京アニが見せた「復活の兆し」事件以来の代表作公開、元社員が語るスタジオの現在地とは
京都新聞 / 2023年8月26日 6時0分
2019年の放火殺人事件で社員36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション(本社・宇治市)が再生の歩みを続けている。今夏、事件を挟んで4年ぶりに公開された代表作「響け!ユーフォニアム」シリーズの続編では、「京アニクオリティー」と称される繊細な表現を見せつけた。事件の公判が9月に迫るタイミングでの封切りに、元社員は「『私たちは負けないぞ』というスタッフの意志を感じた」と胸を震わせている。
■声優が亡きスタッフへの敬意
「オープニングに出てくる(スタッフの)名前を端から端まで見て、受け止めてほしい」
「特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト」が劇場公開された直後の8月6日。主人公を演じる声優の黒沢ともよさんは京都市内の映画館で、舞台あいさつに駆け付けた約300人のファンに語りかけた。物語の冒頭、スクリーンに映し出されたのは、事件で命を落とした2人のアニメーターの名前だった。
池田晶子(本名・寺脇晶子)さん=当時(44)=と、高橋博行さん=当時(48)。宇治市を舞台に、吹奏楽に打ち込む高校生の青春を描いた「ユーフォ」シリーズの世界観を作り上げた立役者で、今作も主要スタッフに名を連ねた。黒沢さんの言葉からは、亡きクリエイターへの敬意がにじんだ。
池田さんは今作に登場する約70人のキャラクターをデザインし、高橋さんは精緻な楽器作画の基礎を作った。この2人だけでなく、4年前に「ユーフォ」の前作に携わったスタッフ31人が犠牲となり、続編への影響が懸念されていた。
■「作品の中で、彼らは生きていた」
「亡くなったスタッフの意志を、しっかりと受け継いでいると感じた。彼ら、彼女らは作品の中で生きていた」
創業間もない1985年から32年間、京アニに在籍したアニメーターの上宇都辰夫さん(59)の感慨は深い。続編では、これまでの作品群と遜色ない、リアリティーにあふれた映像美が実現されていたという。
池田さんが務めていた総作画監督は、後輩に引き継がれた。「普通は人が替われば、絵柄は変わるものだが、忠実に守られていた。(池田さんへの)敬意が表れていた」と上宇都さん。金管楽器の表面に映り込む、たわんだ景色まで描いた高橋さんの技術も踏襲され、キャラクターの細やかな指使いと楽器の音色が見事に調和していた。
京アニは事件後、大きな痛手を負いながらも、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「ツルネ」など人気作品の続編を計9作、劇場版やテレビアニメとして世に送り出してきた。今年7月時点の社員数は約190人に増え、事件当時(176人)を上回る。業績面も堅調で、信用調査会社によると、売上高は事件後に微減したが、現在は約24億円と以前と同水準に回復した。
■「京アニの採用は今も超難関」
アニメーション専門学校の講師でもある上宇都さんは「優秀な生徒でも1次試験を通過するのは難しい。京アニの採用は今も超難関」と、全国から才能が集まるブランド力は不動だと語る。
ただ、現在の京アニは「復活の兆し」の段階で、人気シリーズの続編にとどまらず、新たなオリジナル作品を生み出せるかが飛躍の鍵を握るとみている。
■「俺を超えていけ」天才の遺言
京アニの礎を築き、「天才アニメーター」として社員から師と仰がれた木上益治(よしじ)さん=当時(61)=は事件で亡くなる前、「俺を超えていけ」と後輩たちに発破をかけていたという。
上宇都さんは「5年、10年かかってでも、天国の木上さんに『いい作品だ』と言ってもらえるアニメを作ってほしい。それが恩返しになる」と古巣に思いを託す。
事件から4年の命日となった7月の追悼式で、京アニの八田英明社長は新たなアニメ作品への意欲を示した。
「新人も入り、少しずつ力を蓄えてきた。力がつけば、新作はおのずと出てくるものと思っています」
◇
京都文化博物館の森脇清隆映像・情報室長の話
「響け!ユーフォニアム」の新作映画は事件前の作品と見分けが付かないほど、非常に高いクオリティーだった。京都アニメーションは美しい宇治川、人々の温かな交流がある商店街など実在する風景を描き、京都の今の生活文化を次代に伝えてきた。地域の恩恵は大きく、京アニの存在感は事件後も変わらないと思う。
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