「神様のルール」で風土表現 奈良県唯一のワイナリーの挑戦
共同通信 / 2024年6月2日 18時3分
夏は蒸し暑く、標高の低いなだらかな土地―。盆地特有の気候などを背景に、ワイナリー空白地帯だった奈良県で2022年、県唯一のワイナリー「木谷ワイン」が誕生した。代表の木谷一登さん(34)は「ブドウ栽培に向かないとされる土地ですが、歴史や自然が根ざす奈良の風土を表したワイン造りに挑みたい」と意気込む。
奈良県香芝市出身の木谷さんは、大学院で糖尿病の予防法を研究した後、大阪の地方銀行に入行。仕事は充実していたが「『人が決めたルール』をうまくこなした人が評価される空気が息苦しかった」と振り返る。
「人が決めたルール」とは違う軸で生きたい―。15年に退職し、好きだったワインの道に進むことを決断。独立に向け大阪府内のワイナリーで修業し「木谷ワイン」を立ち上げた。
湿気を嫌うブドウの栽培は簡単ではない。それでも化学肥料を極力使わず、自然栽培を続ける。手間がかかり、収穫量は多くないが「自然と調和しながらいいものを育てたい」と試行錯誤する。
ワイン造りの工程で、畑でブドウと向き合う時間が一番好きだという木谷さん。「自然が相手なのでいうなれば『神様が決めたルール』」と笑う。「虫が付かないよう薬剤をまくなどの人為的なコントロールを避ける分、平均的な味に落ち着かないのも魅力」と語る。
県内で造ったブドウは、涼しい地域で育ったものに比べ、酸味が穏やかだという。そのため、ワインになじみのない層にも、親しみやすい味わいに仕上がるのが特長だ。
製造量も徐々に増え、23年度は約1万5千本を出荷した。海外市場では希少な日本産の自然派ワインに関心が高まっているといい、一部は欧州連合(EU)圏にも輸出している。
今後は輸出により力を入れたいと話すが、県唯一のワイナリーとして地域イベントへの参加も欠かさない。「目指している『奈良らしさ』はどんな味に表れるのか。飲み手にも考えてもらいながら一緒に答えを探したい」と願う。
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