機械学習と分子シミュレーションを融合した 高分子材料自動設計ツールSPACIERの開発
共同通信PRワイヤー / 2025年1月29日 14時28分
本研究では、ベイズ最適化や能動学習などの適応実験計画に基づき、RadonPyの計算機実験を循環的に実行しながら高分子材料を設計するソフトウェアSPACIER (materials SPAce frontIER) を開発しました(図1)。統計数理研究所の研究グループが中心となって開発を進めているオープンソースソフトウェアRadonPyは、高分子材料系のさまざまな計算機実験を全自動化するツールです。高分子の繰り返し単位の化学構造、重合度、温度などの計算条件を入力すると、配座探索、電荷計算、力場パラメータの割当、ポリマー鎖の生成、シミュレーションセルの構築、平衡・非平衡計算、物性計算などの全工程を完全に自動実行します。現在公開されているバージョンには、熱物性、光学特性、力学特性など、17種類の物性を自動計算するアルゴリズムが実装されています。SPACIERは、RadonPyの機能を基盤とし、適応実験計画法のアルゴリズムを組み合わせることで、効率的かつ戦略的な高分子材料設計を可能にします。このツールの開発により、高分子材料の探索や特性最適化が飛躍的に進むことが期待されます。
今回の研究では、SPACIERの実証実験として、光学用高分子の探索を行いました。光学用高分子はメガネやカメラレンズなどに用いられる材料であり、その主な要求特性は高屈折率と高アッベ数です。アッベ数は、透明体の色分散、すなわち屈折率が波長よってどの程度変化するかを示す指標です。しかしながら、屈折率とアッベ数の間にはトレードオフが存在し、両方の特性を同時に向上させることは難しいとされてきました。このトレードオフにより、経験的な限界線が形成され、多くの既存材料がその範囲内に収まっています。本研究ではSPACIERを用いた計算機実験を通じて、この経験的な限界線を越える高分子を網羅的に探索しました。その結果、新たに合成された高分子材料は既知の限界線を越えることが実験的に確かめられました(図2)。
このようにSPACIERを活用することで、屈折率・アッベ数以外にもRadonPyで計算可能な広範な物性・材料空間や、そこからキャリブレーション可能な実験物性の目標領域に存在する高分子材料を網羅的に同定できます。現在、統計数理研究所の研究グループは、2国研・8大学・37企業と産学連携コンソーシアムを形成し、RadonPyの共同開発を推進しています。この取り組みを通じて、データ駆動型高分子材料研究が益々発展していくことが期待されています。
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