社説:ゲノム医療法 差別防止と発展、両輪で
京都新聞 / 2023年7月12日 16時0分
がんや難病を患う人のゲノム(全遺伝情報)を調べ、適切な診断や治療をするゲノム医療推進法が先の国会で成立した。
ゲノム医療を後押しする基本計画策定を国に義務づけ、遺伝情報による差別への対応を求める。
欧米では「遺伝情報の活用と差別防止は車の両輪」とされる。ようやく日本も国際標準に向けて一歩を踏み出したといえよう。ただ罰則規定がなく、実効性が課題になる。国と医療界は差別や偏見、不利益な扱いを生まない取り組みを急がねばならない。
ヒトゲノムの解読完了から今年で20年。がんや希少疾患などに関わる遺伝子の働きが解明されつつある。遺伝情報から病名を割り出したり、個別の治療法を決めたりする手法が実用化されている。
一方、ゲノム解析で得られたデータは究極の個人情報でもある。雇用や保険契約、妊娠などで用いられたり、他者に漏れたりすると「遺伝差別」を招きかねない。
米国では2008年に遺伝情報差別禁止法が成立し、事業者の遺伝情報取得や保険加入制限を禁じた。欧州や韓国も同様の法を整える中、日本では与野党の超党派議員連盟が18年から検討を始めた。
議員立法による推進法は「幅広い医療分野で世界最高水準のゲノム医療を実現する」とし、国の施策として差別対応のほか、生命倫理への配慮▽適切な情報管理▽国民理解への教育推進▽専門人材の育成や確保―などを求めた。
東京大などの17年と22年の両調査で、約3%の人が遺伝差別を受けた経験があると答えた。保険加入の拒否や婚約の解消、勤務先での降格などが具体的に挙がった。こうした実態を国が把握し、何が遺伝差別に当たるのかを整理して明示することが欠かせない。
病気のリスクを高めるゲノムの違いは、誰にでもあり得る。「遺伝差別は人ごとではない」との認識が国民に広く共有されるには、教育や普及活動が鍵になる。
ゲノム医療で患者や家族が将来の病気リスクを知り、不安に陥る例も増えよう。相談体制も重要だ。
がん患者の遺伝子検査で効果がありそうな薬を探すゲノム医療は一部が保険適用になっているが、推進法制定を受け、対象拡大を求める声が高まっている。京都大などの研究でも、早期の検査により、従来の約3倍のがん患者に有効な治療ができたという。
難病の治療法探索や新薬開発なども含め、良質なゲノム医療の発展と普及への契機としたい。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
旭川医科大学とがんゲノム医療に関する共同研究講座を開設
PR TIMES / 2024年7月2日 16時40分
-
ACT GenomicsとLSIメディエンス、日本国内における戦略的パートナーシップと協業に関する覚書を締結
共同通信PRワイヤー / 2024年7月1日 15時54分
-
がんゲノム検査、負担軽減を検討 厚労省、5年で7万6千件超
共同通信 / 2024年6月29日 19時32分
-
全国の「がん遺伝子パネル検査実施患者」106人に調査 検査実施患者の半数以上が難しさを理解しつつも「治療薬・治験の拡大」を要望
PR TIMES / 2024年6月19日 15時15分
-
改正再生医療法が成立 体内での遺伝子改変対象に
共同通信 / 2024年6月7日 12時42分
ランキング
-
1バイデン氏が大統領選を辞退したら何が起こるか トランプ氏に勝てる若い候補が出現する可能性も
東洋経済オンライン / 2024年7月3日 10時30分
-
2人骨、731部隊と関連か 新宿で発見、文書に示唆
共同通信 / 2024年7月3日 6時53分
-
3殺人事件発端は「ラーメンを食べる画像」なぜ…きょう勾留期限・旭川市女子高校生橋から転落殺人
STVニュース北海道 / 2024年7月3日 6時36分
-
4なぜ日本のメディアでは小池百合子都知事の「荒唐無稽な噓」がまかり通るか《カイロ大「1年目は落第」なのに首席卒業》
文春オンライン / 2024年7月3日 6時0分
-
5【続報】欄干に座らせている動画発見…謝罪させられている場面も 旭川女子高校生橋から転落殺人
STVニュース北海道 / 2024年7月3日 11時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)