群馬の研究所が絶滅危惧種キノコ栽培に成功 食用向かずも10年以上費やし多様性保全へ
共同通信 / 2024年2月11日 17時3分
環境省が絶滅危惧種に指定するキノコ「キリノミタケ」の人工栽培に群馬県桐生市の民間研究所が成功した。食用には適さないものの「多種多様なキノコの保全に貢献したい」と実現まで10年以上を費やした。背景には、世界初のシイタケ栽培技術を確立させた研究所創設者の思いがある。(共同通信=岩沢隼紀)
成功したのは一般財団法人「日本きのこ研究所」。キリノミタケは米国と宮崎県など西日本の一部に分布し、とがった卵のような形でキリの実に似ていることから命名された。皮が固く、食用には向かないとみられる。
非食用キノコの栽培技術について、研究所顧問の中沢武(なかざわ・たけし)さん(74)は、準絶滅危惧種のマツタケなどに比べ「栽培メリットが小さく、研究が進んでいない」と指摘。森林伐採や病害の影響で絶滅危惧種のキノコは61種に及ぶが、国は積極的に保護していないという。
DNAの保存は研究機関などで行われている一方で「生きた状態を保つべきだ」と考え、原木で菌を培養する人工栽培に着手。生育に適した温度や期間を調べ、2011年にキリノミタケの菌を打ち込んだ原木を地面に埋めた。
全く反応がなく諦めかけた2017年、初めてキノコが生えた。以降は毎年確認され、宇都宮大の解析を経て2023年11月に論文を日本菌学会に発表。採取した標本を東京・上野の国立科学博物館にも寄贈した。研究所は、絶滅危惧種のキノコ栽培の成功例はないとする。
キノコ研究の原点は創設者で農学者としても知られる森喜作(もり・きさく)(1908~1977年)にある。1930年代に大学の調査で大分県を訪れた際、シイタケの胞子の付着を願い、原木に祈りをささげる貧しい農民の姿に心を打たれ、研究に没頭。木片で培養したシイタケの菌を大分の農家に届けたとされる。
創設の1973年に、森が創業したキノコ種菌製造販売の森産業(桐生市)に入社した中沢さんは、森を直接知る数少ない存在。「利益の前に生産者や自然のことを考える森の姿勢をこれからも貫きたい」。保全への取り組みは緒に就いたばかりだ。
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