このシステムは、トヨタのシステムを元にスバルが独自開発したものですが、一体どのような仕組みなのでしょうか。
■スバルが独自開発した「e-BOXER S:HEV」とは?
2024年12月5日、スバル「クロストレック」に「e-BOXER S:HEV(ストロングハイブリッド)」が追加されました。
同車に搭載されるこの次世代ハイブリッドシステムは、今後のスバル電動化の重要な鍵となり、今後様々なモデルに水平展開される予定となっています。
その概要を簡単に説明すると、水平対向4気筒エンジンに発電用/駆動用のモーターとリチウムバッテリーを組み合わせた「シリーズ・パラレル式ハイブリッド」です。
機構的には資本提携先のトヨタのハイブリッドシステム(THS II)を活用しながら、スバル車の構造に合わせてハード/ソフトともにスバル独自で設計されました。
筆者(山本シンヤ)はクローズドコースで行なわれた事前試乗会に加えて、リアルワールドでも試乗済みですが、ストロングの名の通り力強い走りと燃費の両立に加えて、「スムーズ(Smooth)」「静か(Silent)」「意のまま(Synchronize)」など、多くの「S」を実感しています。
このシステムはTHS IIを活用していることから、「トヨタから提供を受けたシステムをポン付けした」と思う人もいるようですが、簡単に言うと、発電用/駆動用のモーターとその仕組み(トヨタは2019年4月にハイブリッドの特許を無償で提供している)を活用しただけで、そのほかは全てスバルの独自開発したもの。要するにトヨタは“システムサプライヤー”として取引を行なっているわけです。
スバル車は、水平対向エンジンを縦置きにレイアウトしている上に、プロペラシャフト付きのメカニカルAWDシステムがデフォルトで、S:HEVだからといって“特別扱い”はしません。
その結果、S:HEV用のトランスアクスルは発電用モーター→ギア→駆動用モーターに加えて、下側にはフロントに駆動を伝えるデフ、駆動用モーター後方にはリアに駆動を伝えるカップリングが置かれました。
このマシマシのシステムを従来のトランスアクスルとほぼ同じサイズに収めるためには、独自開発じゃないとできないというわけです。
今回このS:HEVと組み合わされるAWDシステムは新たに開発されたメカニカルAWDです。
前60:後40のトルク配分を基本に、走行状態に合わせてリアルタイムにトルク配分をコントロールする考えはACT-4(アクティブトルクスプリットAWD)と同じですが、それをコントロールする多板クラッチが油圧式から電磁式に変更されています。
この辺りを開発者に聞くと、「ACT-4はトランスミッション(CVT)の油圧を活用できたので油圧式でしたが、S:HEVは電気CVT。AWDのために油圧経路を引くのは合理的ではないので、今回は電磁式を採用しました。ちなみに電磁式の知見は『WRX STI』のDCCD(ドライバーズコントロールデフ)であったので……」とコメントしています。
これまでスバルのAWDシステムは「常時四駆」が基本でしたが、S:HEVのAWDシステムは「低負荷の定常走行」かつ「ステアリングが直進状態」の時のみFF駆動になります(スバルは積極的にアナウンスしていませんが)。
これは燃費の面でメリットがあり、応答性の高い高出力モーターと電磁式クラッチの合わせ技を可能にしています。
そんなS:HEVのトランスアクスルを組み立てている工場が、埼玉県北本市にある「スバル群馬製作所・北本工場」です。そして今回、その工場を特別に見学することができました。
■トランスアクスルを生産する最先端の工場とは?
かつては建設機械や農業機器に搭載される汎用エンジン、スノーモービル用向けの車載エンジン、発電機などの生産・販売を行なっていた北本工場ですが、スバルが経営資源を自動車事業に集中させるために2016年11月に事業終了を公表。
2017年に汎用エンジン、2019年に3月に車載用エンジンの生産・販売を終了し、それ以降は部品物流倉庫として活用されていました。
しかし、2022年にリニューアル工事を開始し、2024年にS:HEV用のトランスアクスル生産工場に生まれ変わりました。
「スバルは電動の進捗が遅い」と言う人もいますが、実は数年前から着実に進められていたのです。
独自開発されたスバルのストロングハイブリッドシステム
スバル生産工場のリニューアルというと、軽自動車の生産を終了し、「86・BRZ」を始めとする乗用車用になった群馬製作所・本工場が有名ですが、北本工場はエンジンからトランスアクスルへの移管なので、リニューアルというより“刷新”と考えたほうがいいかもしれません。
エンジン生産の時とは機械も人も入れ替わっており、要するに建屋以外は新工場を立ち上げたと言ってもいいレベルなのです。
今回、生産の一部を駆け足で拝見しましたが、その印象は「スバルはストロングハイブリッドに本気」ということです。
2階建ての建屋には最新の機械・ロボットがズラリと並び人の姿はチラホラしか見られず、自動化がかなり進んでいることがわかります。この辺りは量産する上での大きな課題である品質向上/安定化に向けた「カンコツ作業(熟練作業員の勘とコツに頼ったマニュアル化できない作業)の低減」が目的です。
スバル車は他のクルマと比べると特殊な構造が故に生産する上で難しい工程が多く、そこはベテランの職人が担っていたところもありました。それはそれで良いことなので、逆を言えばその職人がいないと成り立たないともいえ、いつもで安定した精度を実現させるためには、機械化は大事だということです。
とは言っても、機械を扱うのは「人」であり、いくら優秀な機械であっても指示する人の能力以上のことはできないので、当然の事ながら生産技術の関する人材育成もしっかりと進められています。
なぜ、スバルがここまでこだわるのかというと、S:HEVシステムの要は「精度」だからです。
例えば、モーターは回転体なのでバランスが悪いと音や振動に繋がります。ちなみにモーターの回転軸と外側のステーターの組付け精度は±0.1mm。組み付け後に全数チェックしますが、一日作業を行なって誤差が出るのは1つあるかないかというレベルだそうです。
ちなみにS:HEV用のトランスアクスルはトヨタの同システムより複雑な構造が故に全長が長く、ケースは5分割となっています。
内部は精密機器の集合体なので外からの異物の混入はご法度で、細心の組み付け精度が求められますが、機械によるシール材を精密な動きで正確かつ適量に塗布する工程は「お見事!」の一言です。この思想は他のシステム(例えばエンジン組み付けや車体のシール材塗布など)にも応用できそうな気がしました。
そして極めつけは、最終組み立てが終わった後、全てのトランスアクスルの回転テストを行なってバランスのチェックすることにあります。
万が一問題があった場合は回転時の「音」が異なるそうですが、そのノイズをマイクが拾い、正しいモノとの周波数の違いをAIが判定してOK/NGを出すという最新技術を採用しています。
筆者は生産が立ち上がったばかりなので全数チェックしていると思ったのですが、関係者に聞くと「フル生産になっても全数チェックします」とのこと。ちなみにS:HEV用トランスアクスルの生産能力は年間18万6000台だそうです。
さらに、工場内を見学して感じたのは、「まだまだスペースに余裕がある」ことです。
こちらも関係者に話を聞くと、「需要が増えてもラインの増設や延伸が簡単にできる設計になっています」と言います。
加えて「弊社は大泉に新工場(2027年以降に稼働予定:スバル初のEV専用工場)を建設予定ですが、北本工場が事前に様々なチャレンジを行ない、良いモノは水平展開を行ないます」と教えてくれました。要するに北本工場はスバルの次世代生産を検討するパイロット工場としての役目も担っているわけです。
細かい部分では作業負荷の適正化(エルゴノミクス評価基準を適応)や勤務体系(昼勤固定制度など)といった取り組みにより、子育て世代・シニア世代が働きやすい環境づくり、衣・食・住も魅力的な工場づくり(食堂やジム、24時間稼働のコンビニなど)、ホワイト物流(部品の荷下ろしはトラックドライバーではなく北本工場のスタッフが行なう)なども行なわれています。
S:HEV用トランスアクスルの生産能力から推測すると、今後スバル車の5分の1がS:HEVになると予想でき、そうなると、北本工場が今後より重要な拠点になることは間違いありません。
次世代スバル車を支える「北本工場」、クルマ好きならばシッカリと覚えておきましょう。
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