カクテル「雪国」生んだバーが移転 山形・酒田、街見守る変わらぬ店に
共同通信 / 2024年5月20日 15時13分
ウオッカやライムジュースの爽やかなグリーンにミントチェリーが沈み、グラスの縁には粉雪のような砂糖。日本生まれのスタンダードカクテルとしてファンも多い「雪国」を世に送り出した山形県酒田市の喫茶店兼バー「ケルン」が、昨年12月、市内の別の場所に移転し、再オープンした。店主の井山多可志さん(72)は「以前と変わらない味と雰囲気を楽しんでほしい」と話す。(共同通信=中村茉莉)
ケルンは父計一さんが1955年に開いた。寿屋(現サントリー)主催のホームカクテルコンクールに雪国を出品し、1959年にグランプリを受賞。計一さんの半生を追ったドキュメンタリー映画「YUKIGUNI」が2018年に公開されると、90歳を超えてもカウンターに立ち続けた計一さんの作る雪国を求めて全国からファンが訪れた。
計一さんは2021年に95歳で逝去。入居ビルの電気設備老朽化で、ケルンも2023年5月にいったん閉店した。店主を引き継いでいた多可志さんは、かつての回船問屋の建物が残る敷地の一角を移転先と決め、クラウドファンディングで資金を集めた。
高校卒業後、上京しロックに熱中していた多可志さんだったが、1976年に、1700棟超の飲食店や住宅が焼失した「酒田大火」を機に地元に戻った。地元の人々はケルンで朝にコーヒーを飲み、仕事の後に再び集まってカクテルを飲みながら語り合った。当時の「いろんな人が年齢や職業に関係なく隣り合う場所」が今でも理想の姿だ。喫茶を担当しながら、シェーカーさばきや接客術を覚えていった。
「時代に流されない店にしたい」と、新築の店舗は旧店舗で使ったケヤキ一枚板のカウンターや扉、椅子などを移し、かつての雰囲気を残すことにこだわった。出入り口は別だが老舗和菓子店と一体型で、和菓子の持ち込みもできる。
登山用語で小石を積んだ道しるべを指すケルン。多可志さんは曽祖父の代から酒田で商いを続けてきた井山家の歴史に重ねる。「小さな石を積み重ねるように、一日一日と続けていきたい」
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