和平合意10年、疎外されたままの先住民 フィリピン・ミンダナ、収奪された土地
共同通信 / 2024年11月23日 8時8分
フィリピン南部ミンダナオ島でモロ・イスラム解放戦線(MILF)が政府軍との戦闘の末、包括和平合意を結んでから10年がたった。2025年5月には選挙を経てイスラム自治政府が発足する予定だが、非イスラム教徒の先住民族テドゥライは疎外され、先祖伝来の土地を奪われたまま。土地返還を求めるが、2018年8月以降だけで75人が殺され、迫害が続く。(共同通信マニラ支局=佐々木健)
▽聖地に戦闘拠点
イスラム自治区のコタバト空港から重武装の警官13人に護衛され、車で1時間移動。舗装道路が途切れた後、さらに約30分間、山道を歩いて登り、フィリス集落にたどり着いた。
テドゥライの地域指導者ジョベル・テノリオさん(43)は集落の隣にあるフィリス山を指さし「私たちの聖地だ。テドゥライは各地に散り散りになってしまっても、心はここにある」と訴えた。1996年、一帯をMILFが戦闘拠点に変えたことで「大規模な戦闘が起き、先住民が犠牲になった」。
▽返還要求に脅し
2014年の和平合意後も土地の大半はイスラム系の有力者らが占有を続け、バナナやココナツの栽培、鉱物資源採掘で利益を上げようと狙う。土地の権利回復を訴えるテドゥライの指導者らの殺害が相次ぐが、犯人が裁かれることはない。テノリオさんは「私たちは脅され続けてきたので、大半が声を上げることを恐れている」と説明した。
和平を拒否するイスラム過激派からも被害がある。農業を営むルディ・マンディさん(53)は、過激派が2017年に集落を襲い、避難を強いられたと証言した。MILFに取って代わって駐屯している軍の援護で集落に戻ってこられたが、自宅は弾痕だらけになった。「軍がいなければ、生き残れなかっただろう」
テノリオさんによると、軍駐屯地から離れた集落では同時期、過激派が民家27軒を焼き払い、先住民2人を縛って首を刃物で切りつけた後、銃殺したという。
▽抑圧の転嫁
フィリス集落を含むMILFの戦闘拠点跡地には、元戦闘員の住居建設計画が進む。先住民を蚊帳の外に置いた和平交渉の結果だ。テノリオさんは「一緒に暮らしたくはない」と憤った。
テドゥライの最高指導者レティシオ・ダトゥワタさん(49)は、MILF主導の暫定自治政府が、先住民の土地の所有権を認めず、和平合意で制定が決まった先住民保護の法律も骨抜きにしようとしていると批判。「この地域で抑圧されてきたイスラムの人々は今、少数民族を抑圧している」と嘆いた。
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