社説:いじめ防止法10年 子どもに向き合えているか
京都新聞 / 2023年8月7日 16時0分
大津市立中2年の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件をきっかけに「いじめ防止対策推進法」が制定されて、今年で10年になる。
文部科学省の2021年度調査によると、小中高校でのいじめ認知件数は61万5351件で過去最多だった。法律の施行を機に、いじめを見逃すまいとする機運が高まっていることも増加の背景にあるとみられる。
いじめが原因で心身に重大な被害を受けたり、不登校になったりした疑いがある「重大事態」は705件に上り、過去2番目の多さだった。
深刻ないじめが後を絶たない現実を、学校はもとより、社会全体で改めて直視しなければならない。
重大事態について、法律や文科省のガイドラインは、第三者委員会による速やかな調査を行うよう求めている。ところが、学校や教育委員会がいじめを認めようとせず、調査が遅れるケースが各地で相次いでいる。
事案を過小評価し、内輪で対処しようとする体質が今なお残ってはいないだろうか。大津の事件の教訓を生かし、教育現場はいじめ被害の訴えに真摯(しんし)に耳を傾けてもらいたい。
東近江市の私立滋賀学園中で、生徒がいじめ被害を訴えて不登校になっているのに、第三者委による調査をせず、約1年間も事案を放置していたことが先月判明した。
学内調査で不登校はいじめの結果ではないと判断していたことから、第三者委は必要ないと考えていたという。学校側の認識不足は明らかだ。
学校は後に設置を決めたが、人選でも保護者側の不信を招いた。法人役員の推薦したメンバーを入れたためである。
第三者委を巡っては、委員選任の手続きがルール化されていないとして、被害者家族やいじめ問題に取り組む団体などが法改正の必要を訴えている。
委員の公平さや中立性は、被害を訴える当事者や保護者の信頼を築き、真相究明と再発防止を進める上で欠かせない。
私学での重大事態の調査については、都道府県の私学所管課がより関与すべきだとの指摘もある。
いじめ防止の実効性を高める法改正に向け議論を急ぐとともに、政府や自治体は、学校や教育委員会による調査に必要な支援を惜しむべきではない。
法律施行からの10年で、いじめの態様も変化している。スマートフォンが子どもたちにも広く普及し、インターネットやゲーム、SNS(交流サイト)を使ったいじめに、学校や保護者が気付きにくくなっているとの声が多い。
いじめの兆候を見逃さず、大切な命を守るため、学校と保護者、地域が協力し、子どもたちと向き合っていく姿勢が求められている。
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