出版不況でも「町から本屋の灯は消さない」夫婦が選んだのは絵本の専門店
京都新聞 / 2023年9月22日 9時4分
白を基調にした壁にゆったりとした店内の棚には、サイズがまちまちのカラフルな絵本が並んでいる。「絵本の良さは紙でしか伝わらない。これからも紙で読み継がれていくはず」。京都府亀岡市千代川町の国道9号沿いで、絵本と児童書を専門に取り扱う「絵本の店 さわだ書店」を営む澤田直哉さん(50)、なつめさん(49)夫妻は力を込める。
店は2年半ほど前まで、売れ筋の本や雑誌を所狭しと並べるごく普通の書店だった。本が大好きだった直哉さんの母・和子さん(76)が1974年に開店。のちに2人が引き継ぎ、京都市右京区の自宅から通っている。活字離れや電子書籍、通販の普及で売り上げが減少しても「町から本屋の灯を消したくない」と、直哉さんが行政書士を兼業して続けてきた。
だが20年から始まった新型コロナウイルスの流行で、経営を支えていた病院や喫茶店など商店からの定期注文が相次いでなくなった。固定費を賄えなくなるほど業績は悪化し、閉店も頭の中をよぎった。
苦境の中で着目したのが、長引く出版不況でも売り上げを伸ばしている絵本と児童書だった。周囲からは「経営が成り立つわけがない」と、専門書店化を反対された。だが生後間もなかった「娘のためになるようなことをしたい」との思いも2人を後押し。店内を大改装し、21年2月に再出発した。
絵本を置く棚は直哉さんが手作りした。千冊以上あり、月1回ほど入れ替えているという。図鑑や童話、小説などの児童書も豊富に取りそろえている。
親子で長く過ごしてほしいと、店内の中央には小さなテーブルと椅子を置く。月1回第4土曜には市内在住の絵本・童話作家の北川チハルさんによる読み聞かせを開き、なつめさんが教える学習塾も併設する。
目指すのは、ただ本を売る店ではなく「地域の親子のコミュニティースポット」だ。「子育てする人の情報交換、心のよりどころになりたい」
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