社説:戦没者の遺骨収集 ふるさとの地へ一日も早く
京都新聞 / 2023年8月21日 16時0分
第2次世界大戦の海外戦没者は約240万人。今も未収容の遺骨は約112万柱に上る。帰らぬ兵士らの遺骨は、置き去りにしてきた戦後日本のありようを無言で物語るようだ。
15日の戦没者追悼式で岸田文雄首相は「国の責務として、ご遺骨の収集を集中的に実施する」と述べた。遺族の高齢化が進む。急がねばならない。
政府は、未収容遺骨のうち約23万柱は相手国の事情などにより収集困難だとしている。例えばミャンマーの未収容遺骨は4万5千柱だが、治安悪化で現地調査が進まない。引き続き、真摯(しんし)な外交努力が不可欠だ。
沖縄のほか、硫黄島でも日本兵2万2千人が戦没し、半数の遺骨が未収容である。自衛隊基地と米軍施設が置かれた同島は、戦時中の強制疎開以来、一般人は住むことが許されない。フィリピンには36万柱が残る。
国が戦没者の遺骨をDNA鑑定するようになって10年。京都大など12大学が検体解析に尽力し、昨年には厚生労働省が戦没者遺骨鑑定センター分室を新設した。だが遺族の約7千件の申請に対し、身元判明は約1200件にとどまる。
日本人ではない遺骨を海外で集め、厚労省が放置していた不祥事が2019年に発覚したのを受け、20年からは日本人かどうかを鑑定する所属集団判定も始まった。約7千件のうち、劣化し判定できないケースが約1400件、日本人の可能性が低い遺骨が100件あった。
6月には戦没者遺骨収集推進法が改正され、集中実施期間が5年延長された。基本計画の変更を閣議決定し、戦後80年が近づく「時の壁」にDNA鑑定の高度化で臨むとした。技術の精度向上に期待したい。
身元特定は遺族の申請がなくては成立しない。全額の国費負担や対象地域の拡大を、もっと周知するべきだろう。
基本計画は、遺骨収集に幅広い世代の参画を盛り込んだ。
民間努力で続けられてきた遺骨収集の旅は、現地住民の思いに触れるだけでなく、日本軍が戦場とした国々が戦後どんな歴史をたどったか、日本と今どんな関係にあるのかに直面するという。若い世代の参加は、戦争の実相を継承する上で重要だ。
現地では、戦火に巻き込まれた住民や交戦国兵士の遺骨も眠っている。尊厳をもって相手国に届けたい。
日本国内にとどめたまま、故国に返還していない遺骨にも目を向ける必要がある。沖縄戦では朝鮮で動員され亡くなった人、ビルマ戦線では台湾から動員され亡くなった人もいる。
日本軍人軍属として戦没した朝鮮出身者の遺骨を保管してきた東京の祐天寺では、舞鶴湾で爆沈し多数の朝鮮出身者が亡くなった浮島丸事件犠牲者の遺骨が今もまつられている。政府間の交渉が求められる。
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